第六章 不羈の種
上品の薬
●
無事、高知演習は終わった。土州に
「ほな。ぱぁーっと参りましょう」
坂本家にて、お春が乾杯の音頭を執る。
思えば浜の宴会から始まった土州滞在であったが、土州の者は何かに突けて酒を飲む。去り際もまた宴会と成った。
今日は酒精の無い甘酒も用意したから、乙女殿の御子息も参加している。
「あれ? 乙女殿。生菜をお召し上がりにならぬのでございますか?」
大根の煮付け等は口にしているから、野菜が嫌いと言う事も無いだろう。生野菜を食べないのはおかしい。
「あ、うーん。嫌い言うのじゃないがやけんど、黒船この方、生は
生水を飲まぬのと同じ心掛けだと言う。
「今は存分に刺身を召し上がれます故、大事は無いと思いまするが。新鮮な海の魚が手に入らぬ地ならば、その用心も病の種となりまするぞ」
「そう申してもにゃあ」
歯切れが悪い乙女殿。
「このモヤシは、
また虎狼痢は酢も嫌います。湯掻いて梅酢にて和え物にしてごさいます故、お召し上がりを」
ここまで言い、わしが毒見をしてやっと。乙女殿は箸を付けてくれた。
「これはどう育てるのやか?」
「木綿を煮て消毒し苗床と致します。大豆をその上に敷いて、箱を被せ、芽吹くまで毎日浸す湯冷ましを取り替えます。それを半日陽を当てると、滋養が増して大変体に宜しゅうございますぞ。もやしを採った後の木綿は煮て浄め、何度でも使えます。
モヤシは一年を通し数日で食せ、酢の物以外にも、例えば毎日の汁物の具に致せば食い
それでも生は怖いとおっしゃるのでございましたら」
わしはぺつの料理を勧める。
材料は蕎麦と松葉と繋ぎの
乾かした松葉を
刷毛で油を塗った
「松葉は
これも
薬故、多少の苦みもございますが、牛黄や熊の胃と比べれば有って無きが如き軽いものにて、清々しき
これを蕎麦粉に混ぜて
これはテレビっ子の孫が幼児の時分にテレビで見たと言っておったのだが、
「じいちゃんあのね。松の葉っぱは、ビタミンCとか一杯あるんだよ。昔バイキングが、松の葉っぱを混ぜたパンで航海したんだって」
負うた子に教えられ調べて見れば、松葉は古来より漢方として
「松葉は古来より、養命薬即ち無毒で長期服用が可能な薬として用いられて参りました。
百草を舐めて一薬を知る薬神・
わしはその効能を説明する。
――――
苦し、温にして毒なし、毛髪を生じ、五臓を安じ、中を守り、
身に緑毛を生じ、身を軽んじ、気を益す、
久しく服すれば、穀を断って饑えず、渇かず、則ち身軽く、不老延年す。
(本草綱目より)
――――
「また、松葉は薬湯にしても飲み易く、しかも茶より安値にございます」
「なるほどのう」
「茶としても菓子としても楽しめるので、ぜひ
と言いつつ目の前に並べるのは、醤油で味を付けた
「げに、美味いものじゃのぉ。わしも作って食すぜよ」
明日は京へ出立するわしら
おや? あちらで
わしは近くへと寄って行った。
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皆様応援感謝いたします。
お陰様で300話目となりました。
なお、この章を終えた後、しばらくお休みさせていただきます。
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