第138話 レイヴェルvsアレス&ジャルク

〈レイヴェル視点〉


 馬車から飛び出た俺は、クロエと反対方向に飛び出していた。クロエの方へと向かったのは二人。クロエ一人で戦わせるわけにはいかないと追いかけようとしたが、それよりも早く二人の男が俺の前に立ちはだかった。


「ちっ、あいつら女と見ればさっさと飛びつきやがって。まぁなんでもいいがな」

「後できつく言っておけばいいだろ。それより今はこの男をヤっちまおうぜ」

「っ……」


 目の前にいるのは明らかに雰囲気の違う二人。たぶんだが、この盗賊団の首領だろうな。まさかファーラさん達の方じゃなくてまだこっちに残ってたとはな。運がないというかなんと言うか。

 いや、泣き言言ってる場合じゃないか。どんな相手にせよ戦うしかないんだ。


「おーおー。やる気だねぇ。いい目だ。大方俺らのことさっさと片付けてさっきの娘を助けに行きたいんだろうが……そう甘くはねぇぞ!」


 男達が手に持ってるのは短剣。懐に飛び込まれたら俺に不利だ。ここはいったん距離を取って冷静に——。


「おっと、そいつはいただけねぇな。逃げんじゃねぇよ」

「っ!」


 二人いた男のうちの一人がいつの間にか俺の背後に回り込んできていた。

 盗賊という割には理知的な雰囲気のある男。この盗賊団の参謀役ってとこか。

 力任せだけじゃない盗賊団は厄介だってイグニドさんが言ってたけど……なるほど、この盗賊団はそっちのタイプってわけだ。

 二人に挟まれる形になった俺は退路を失う。どっちも相当な手練れっぽいな。今の俺の実力でどこまでやれるか……いや、弱気になるな。


「別に生かして捕らえるようにも言われてねぇ、だからさっさと死んじまいな!」

「っ、速い!」


 首領の男は猛烈な勢いで攻撃を仕掛けてくる。しかも相当な速さだ。力任せじゃない、確かな技術を感じさせる攻撃。

 こいつもしかして元冒険者か。

 冒険者稼業に挫折して盗賊になる奴もいる。確かそんなことを昔聞いたことがある気がする。


「おいおい、避けてばっかじゃつまらねぇじゃねぇか! ジャルク!」

「おう、任せろアレス!」

「くっ、反対からかっ!」


 振り下ろされるナイフをなんとか紙一重で避け続ける。だが、二人の息の合ったコンビネーションを前になかなか反撃の手段が取れない。

 一人一人の実力は俺と同等レベルって感じだが、コンビネーションが厄介過ぎる。せめてクロエが一緒にいたら……ファーラさん達もまだ終わってないみたいだしな。

 いや、他人に縋るようなことは考えるな。ここにいるのは俺一人、それでもやるしかないんだ! 

 ここでやらなきゃいつまでたってもライアさんにもイグニドさんにも追い付けない。あの二人なら絶対にここで逃げたりしないはずだ!


「死ねやおらぁっ!」

「はぁっ!」

「お、やっと反撃する気になったか。いいじゃねぇか。それでこそやる気になるってもんだ」


 重い……短剣だってのに、なんでこんなに重いんだ。何か特殊な技巧でも積んであるのか? 

 武器の中には魔剣ほどじゃないにしても、特殊な能力を持つ者がある。

 そういう武器はだいたいドワーフ族が作ってるらしいけど……魔力を込めることで色んな能力を発揮するってイグニドさんから教わったな。

 実際に使うか、戦うかするまではどんな能力かわからないのが現実だ。だとしたらこの短剣にはどんな能力を秘めてるんだ。

 重さを増すか、切れ味増幅か……ダメだ。少し剣を合わせたくらいじゃ判断はできねぇ。


「戦ってる最中に考え事とはずいぶん余裕じゃねぇか!」

「まずいっ!」


 思考に意識を割き過ぎた!

 ジャルクと呼ばれていた男が気付けば俺の背後に回り込んでいた。

 どんな武器か知る必要があるとはいえ、戦闘中に戦闘以外に意識を割くのはバカのやることだ。

 そんな当たり前のことすら失念するとか俺はバカか!

 なんとかすんでの所で剣を躱したが、そのせいで姿勢を崩された。


「おらそこだぁ!」

「く、やられてたまるか!」


 頭上から振り下ろされた短剣を後ろに跳んで避ける。若干服を切り裂かれたが、傷はない。


「ちっ、無傷で避けやがったか。運のいい奴だ」

「?」

「おっと、あんまり喋ると色々バレそうだ。まぁいい。今のでだいたいのテメェの練度はわかった。俺らの敵じゃねぇってこともな」

「…………」

「へっ、安心しな。お前を殺したらすぐに他の奴らも同じ所に送ってやるからよ。ま、女の方は楽しんでからってことになるだろうがな。もしかしたらもう今頃俺の仲間に捕まってるかもしれねぇけどな。一瞬チラっと見ただけだが、ずいぶんいい女だったじゃねぇか。てめぇみたいなガキには勿体ねぇ。俺らが可愛がって——」

「ふざけるな!」

「っ!」


 クロエの実力は俺も知ってる。だからこいつの言うようにすでに捕まってるなんてことはあり得ない。そんなことはわかってる。だが、こんな奴らにあいつをそんな風に見られたこと自体が耐えられない。許せない。

 これは俺の我儘だ。あいつのことは俺が守る。まだあいつに守られてる俺が言うようなことじゃないかもしれないけど、でも、そう決めたんだ。


「お前らをあいつのところに行かせたりするもんか。お前らは俺がここで倒す。絶対にな」

「ははっ、いい啖呵じゃねぇか小僧!」

「やれるもんならやってみな!」


 避け続けてるだけじゃ勝てない。勝つためにはこっちから仕掛けるしかない。

 

「ふぅ……行くぞっ!」


 そして俺は剣を片手に二人に向かって駆け出した。

 

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