ぺろりの河豚
●ぺろりの河豚
前世のわしの晩年。世界を席巻した韓国起源の品がある。
その名はクッションファンデーション。従来のファンデーションの概念を覆し、化粧品市場に革命を起こした逸品である。
従来は液体であったファンデーションを、使い切りのスポンジに滲み込ませて簡便に使用できるようにした。
製品一個当たりの使用回数は瓶入りの物には劣るが、使い切るまでの時間が短縮された分、不要になった保存料を減らして従来よりお肌に優しくなっている。
これは
因みに、渡した本には
素人がこれで作るのは難しいが、柳屋は本職だ。
実験室的に良庵殿が作った実物もある事だから、後は餅は餅屋。商業化までなんとか試行錯誤してくれることだろう。
ところで今世において。作り方を纏めるにあたり
勿論、
また大王は医学書を編纂する王命を出していたりもするから、安全な白粉を開発させて居たとしても何らおかしくは無いのだ。故に通信使が日本にクッションファンデーションを伝来した。と言う体裁をとった。
さて。わしはその書において、女の肌を大別して黄と青に分けた。
肌を通して見える静脈の色が青の者を
これは二十一世紀の先進的な考えなので、これでは
肌の色味と似合う化粧の色には一定法則が有り、違えると
例えば、前世のわしの外孫・佐藤の所のプンコなんぞは、気が強くて口汚なかったので
わしは
因みに、編纂の部署・
ただ著者を
深い意味はない。……ない。
…………いや、済まぬ。ちょっとした悪戯心だ。後世の史家よ、許せ。
さて、柳屋が応じてくれた後。試作品の受け取りおよび細々とした打ち合わせを兼ねて、わしは最初に連れて行った者達と訪問を重ねた。
時々、武士風体の男達がお
「これはどこのお菓子じゃ?」
出された茶菓子に
二月も半ば。お伊能殿の家にて打合せがてらに開かれた茶会のお茶請けは、見た目は樹の年輪のカステラで柚子の香りがする菓子だ。
お春も、
「伊予の一六タルトとも違いますね」
わしが水を向けると、お伊能殿は得意げに話し始める。
「なんでも、シーボルト先生のお国のお菓子が元になって居ているそうです。
山下様と仰るお方の考案で、棒に溶いた生地を掛けて焼き、柚子餡・溶き生地と重ねて焼き固め。
幾度もこれを繰り返して、一筋一筋丁寧に作って行くのだそうですよ」
山下か……。わしは懐の拳銃の銘を思い出した。
女が三人寄れば
因みに茶会とこれらの菓子が縁で、いつの間にかお伊能殿は
酒保商人と言うのは、軍隊に付いて来て兵士と商売する商人の事であり、それ専用の制服を着て嗜好品を商う。この当時のヨーロッパではよくある軍属である。
男でも道普請など重労働の後は、酒よりも甘い物を欲したし、近頃は御親兵には女性も増えて来ていた為、甘い物がよく売れるのだ。
「厠を遣わせて頂きます」
そう言って席を立ち、廊下を歩いて行くと、わしの耳は微かな話声を捉えた。
ここからでは話の内容こそ解らぬが、確かに
もしや天狗か? わしは耳をそばだてた。
「テツさん。いよいよだが
「やはりどごも
柳? 家主のお伊能殿絡みの話か? 八掛け仕入れとは、きつきつの商いだ。
「それで、いづだ? どうにがして潜り込まなぐぢゃ」
「三日が良がっぺ。
「仕入れだ。柳に見舞う河豚だがら、
「チュウだ。河豚
来月三日の雛祭りに、柳に見舞う河豚を捌く?
そのまま様子を伺って居ようとしたが、不意にぞくっとしたものを感じ、わしはそっとその場を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます