薩摩の忍び
●薩摩の忍び
「誰でございますか?」
誰何すると、
「お気づきになっとは。噂
微かに聞こえた独り言は薩摩言葉。
膝行して
「失礼致しました。私めは
若い。まだ二十歳にも成って居ないであろう。
「竜庵様は、
女将のお
「僧体……と言う事は、茶坊主ですか?」
「はい」
「酷く物騒な茶坊主でございますね」
わしの茶坊主の知識が、主に時代劇からのものである為だろう。
先程の殺気からは想像も付かない立場の者である。
それにしても側仕えの茶坊主が、何故遠い薩摩からこんな所に……。
あ、いやこれは。ピンと来たわしは、
「薩摩守様の、忍びにございますね」
と、決めつけた。
「これはこれは。聞きしに勝るご
流石、
如何にも、我が殿の
こ奴。あっさり忍びと認めおった。
「その、薩摩守様の忍びが、私に何の用でございますか?」
わしの言葉と共に
見えざる剣の結界が竜庵殿の前面に張られた。
「されば、姫様。お屋敷のお庭で始められたやっとうは、どなた様の手解きにございますか?
お屋敷より漏れ聞えるきっげの如き
されど奇怪な事に、姫の回りに土佐郷士の姿はあっても、
「!」
一瞬、わしはぎくりとなった。驚きが顔に現れてしまったのを悟った。
「あれは、はしかの熱に
夢に現れた、太刀を
そう言って、予め考えて置いた作り話をする。
所謂、夢のお告げを受けたのだと。
――――
そも
勾玉と匂い綴らせ
されど
懸かる咎により世は乱れ、
されど見よ。み国は朝日の
寄せ来し黒船の
輝く
長き
早鞆の瀬戸に始まりし武者の世は、所同じく早鞆の瀬戸にて終りを告げん。
時が満ちるその日の為に、
見よこの
――――
あちゃから習った神代より続く
わしはお告げの言葉をでっち上げた。
まだこの時代ならば、こんな
「なるほど。共になさっておられた
あれも
「はい。夢の中で教えられた
実際には
しかしそれとは別に
命の遣り取りでしか使えぬ禁じ手だが、今のわしの体躯と
じっとわしを見据える竜庵殿。
双方が固唾を飲む息の詰まる緊張が走る。
やがて重苦しい時間が過ぎ、最初に竜庵殿がふぅと大きな息を吐いた。
「なるほど。確かに一人で剣を学ぶならば、薬丸どんの剣になるのは道理かも知れませんな」
「何故、私に問われましたか?」
わしが訊ねると竜庵殿は、
「これは内々の話にございますが」
と断りを入れて話し始めた。
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