第342話 ウィルダー王の決意
王城の中は襲撃の影響もあってかボロボロだった。それはもう至る所に破壊の痕が残っていた。クロエ達が外で戦っていた時もこの王城の中では激しい戦いが繰り広げられていたのだろう。
「わたくしと母様の部屋は離れた位置にありましたから、それほど被害は受けていませんでしたけど。この王城内で攻め込まれた場所は散々な有様でしたわ。わたくしも知ったのは戻って来てからですけど」
「そうか。何か言われたりしなかったのか?」
「無事で良かったとだけ。わたくしのことは探したそうなのですけど、あの乱戦の最中では見つけられなかったらしく」
『まぁそりゃそうだよね。あんな状況で目的の誰か一人を見つけ出すなんてできるわけがないし。みんな生き残るだけで精一杯だっただろうしね』
「そうですわね。わたくし達もこの王城のことを気にかけている余裕はありませんでしたもの」
あの戦いは誰もが必死だった。ある者は目的のために。またある者は生き残るために。そんな戦いだったのだ。
「着きましたわ」
そんな話をしているうちにレイヴェル達は謁見の間へとたどり着いた。この場所だけ無傷なのは、ここだけは死守したからなのだろう。
コメットが扉を開き、中へ入るよう促す。そしてその先に待っていたのはウィルダー王だった。
謁見の間で待つウィルダー王はひどく疲弊した顔をしていた。
「おぉ、来てくれたか。急な呼び出しですまなかったな」
「いえ。それは大丈夫……です。それよりも、いったい何の用でしょうか」
「そう硬くなることは無い。出立前に挨拶をと思っただけだ」
『あなたが私達に? なんか裏がありそうで怖いんだけど』
「お、おいクロエ!」
「ははっ! まぁそうだろうな。そう思われても仕方がない。これまでずっとお前達には迷惑をかけてきたからな。これまでのことが間違っていた、とは言わない。これが私なりの王としての在り方だったからだ」
『長老達の傀儡であることが?』
「そうだ」
挑発するようなクロエの言葉にも動じることなく、ウィルダー王はその言葉を肯定する。
「少なくとも、これまでそうあることでこの国は安寧を保ってきた。もちろん不満を抱えている者達がいることは知っていた。それでも、私の力ではそれを解決することはできなかったからな」
『……それで?』
「良き王で無かった自覚はある。だがそれでも王としてこの国のためを思う気持ちはある。この国の未来のためにと私が選んだ道だった」
長老達の傀儡であればウィルダー王はこの国を守っていけると、そう思っていた。下手な反発は軋轢を生み、その軋轢が争いを生む。それを避けるための決断。しかし、そんなウィルダー王の決断が今回の戦いを生むことになってしまった。
「今回、長老達はレジスタンスが蜂起した段階でこの国を離れていた。それは私にとって、いやこの国に対する裏切りだ。私はそれを許すことはできない」
ウィルダー王の言葉の語気が強くなる。そこには明らかに怒りの感情がこもっていた。
「国の安寧を守れないならば長老達に従う理由も無い。これからは私が私なりのやり方でこの国を導く」
『それが今回決めたこと?』
「あぁ。もちろんそれで国民の不満が全て解消できるとは思わない。だがそこは全て受け止めよう」
『そう。まぁ好きにすればいいよ。この国のことは私には関係無い……ことも無いか。コメットちゃんもいるし。できるだけ頑張ればいい』
クロエなりの不器用な激励にウィルダー王はフッと笑みを浮かべる。
「そうだな。がっかりされることの無いように努力しよう。そうだ、言わなければいけないことがあったな」
「なんですか?」
「コメットのことだ。あの子からの願いもあってお前達について行くことは認めた。あの子の意思だ。それについて私から言うことは無い。ただあの子は多少世間知らずな所もあるからな。これから迷惑をかけることもあろうだろう。どうかよろしく頼む」
「はい、もちろんです」
『別にあなたに言われなくても』
「クロエ」
『……わかった。あの子達のことは私達が全力で守るから。あなたは心配せずにこの国のことだけを考えて』
「そう言ってくれるとありがたいな。もうこの後すぐに出発するのか?」
「その予定です」
「そうか……では最後に一つだけ。今もこの国があるのは紛れもなくお前達のおかげだ。この国の王として感謝する。ありがとう」
「あ、頭を上げてください! 俺達は俺達のしたいことをしただけですし」
「むしろこれくらいしかできないことを許して欲しいくらいだが。なにぶんこの状況だ。してやれることもほとんど無い。そうだな……またいつでも来るといい。お前達ならば歓迎しよう」
「はい」
『じゃあまた。今度来る時はもっと良い国にしててね』
その言葉を最後に、クロエとレイヴェルはウィルダー王との謁見を終えたのだった。
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