第二章 敵は妖怪
落ち着きなさい
●落ち着きなさい
ドーンと腹に響く音で目が覚めた。爆発音が大地を揺るがした。
「姫さん!」
襖が開いて飛び込んで来る宣振。既に親指で鍔を押し、鯉口は切ってある。
「黒船の奴。撃ってきおったぞ」
「相手は一隻。まだ慌てる時ではありません。
間も無くあちゃも
いざ逃げる事と相成れば、私を権兵衛が背負います。その時、宣振が頼りです」
「はっ。畏まりました」
敵の砲声が響く中。間も無くこちらも撃ち返し始めた。
前世に於いて、戦地で未曽有の大戦を経験したわしにとっては、長閑なほどに間延びした大砲の音。
しかし、表通りは砲声に叩き起こされた人々の喧騒で騒然とし始めていた。
「
あちゃと
あちゃは薙刀を手に、雑な縛りのたすき掛け。スエは気丈に出刃を手に。
権兵衛は
「落ち着きなさい!」
一喝すると、わしは現状把握を命じる。
「
「は!」
戦と言っても、今は大砲の撃ち合い。弾はここまでは飛んで来ない。
護衛は権兵衛だけでも十分だから、宣振は急ぎ浜へと向かう。
「スエは
「はい」
「あちゃは私の
「畏まって御座います」
「権兵衛は、私の着替えが得終わり次第、付いて来なさい」
「姫様。どちらへ」
とあちゃは訊いた。
「宣振が戻るまで門を出ません。門の内より流言が飛ばぬよう押えます」
暫くして、袴を着けた私が権兵衛を伴って私の屋敷の門に近付くと、人々が不安げに
身一つで表に出て来た者。大八車に家財を乗っけて引っ張っている者。病人や足腰の悪い老人を戸板に載せて運び出そうとしている者。
そんな連中にわしは大声で、
「落ち着きなさい。弾はここまでは飛んで来ません」
私の外見は、僅か数えで十歳の子供。しかも女である。
中には、
「こん餓鬼ゃあ! 何を生意……」
苛ついているあまり、怒鳴り付けた血の気の多い男も居たが、私の出で立ちを見て、
「ひゃあ! お、おおお、お許しくだせぇ!」
ボーリングのピンを倒すように土下座した。
その男だけでは無い。辺りの町人が彼に倣い、武家の者もその場に控えた。
そう。わしが袴を着けられる身分だと理解したからだ。
「相手はたかが船一隻。乗せる
旧式と言ってもこちらには、銃も大砲もある。銃火器を持つ相手には、前世のアメリカ軍でさえ地上戦を行えば犠牲は免れないのだ。
加えてこちらがホームグランドである以上、拠るべき
ならば上陸したとしても町家を略奪する余裕などなく、恐らく手が届く範囲でこちらの大砲を壊すなどに留めるはずだ。
「まだ慌てる事はありません。慌てては却って怪我をします。
別に今、火が迫っている訳でも、津波が押し寄せて来る訳でもありません。
一度家に戻って荷物を纏めなさい。着の身着のままでは、今日の内に難渋することでしょう」
数えの
しかし、それを口に出来ないのが身分の違いと言うものだ。
こうして、身分の上下で押し切りはしたが。こうしている間にも少しずつ、町家の人々の頭から
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