鬼一は蒙にして
●
「
角兵衛獅子の少年はわしが求めると直ぐ様、
「あー。聞かれちゃったかぁ。天狗のおっちゃんは聞かれなかったらそのまま帰って来いって言ってたんだけどなぁ」
と、ぶっちゃけた。
「手紙の内容は助かりますが。先の
捨て置いて後で臍を噛むのも御免でございまするが、頼まれても居らぬのに犬馬の労を取るのも心外にございます。
私は江家の
そして
天狗はいずれの私に、何を求めているのですか?」
すると少年は、
「すげーやおっちゃん。今のはまんま、天狗のおっちゃんが言ってた通りだ」
興奮気味に声を上げた。
鞍馬山の天狗は、こちらの反応を想定していたのか。
「どれでございますか?」
とわしが訊ねると少年は、
「おっちゃんは言ってたよ。
――――
されば
よし
もし
――――
だってさ」
論語を引用して喩えているから判り難いが、意訳すればこう言う事だ。
――――
女だてらに藩祖の名を穢さぬ様、武で身を立てようとする者にお願いする。
水戸の小僧っ子共は、天下を引っ繰り返すような大仕事を玩具にしていて時節を弁えて居ない。
だからまだ未熟で準備も足りて居ない。このままでは反乱を起こす事は出来ても、どうして天下を覆すことなど出来るだろうか。
ああ私は未熟者で、指導力は幼き頃の義卿先生にも及ばなかったのであろう。
もしも水戸の若者の、大義名分の無い決起を止める事が出来なければ、
その責任は、思想的指導者と見做されている義卿先生に留まらせず、
――――
鞍馬の天狗は、水戸の跳ねっ返り共の手綱を取れて居らず、わしに助力を求めて来たのか。
「判りました。手を貸しても宜しゅうございます。何を成せば良いのでございますか」
わしの返事に角兵衛獅子の少年は言った。
「天狗のおっちゃんの頼みで少し調べてあるんだ。おいらみたいな門付け商売は、どこへだって怪しまれずに入り込めるからね」
「何処へ参るのでございますか?」
「ご内府から離れるけど、
そこに富士川の
少年の言う小天狗は勤皇の賊の連中を指す事は明白だった。
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