第341話 破壊の痕

 レイヴェルが目を冷ました翌日、これ以上この国にいる理由の無くなったクロエ達は国を去る準備を進めていた。


「とりあえず荷物はこんな所かな。午後には出発したいけど」

「そうだな。でも、ホントにあいつら一緒に来るのか?」

「もう認めちゃったしね。それともレイヴェルはやっぱり反対なの?」

「反対……反対ってわけじゃないんだけどな。クロエがそう判断したってならそれも間違いじゃないだろうし。ただ起きていきなり聞かされたからびっくりしたっていうか。まぁ一応二人からも話は聞いたし、本気だってこともわかってるけどな」


 昨日レイヴェルが目を覚まし、一通りの事情を説明した後のこと。クロエはコメットとアイアルをレイヴェルに引き合わせ、二人の口から気持ちを話させた。その結果レイヴェルは二人の動向を認めたのだ。


「だったら私達は二人のことを信じてあげないと。それに……この先はきっと私達だけじゃどうしようもなくなる時が来ると思う」


 それは予感とでもいうべきもの。ハルミチの作り上げた組織は知れば知るほどに強大で、いかにクロエが魔剣使いであったとしても二人だけで立ち向かえるような組織ではないとクロエは思っていた。


「まぁつまり仲間が必要になると思うの。そのためにもコメットちゃんとアイアルはすごく頼りになるしね」

「確かに、あの二人が居てくれたら心強いのは間違いないな」

「二人ももう出発の準備はしてると思うんだけど。でもその前にさ、ウィルダー王にも会って行かないとね」

「そうだったな。もう行っていいのか?」

「うん、出発前に来てくれって」


 クロエとレイヴェルの二人は国を出る前にウィルダー王から呼ばれていた。今はまだ国中が混乱していて、どこもかしこも忙しそうにしている。だからこそクロエ達はこのままそっと出て行こうとしていたのだが、その前に来るように伝えられてしまったのだ。

 

「なんの話かは知らないけど。まぁぶっちゃけどうでもいいんだけど」

「そんなこと言うなよ」


 レイヴェルは苦笑しながら言う。クロエがウィルダー王のことを良く思っていないのは知っていたが、それでもレイヴェルからすれば一国の王だ。クロエが何かやらかさないかとハラハラしてしまうのも無理はないだろう。


「準備よしと。じゃあ行こっか」

「頼むから変なこと言わないでくれよ」

「それは向こうの出方次第だよね」


 そんな微妙に不安の残る会話をしながら二人は王城へと向かった。




 宿を出たレイヴェルが目にしたのは未だに残る激戦の後。レジスタンスの襲撃によってボロボロになった家々だった。クロエ達の住んでいた宿は被害はそれほど無かったが、王城に近付けば近付くほどに被害の痕が大きくなる。中には完全に倒壊した建物まであるほどだ。大勢のエルフが木材を担いで修復に当たっている。


「こっちの方もすごかったんだな」

『うん。戦闘自体はかなり激しかったみたい。人的被害が少なかったのが幸いだってコメットちゃんは言ってたかな』

「そうだな。でも、ここから復興するのは時間がかかりそうだな。俺達は何も手伝わなくて良かったのか?」

『余所者は手伝わない方がいいだろうってさ。まぁ私達がこの国のために戦ったことは伝わってるから、エルフの姿で無くても大丈夫ではあるみたいだけど。歓迎はされてなさそうだね』

「道理でさっきからチラチラ視線を感じるわけだ」


 今のレイヴェルはもう薬でエルフへと変身しているわけじゃない。あの日の戦いはほとんどの人の知るところであり、その家庭でレイヴェルがエルフ族で無いことも知れ渡ってしまった。

 それでも迫害されずに済んでいるのは、クロエの言った通り国の恩人という立場とそれどころではない実情があるからだ。

 しかしエルフ族以外がいることに不満を持つ層もそれなりにいる。だからこそ何かあっても対処できるようにクロエは剣の姿になっていた。


「まだまだ溝は深いな」

『敵意を抱いてるのは高齢のエルフだけで、若い層はそれほどでもないらしいけど。まぁこの国は高齢のエルフの方が多いからね』


 比較的若いエルフはレジスタンス『グリモア解放戦線』に参加し、すでに国を追われている者も多い。


「ま、騙してたこっちも悪いって思って我慢するか。後少しの辛抱だしな」


 居心地の悪い視線を感じながらも王城へとたどり着いた二人だが、王城の中は外と同じかそれ以上に慌ただしくしていて誰かを呼び止める間も無かった。


「えっと……このまま行っていいのか?」

『どうなんだろ。さすがに断わり無しってのは良くないと思うんだけど。っていうか呼び出したにはそっちなんだから迎えくらい寄こすでしょ普通。なにしてんの』

「まぁまぁ、この状況じゃ仕方ないだろ。とはいえどうしたもんか……」

「レイヴェルさん、お姉さま! お待ちしておりました!」


 戸惑う二人の元へやってきたのはコメットだった。


「申し訳ありませんわ。今はどこも慌ただしくしてますの。ですので、わたくしが代わりに王のもとへお連れしますわ」

「ありがとう、助かるよ」

「これくらいしかできませんもの。では参りましょう」


 そしてクロエとレイヴェルはコメットに連れられ、ウィルダー王との謁見へと向かうのだった。


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