地獄の男
●地獄の男
「駄目なのだ! それでは駄目なのだ!」
彼からすれば、あまりにも突飛な考えだからであろう。
これも
「世の者が全て、道理に基づいて動くものならば、あるいは
されど十中九の者は、道理だけでは動きませぬぞ。
あるいはこ奴を好いておるから。あるいは義理や
様々な理由で道理に叛く事をやって退けます。
賞と罰。韓非子の説く
天下を
宰相たる者。
姫にそのお覚悟はござりまするか?
世に新参者を嫉み、誹り蔑む者の数知れず。姫はこれをどう為されるお積りか?」
繰り出された
「口を開けば
時を得ざるして
されど。彼らの赤心により、地を掠めようとするメリケンより八島の地境が護られたと聞きます」
「利いた事を。
されど、
タン! と膝で能を舞うが如く踏んで一歩迫り、彦根中将様は続けた。
「今、長姫殿の敵と成ろう者を
しかし、これはまだましな方。己が無能を知るが故、盆暗でも務まる席を与え、尻で畳を磨かせておけば済む話。
寧ろ、奉行が務まるくらいの能ある士にて、面倒見の良い親分肌の者の方が始末に負えませぬぞ。
彼らは太平の世なれば、必ずや能吏として終りを全うした者達でありまするが、今は国難の時。
先例・仕来りでは済まされぬ舵取りの求められる昨今に於いて、なまじ有能が故に姫とぶつかる事でありましょう。姫が上様のお覚えめでたきが故の
大樹公様の席次第一の座は、生まれついての家柄無くして有り得ぬ事。ゆえに彦根中将様は間違いなく高貴の生まれ。それも累代の股肱の臣であろう。
しかしどうやら、彼は只の貴人では無い。相当の苦労人と見た。
多分、彦根中将様がわしの意見を咎めるのは、自身の面子がどうのと言う低次元の問題ではない。ただ純粋にわしの身を危ぶんでのことであろう。
仕方ない。内は百余の
「卒爾ながら……」
わしは彦根中将に向き直り、
「八島が
しかし、彼に
今より兵を
祖法祖法と申しまするが、八島は長き太平に慣れ権現様の時代の武威を失っております」
「聞こう。どう劣っている」
彦根中将様は、わしが既に旗本の体たらくを挙げている為、頭ごなしに否定はしない。
「大樹公家の
一度持ち上げたわしは、ここで一拍於いて、
「されど!」
と法螺貝のように遠く声を響かせた。
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