勤皇を破るは擒王なり
●勤皇を破るは
さて。
だが、このわしの知った事か。あれほどの手練れを
本音を言おう。実は、兵の成り手が少なくて困っている。
今の世も、騎兵は幾らでも成り手がある。乗馬が上級武士の特権だから。
砲兵もまた、今の日本では英才の証であるし、この時代には勝ちを導く軍の骨幹に成っているから成り手はある。今は存在し無いが通信兵も衛生兵も同じである。
それらから見ると数段落ちるが、軍の主兵である歩兵も取り敢えずなんとかする
重要な割に兎角軽んじられることの多い
だが困ったことに工兵の成り手が見つからない。
おまけにこいつは、砲兵同様に高い素養が必要で、かつ輜重兵のように軍属で補える分野でも無い。
この事を、盆暗のお偉いさんには理解不能であるのがもどかしい。
工兵の持つ一般印象は、工事工事に明け暮れる泥んこ苦行の毎日だ。
明治の頃には
寧ろ、後の時代には「
しかし評価と
陣地を造り橋を架け、敵の鉄道・要塞を
例えば。工兵無くして要塞の攻略は有り得ない。ベトンすなわちコンクリートで固めた要塞に生身の歩兵を向かわせれば、
ベトンの要塞を待たずとも、石とレンガで作られた稜堡要塞でさえも、工兵を以って坑道を掘り、下から爆破するのが定石である。
いや稜堡要塞どころか江戸の始めに作られた城でさえ、歩兵だけでは攻略不能だ。それは、前世の史実・西南戦争で証明されている。
しかしながら工兵は、昭和の御代になっても
為に儒教の悪い影響で、この世界の日本人は工兵の重要な任務を理解していない。
例えば、
それでも、日本は
「今、異人との戦があるその時は、上様の先手となる者を求めております。
ご府中の旗本八万騎は、永き太平にその牙を失ってしまいました。
彼らには
ここで話を区切り藩主殿を見る。
「
上様の
言い難そうに藩主殿口を開いた。しかし、要はわしの申し出を受ける方向で話をすると言う事だろう。
皆まで言わせず。わしははっきりと口に出す。
「それでは。牢名主の軍次を除き、志願する者のみをお引き受け致します」
「彼の者を除き?」
おや? と言う気色を匂わせて聞き返す藩主殿。どうやらわしが主導権を握れそうだ。
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