生まれ変われ
●生まれ変われ
手回しの良く。取り押さえられた男は縛り上げられた。
これでも武士の
「無礼者! たかが中間風情が!」
喚く男。
だが、丈高にこんな事を言う者に限って、実は身分がそれほどでもないことが多い。
なぜならば、身分の高い者はだいたいおっとりしているものだし、お供や警護の者が居ない筈がないからだ。
彼のようにカリカリしていたり、諌める者とてない独り酒の者が居るはずがない。
男は取り押さえた者が肥後守家の
「武士に縄目たぁ腐っちょる。肥後守家は犬侍ばかりか!」
と、自分の所業を棚に上げて嵩に懸かる。
酒の上の狼藉で、お国訛り丸出しで喚く様が見苦しい。どうにも埒が明かないのでわしが口を出す
「犬侍はあなた様にございます。自分が何をしたのかお分かりですか?」
「なにぃ!」
狼藉侍が、犬のように歯を剥き出して威嚇する。
「これはわしらの仕事やさかい。わざわざお嬢はんがこないなことせーへんでも」
若い衆はそう言うが、
「これは身内の話にございます。
と決め付け、狼藉侍に向かって言葉を強めた。
「酒に飲まれて酔いに任せ、軽々しく刀を抜いただけでも器量を疑われて然るべきこと。
あまつさえ、子供の私に切り掛かった上、手も無くあしらわれました。
これではどう取り繕っても士道不覚後の誹りを免れません」
「言わせておけば!」
もがくが縄で自由が利かない。
「酔って千鳥足の身でなお、身体の幹はしゃんとしておりました。これだけでも、あなた様が一心不乱にご修行に励んでおられたことは解ります。
恐らくは、酔っておらねばこの醜態も無かった事でありましょう。
責めは酒に負わせます故、恥をお知りになられているならば、醒めるまで大人しくなさいませ」
「何だと小僧ぉ!」
身動き取れぬ男はわしを睨みつける。だがわしが、
「あなたの言葉からして、
こう言うと彼は黙り込んだ。
たった今。身ばれしていると思った瞬間、気拙い事をしでかしたと気づいたらしい。
「ふーむ」
男に顔寄せて眺めると。この顔、どこかで見たような……。
「あ!」
誰かに似ていると思ったら……。
「そのお顔立ち。よもや船手組中船頭の
「うぐっ……」
如何にも
どうやら図星だったらしい。一転男は静まり返った。
わしは今なら道理が通じると諭しに入る。
「失礼でございますが。未だ学びの道を
今宵の事は、抱負偉大にして血気盛ん。気概のある
今宵は酔いがすっかり醒めるまで、縄目の恥を学びて心に
もしもあなた様に、『生きて
今日のしくじりを省みて、後の肥やしになさいませ」
言い放ったわしは、二条新地の親分に話を通す為に座敷を出た。
親分に会って驚いた。
さっきまで健康そのものだった親分が意識朦朧。熱を出して唸っていたのだから。
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