スタンダード1
●スタンダード1
一般に。職人と言うのは気難しきもの。腕の良い
匠の
小銃一つを取り上げても、それぞれの
わしは今まで、ライフルを刻む
彼は得難き名人であるが、既に彼一人では追い付か無くなって来ていたのだ。
仁吉が集めた主だった鍛冶の親方達に向かって、わしは自説を述べる。
わしの後ろで
「皆様はそれぞれ天下一の名に連なる名工にございまするが、匠
今こうしている間にも、大量の
鉄砲・
旧来の遣り方に拘っては、必ずやその物量に圧し潰されてしまうことでしょう。
万夫不当の武者も、鉄砲の弾一つで
その鉄砲さえも今は機械の世の中にて。千挺の鉄砲をバラして部品毎に分け、富くじを突くかのように混ぜ合わせても、元の千挺に戻すことが出来るのでございます。
対して八島の
物は何時かは壊れるもの。例えば鉄砲のただ一部が壊れたとして、職人の業には替えがございませぬから、百挺の壊れれば百挺が失われます。
されど外国の鉄砲は、壊れていない部分を組み合わせて五十挺、あるいは八十挺の鉄砲とすることが叶いまする。
同じ百挺の鉄砲で戦っても、永く戦いが続けば行方は
敵が黒船で来たならば黒船を
それ故、
こう言ってわしは、皆に向かって最敬礼で頭を下げた。
「それで、わしらはどうなるのかね」
「何をすればよいんだ?」
ざわめきの声が流れるが、わしはそれが鎮まるまで頭を下げ続けた。
「例えば芝居小屋は、千両役者だけで成り立つわけではございませぬ。
端役に使う者共は、役者と申さず
大工の棟梁は、柱の一つ板の一枚に至るまで全てをお一人で扱い、家を建てる訳ではありませぬ。
配下の大工を使い熟して、自らは本当に統領だけしか出来ぬ仕事に専念致します。
武家の大将もまた同じ。自ら槍を振るって戦っても、一人の武勇は知れております。
船を穿ち沈める程の強弓をもってしても、
天下一の剣豪が累代の名刀を惜しげなく使い潰しても、
一人の武勇は百の、あるいは千の軍勢に敵わぬのでございます。
それ故、登茂恵は呼び掛けるのです。
親方の皆様。そして腕の立つ職人の皆様より人足の仕事を取り上げ、千両役者をやって頂きたいと。
皆様が足軽ではなく大将になって頂かねば、
ここでわしは言葉を区切る。ざわめきが波紋と広がり、そして鎮まるのを再び待つ。
この様子を遠巻きにして。
これは何事かと身構える町方の者や、御親兵と町方の一合戦を見物しようと押し掛けて居た野次馬共。
そして良いネタと筆を執る瓦版屋の面々が見詰めていた。
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