白い虹3
●白い虹3
「
わしは右手で抜き身の刀を采にして、隊を全速力で突入させた。
腰溜めに着剣したゲベールライフルを構えて、二人が組を成しての突撃だ。
パパパン! パパン! わしが馬賊撃ちに左手の新式拳銃を発射。距離が遠く大雑把な狙いだが手数が違う。賊の二人が刀を落とし、肩や腕を押えた。
「鉄砲を使う! 彦根はお
わしは味方撃ちを避ける為、銃声をも掻き消すような大声でそう
合点した藩士達が、彦根中将様のお駕籠を囲む。これで敵味方の区別は付いた。
弾倉を換える為止まったわしを追い越して、先頭は賊に走り寄ると、丁度野球のヘッドスライディングかバレーボールのフライングレシーブのように身体を投げ出し、寝撃ちでパーン!
ご府中の街中ゆえ、外れ弾が賊以外を傷付けるのを防ぐ為である。この角度ならば逸れた弾の向うには空しかないからだ。
その頭を跳び越す様に後続の者が身体ごと賊にぶつかって行く。勿論、弾の込められた銃を持ってツーマンセルの連携を取ってだ。
「抜けない!」
急所に突き刺して戦闘能力を奪ったものの、敵の筋肉が刃を咬んで銃剣が抜けない隊員。
もたもたしている間に、横から迫る凶刃。あわやと言う所でパン! 右目に弾を受け倒れる刺客。
カチャ。
スペンサー銃はこの時代、数少ない連発銃である。管状弾倉装填式のレバーアクションライフルで七連発。
装填用チューブを用いれば、弾薬を一挙に流し込むことも出来る優れ物だ。
「抜けぬ時は撃て! 反動で抜け! 足で蹴り放して抜け!」
わしは先程と同じ大声で指示を下した。銃剣が突き刺さった状態ならば、外れ弾で他を害することは無いからである。
やはり女の力で銃剣は難しい時もあるか。いや、筋肉を弛緩させる薬を塗れば……。
しかし世間はそれを毒と言うな。
と、物騒なことを考えながら、わしは射撃で支援する信殿を護る位置に立つ。この位置からならば全体が見渡せ、指示も素早く下せるのだ。
大勢がほぼ決した頃。こちらに向かって歩み寄る男が一人。
「情けなか。女子供に阻まれたか。ちごっ、
役立たずな天狗と組んだのが間違いの元なのかと嘆き。
「け
俺はここで死ぬ。だが何発弾を喰らおうと必ずわしを殺してやると、鬼の形相で遣って来る薩摩隼人。
チリチリと感じるわしの警報は、前世の戦場で
カチャ。レバーを操作し発射準備をする信殿。
スペンサー銃はライフル銃だ。急所に七発ぶち込めば、流石に彼も
前世見た、テレビのライフルマンの早打ちの如く。瞬く間に七発のライフル弾が彼に吸い込まれる事になる。
信殿の覚悟は定まっているのだから、これは当然の帰結である。
しかし手負いの獅子は却って危険。死兵は恐ろしい。まして死兵となった
関ケ原を見よ。死ぬまでの僅かの間に信じられない働きをした。
他の西軍の将が討たれ捕らわれしているのに、薩摩は前代未聞の前方退却を敢行、見事に殿様を薩摩に帰したでは無いか。その凄まじき戦働きの甲斐あって、薩摩は一寸の地も失う事が無かったのだ。
だから、
「信殿。お待ちなさい」
わしは手で信殿の発砲を制して言った。
引き金を引いた時。ここで死ぬと腹を括った薩人ならば、信殿の命は無いものと思わねばならないからだ。
「名乗れ!
戦いに於いて武士が名乗り、相手に名乗りを求めるのは一騎打ちの所望である。
にやりと笑った男は名乗る。
「
有村は、ゆっくりと剣をトンボに振り上げた。
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