一流の濫觴
●一流の
パーン! 響き渡る銃声。
大樹公様の撃った弾は、一町先の的の真ん中に命中した。
河岸変えて、わしと八重殿は広いお庭にいる。
「どうだ。先にオランダより買い入れたゲベールじゃ。
一
撃って見よ」
自慢しながら大樹公様は先ず八重殿に手渡す。
銃床から銃先まで五尺強。大樹公様の身長とほぼ変わらぬ長さの銃だ。重さもざっと一貫はある。
八重殿は腰を落として受け取ると、慣れた手つきで手に手早く
パーン! 照準の無い銃である。狙いを付けるのは中々に難しく、銃によって癖が大きい。
「八重殿、お見事!」
初めて撃つ銃なのに、それでも真ん中とは言わないが的に当てた。実戦なら敵兵の
八重殿はそのまま次の弾を込め構えて撃つ。
今度は真ん中より右下一寸に当たった。
「噂以上の腕前じゃ。仕官を望むならば取り立てよう」
そう大樹公様は口にする。しかし八重殿は恐縮して、
「と、とんでもねぇ。おらは相応しい家柄でねぇし、山出しの田舎娘だ。
上様のお側になんかいで良い女でねぇ」
慌てて平伏する始末。
「ははは。望まぬ者を無理にとは言わぬ。
必ずや、
この大樹公様のお言葉で、八重殿仕官の話は流れた。
八重殿に代わってゲベール銃を持たされたわしも、大樹公様から所望された。
「
「ゲベールは撃った事がありませぬ故。撃たずとも宜しゅうございまするか?」
「鉄砲を撃たずして、如何に腕を見せる?」
「ゲベールには槊杖の他に添え物があったと思います。それをお貸し下さいませ」
所望すると小一時間後。十五、六寸の先の尖った鉄の棒が、袴を着けた男姿の女によって運ばれた。
「お持ちしましたが、本当にお使いに成るのですか?」
背骨に鉄芯が入った様な歩き方一つを見るだけで、相当の腕前だと判る女は。
鋭い先を抓んでわしに手渡す。
横から見ると乙の字の裾を長く引き延ばしたように見えるアタッチメントは、ゲーベールの銃剣。いや剣と言うよりは槍かもしれない。
取り付けると銃床から銃剣の先まで六尺を超えた。槍と見て長さを測ると一間と少し。短めの手槍だ。
今世の身体は大きく、前世慣れた長さよりも八寸ばかり長い。
しかし使えぬ訳ではない。
わしはいくつかの手をお見せする。
うん。意外と身体が動くものだ。
「上様。これはこれで中々のものにございまする」
「
銃剣を運んで来た女が感想を述べると、大樹公様は下問した。すると瀧と呼ばれた女は首を振り。
「あれは槍とは別の武器にございます」
と口にした。
「単に槍遣いするなら構いませぬが、私では折角の鉄砲を歪めてしまうやも知れませぬ。
長姫様の剣付き鉄砲の技は、最早一流を成した武術と申しても過言ではございません」
「なんと」
「鉄砲の利は打ち払えぬ事。
数多の
その鉄砲の利も中ればこそ。僅かの狂いが狙いを外します」
「うむ」
「ご覧下さいませ。徹底して真っ直ぐに貫く突き技にて打ち合いを避け、巻きや払いがございませぬ。
恐らくは、鉄砲に狂いを生じさせぬ為でありましょう」
「なるほどな」
特に声を潜めて居た訳でも無かったせいだろう。
前世で叩きこまれた銃剣術を披露するわしの後ろで、話し込む二人の声がはっきりと聞えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます