鯨公の戯れ2
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「まぁ飲め。そちも
小さな玉杯に酒を注がせながら。
「お
お目見え以下の郷士の
「
玄酒とは祭礼に使われる水の事である。
「我が菩提寺である
「山号は神の力と書きまするが、何と読むのでございましょう。
「こうりき? 聞かぬなぁ。
山号の『じんりき』は法華経にある
そんなこんなの他愛もない話を重ね
されどこのような鯨飲しつつも、未だ正体は失っては居ない。その鋭き眼は静かにわしらを見つめている。
「のう
辺りを見回しながら、土州侯様は尋ねた。
「もしもわしが戦国の世に生まれていたとしたら。どんな武将になったであろうか?」
「お惧れながら、殿のご英慮を勘案するに毛利元就公かと」
不意のご下問に象二郎殿が答える。
されど、
「元就公であるか……」
土州侯様は物憂げに口にされた。
すると
「お惧れながら」
と割って出て、
「殿のご気宇を拝見する限り、殿は
と申し上げると、
「そうか……」
土州侯様は機嫌良く盃を飲み干した。
どうやら
土州侯様は小姓と言う名の壮年の男に酒を注がせながら、続けてわしにも同じ事を訊く。
「登茂恵殿ならば、わしを誰に
「
「では信長か?」
「
「ならば誰じゃ?」
正体は失っておらずとも、酔いは人を絡ませる。
「斗酒猶辞せずの豪傑である土州様ならば、寧ろ軍神・上杉謙信公こそ擬えるに相応しいかと」
「謙信か」
「はい。信長公に堂々勝利なされた御方にございます」
東洋殿が擬えた信長公。それに勝る武将だから挙げたのだと言っておく。
「世が世であるならば、土州侯様は力山を抜く無双の覇王とお成り遊ばされる事でありましょう」
と持ち上げた。
「覇王か……ふん」
土州侯様は鼻で笑って
「さてさて。そちは岡田
「左様にございます」
「上様のご所望により、そちに
土州侯様ははっきりと
「わしが今覇王ならば、或いはそちは今
快く送り出す故、恩に感じるならば、もしも敵の大将となった時には山之内の血を遺してくれよ」
どこまで戯れかは判らない。赤ら顔で酔った声だが、土州侯様の眼は獅子のように鋭かった。
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