第208話 クロエとサテラの夜
それはずっと昔のこと。
旅の途中でトラブルにあって街にたどり着けなかったオレ達は野営することになった。
魔物に襲われないようにするためと、火を絶やさないするために二人一組の見張り番を立てるのが鉄則。
オレとサテラが見張り番をしている時で、満天の星空だったのを今でも覚えてる。
何か緊急のことでも起きない限り見張り番ってのは暇なもんだ。この世界にはゲームもないし、本とかはあったりするけど娯楽小説みたいなのはほとんどない。
つまり、やることはほとんど無いに等しい。それでも天気が良い日は綺麗な星空が見えるから、それを眺めて時間を潰せるんだけど。
なんとなく星と星を線で繋げてオリジナル星座とか作ってみたりして。昔の人も同じような感じで星座作ったりしたのかな。
「ねぇ見てみてクロエー」
「なに? どうしたのサテラ」
この世界に来る前は見ることも無かった星空を飽きることなく眺めてたオレは、ずっと黙って何かをしていたサテラに声をかけられて星空から目を外す。
「じゃーんっ」
「じゃーんって、これ、私の絵?」
「そう! クロエの絵。上手に描けたと思わない?」
珍しくずっと思ったら絵なんか書いてたのか。サテラが絵を描くのが好きなのは知ってるけど。いつも暇を見つけては絵を描いたりしてるし。たまに描いた絵を売って小遣い稼ぎしてたりするし。
今回描いてたのはオレの絵。星空を眺めるオレの絵だった。
上手く描けてるとは思う。思うんだけど……。
「ちょっと美化しすぎじゃない?」
「そんなことないよー。これでもまだまだ足りないくらい。もっといい筆とか絵の具があればいいんだけど。家出した時に持ってこなかったからなぁ」
「はは、着の身着のままだったもんね」
初めてサテラに会ったのは、道ばたで倒れて死にかけてた時だった。魔物に襲われてとかじゃなく、空腹が原因で、だけど。その後色々あって一緒に旅することになったんだよね。
「あ、今のちょっと苦笑したような笑顔いいかも。ねぇその表情キープして、パパッと描いちゃうから」
「えぇっ!?」
普段のぽわぽわした抜けた雰囲気とは違う。絵を描くときのサテラはものすごく真剣だ。
エルフらしい美しさがより際立ってる気がする。
「ねぇ、どうしてサテラは絵を描くの? 私だけじゃなくて、みんなの絵も描いてるよね。人物画だけじゃなくて風景画とかも」
「なんでって言われても……好きだから、としか。風景を映像として残す魔法とかはあるけど、絵はそれとは違う。わたしの、わたし自身の情熱を乗せることができるから」
確かに、サテラの描く絵はちょっと違う気がする。なんていうか、魂が乗ってるいうか、見てるだけで心を奪われる気がする。
「だからみんなの絵を描くのが好きなんだー。笑ってる顔とか楽しんでる顔とかを描くのが一番好き。クロエの絵を描くのが一番好きなんだけどね。もうこれで千枚は超えたんじゃないかな」
「描きすぎでしょ……」
サテラはオレだけじゃなくてキアラ達の絵も描いてる。ハルやラミィ、先輩達の絵も描いてたはずだ。あれ、でもそういえば……。
「アルマの絵を描いてるのは見たことない気がする」
「アルマ? アルマはねぇ……」
「描いたことないの?」
「だってアルマってずっと仏頂面なんだもん。面白くない」
「面白くないって。描いてあげなよ。アルマも仲間なんだから」
「そうだけどぉ。気乗りしない絵は描きたくないのっ」
うーん、おおよそ普通のエルフからはかけ離れてるサテラだけど、やっぱりドワーフのアルマとは相性悪いのかな。
まぁクソがつくほど真面目なアルマとちゃらんぽらんなサテラの相性が悪いっていうのもあるんだろうけど。
「あぁ、やっぱりいいなぁ。クロエの絵を描いてる時が一番楽しい。ねぇ、クロエ。やっぱり私と契約しない? そしたらいっぱい絵を描いてあげるよ?」
「今でも十分な気がするけど。でも、それはやっぱりできないかな」
「ぶー、ケチ」
「ごめんね」
オレが魔剣であることを知ってからずっと提案されてるけど、毎回断ってる。
契約って、いまいちピンとこないんだよなぁ。自分が誰かと契約してる姿が想像できないっていうか。あり得るとしたらこの中にいる誰かなのかな?
「やっぱりピンとこないの?」
「うん。そもそも魔物と戦うのとか苦手だし。先輩達みたいにできる気がしないんだよね」
「うーん、それじゃあ占ってあげようか。クロエが将来契約するのかどうか」
「えー、サテラの占いって当たるから怖いんだけど」
「大丈夫大丈夫。ただの占いなんだから」
サテラはエルフの中でも限られた者にしか使えない星読みの力を持ってる。占星術的な奴だと思うけど。その精度が半端じゃない。
「それじゃあちょっと待ってね。今視るから」
サテラの綺麗な碧眼が黄金に輝く。じっと見つめられるとさすがに緊張するな。
「あ……ふふ、そっか。そうなんだ」
ジッとオレを見つめていたサテラの表情がふっと緩む。嬉しそうな、でもどこか寂しそうな顔をしていた。もしかして何か見えたのか?
「ど、どう?」
「クロエは将来……」
「将来?」
「わたしと契約してたよ!」
「それ絶対嘘でしょ」
「えー、なんで嘘なんて決めつけるの」
「サテラの占いは信じてるけど、その顔は嘘吐いてる顔だもん」
「はは、バレちゃったか。でもそれじゃあ本当のこと教えてあげる」
「本当のこと? やっぱり何か見えたの?」
「うん。でも悪いことじゃないよ。クロエは将来、素敵な人と契約するみたい」
「え、そ、それって誰? 知ってる人? この中にいる?」
「それは教えられないなー」
「えぇ! そこまで言うなら教えてよ」
「わたしのこれはあくまで占い。未来を決めるものであっちゃいけないから。だから私もまだまだ諦めないからね!」
「まったくもう、なにそれ」
どちらからともなく笑い合う。
その後も他愛のない話をしたり、サテラから絵の指南をしてもらったりそうしてオレ達の夜は過ぎていった。
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