言葉改め
●言葉改め
「こんなに簡単に絹が染まるとは」
現場を支える職人達の声は、半ば感動半ば当惑。
今まで紫紺で手間を掛けて染めていた絹が、草木染めさながらのお手軽さで染まって行く。
効率と言う意味でもモーヴ染めは頭一つ抜けている。
「相手には糸を染めた状態で渡します。さすれぱ紫の絹と考えてくれることでしょう」
「確かに。わしらでもそう思います」
現場を知って居る者ほどそう考えると親方は言う。
「巨勢の秘宝はまだまだございます」
ここでわしは、今一つの手札を切る。
「おお。糸が、糸が生まれて行く」
ビーカーの中で合成された繊維を糸車に掛けて引き出して行く。
「これさえあれば。望むだけの糸を下賜する事が可能でございます」
「
「はい。途切れることなく糸を生み出して、禁中の御用にも役立って頂けるのでは無いかと愚考致します」
すると聖上は御簾を上げさせ
「幸子。東宮の
と仰せに成られた。
当然
「幸子には過ぎたる物にございます」
と辞したが、
「候補に名を連ねしだけの事。召すとの仰せでは無い」
岩倉卿は謹んで受ける様助言される。
ここまでするか? 近衛家の姫で東宮妃候補? まるで孫が好んだ小説に出て来る悪役令嬢の様だと一人可笑しさが湧いて出た。
ともあれ、その昔大君が「コ」を集めよと仰せに成り、間違って「子」を集めてしまった臣下の話は、上手く事実を糊塗することに成功したようだ。
「集められた子供の一人が長じて蚕を見出しました。また一人が
これを創れば、諸外国は挙って朝貢に来ることでしょう。
水に弱かったりと色々瑕はございますが、いくらでも作れると言う事が一番の利にございますれば、これを朝貢の下賜品とするのも悪くないと愚考致しまする。
このカラクリを知らぬ者には、朝廷の御威光がより大きく見えるに違いありませぬ」
朝貢とは、君子の国を慕って貢物を携えた外国の者がやって来ることである。
古来中国の王朝が朝貢を受け入れて、進んた文物の下賜品を下げ渡してきたが、今度はモーヴによる紫の絹等を求める外国が、朝廷に朝貢をしにやって来るのである。
わしは簡単にその旨を説明した。
「君子が朝貢を拒む訳には行かない」
と言う意見を回りの者達から言って貰い、根本的に外国嫌いの聖上にも受け入れて頂く。と言う岩倉卿の企みはあっさりと上手く行き、外国との交流が承認された。
交易を朝貢とした言葉改めによって事態はより良い方向に転がり始めた。
転生したらタラシ姫~大往生したら幕末のお姫様になりました~ 緒方 敬 @minase_mao
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