第八章 遠い備え
草萌ゆる
●草萌ゆる
閏三月はまだ寒い。寒いが野道は萌え始め、冬枯れの枝は新芽が膨らんでいる。
へちょ。へちょ。拙い声は若い
「むぅ~~」
帰り道の馬の上。
わしの腕の中で、今回も出番が無かった
張り切っていた分、その反動もでかいと言う訳だ。
「ご機嫌を直いとーせ。
「我慢しとぉくれやす。帰ったらご
お馬の手綱を握るお春が顔を覗き込むと、
「
初めて生殿が言葉を返した。
糖蜜芋とは平成の御代で言う大学イモの事である。
――――
1.
2.
3.2をカラリと胡麻油で上げる。
4.3にタレを煮て作った蜜を絡めて、炒り胡麻を振る。
――――
なんだ大学イモかと言う
この時代、材料も贅沢なら製法も贅沢。旗本の姫と呼ばれる生殿でも、そうそう口に出来ぬ高級菓子なのだ。
「糖蜜芋どすかぁ?」
流石に渋い反応を示すお春にわしは、
「先の恩賞がございます。和三盆なら無理でも黒砂糖ならばなんとかなりましょう」
と助け船を出す。
「それどしたら、少し作りまひょか」
お春は請け合った。
そんなご府中へ戻る道すがら。わしはあちらの
「どなたです? こちらを伺うのは」
「どなたです? 春の風ですか? 鞍馬山のお使いですか?
わしはここで一拍を入れ、
「なるほどこの気配。覚えがあります。
餓えた狼が如き苛烈さと、冬の陽だまりのような温もり。
判りました! 石田村の色男にございますね」
と口にした。すると繁みを揺らす音が絶え、
「かぁ~。なんで判るんだよ
良くもまぁ、次から次に
トシ殿が枯れ草を分けて姿を現す。
「いつから知ってた?」
「昨日からにございます。私達を密かに見守ってくれたのですね?」
「あーあ。隠れてた
トシ殿は
「ありがとうございます」
「けっ。礼を言われる筋合いはねえよ。
師範とは
相変わらずぶっきらぼうな物言いであるが、トシ殿が心配してくれたのは間違いない。
「それでよぉ。また
いい奴、トシ殿。それで駆け付けてくれたのか。
わしは顔を綻ばせずには居られなかった。
そんなわしにトシ殿は言った。
「あ、そうだ。破軍神社に来てた柳屋から言伝を頼まれてたんだ」
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