第七章 関八州は虎尾春氷
度し難き者
●度し難き者
「最近、親分さん達の威名を使い、大それた企てを試みようとする者が居ります」
わしの一句に安五郎親分は、
「天狗と名乗る
かなり苛立たされているのだろう。頬を引く付かせて吐き出した。
「天狗などと御大層な名乗りをしておりまするが。精々が悪戯小僧の小天狗に過ぎませぬ。
大体、他人様が自分の望み通りに動いてくれるなどと
なんと言う大らかな子育てで有りましょう。彼の者達の親は、聖賢の書を読ませはしたものの、何一つ人の道を教えてはおりませぬ。
恐らく彼の者達の親は、幼き頃から脇目も振らずに学びの高嶺を登らせたのでございましょう。
否と言い、柱に縋って遁れよととすれば。無理矢理に引き剥がし、爪痕を柱に残す様が見えまする。
熱鉄身を焼く夏の日に、痒みを覚え掻いてしまう事あらば、学問を軽んじていると
天上に輝く学びの星を指差して、
されど、
学問をして自らを律する者も多けれど、有体に申せば世間知らず。
その様な者に。権威は嘘をついていると、複雑な話を単純化して突き付ければ。
学問は有れど単純な若者は、世に潜む巨悪を我は見抜いたと
これぞ学びにおいての阿片の毒。学問漬けで
己を天の
天に代わりて不義を討ち、奸賊を
昭和の大阪万博を前後して最高潮に盛り上がった学生運動は、この理屈でオルグされ、過激派に加わった者が多い。そうした彼らがどうなったか?
その
総括と言う二文字と共に。
わしの言葉に安五郎親分は、
「難儀なことだ。俺はほんなガキに付き纏われてたのか」
と溜息を吐いた。
「彼らの様な者共に付き合っておれば、いずれ駒として使い潰されましょう」
そしてわしは一首の歌を諳んじる。
「嫌へども 命のほどは 壱岐(生)の守 身の終わり(美濃・尾張)をぞ 今は賜わる」
「勝、亀。覚えて置くがいい。若様の言う事は多分本当だ」
実はかなりの学がある安五郎親分は、聞いてすぐさま何の事か理解して盛んに頷いた。
「渡世人ならば、渡世の義理で大仕事(殺人)を成していることもございましょう。
源頼朝に犬馬の労を捧げ大事が成しその後は、旧悪を以て
またこれは、ご公儀の御用であっても同じ事。権持つ者の多くは、渡世人を都合の良い駒としてしか見ておらぬと、眉に唾を付けて備え置くことが肝要かと。万が一、
わしは注意をして置いた。前世の維新では、利用するだけ利用されて始末された渡世人が少なくなかったと聞いていたからだ。
所謂、トカゲの尻尾切りや走狗煮られるの類である。
「
合わせて、これも忠告をして置く。
「そうけ」
声と同時に安五郎親分は、片膝を立て肩肌を脱ぎ。身を乗り出して、わしの脇差の間合いに半寸ばかり入り込んだ。
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