第340話 レイヴェルの目覚め
レイヴェルが目を覚ましたのは、クロエが目を覚ましてから二日後のことだった。
「ここは……」
ずっと寝ていたせいか、それともまだ体が回復しきっていないからなのか、異常な倦怠感がレイヴェルの体を襲う。
体を起き上がらせようとして失敗したレイヴェルは再びベッドへと倒れ込んだ。
「ダメだ。体が思うように動かない。いったい何がどうなったんだ……」
意識を失う前の記憶が判然としないレイヴェルは自分の身に何が起きたのかを思い出そうとする。
「そうだ……思い出した。負けたのか、俺達は……」
最後のアルマとの戦いに敗れたことをレイヴェルは思い出した。その負けをクロエのせいだとは微塵も思っていない。むしろその逆だった。もっと自分に魔力が残っていれば、そんな悔いばかりが脳裏を巡る。
不甲斐ない自分への怒り、そして何よりもクロエへの申し訳なさでいっぱいになる。
「自惚れてたつもりはないんだけどな」
自分達が絶対の存在だと思っていたわけじゃない。それでも心のどこかで魔剣使い以外には負けることはないだろうと思っていた自分がいることは否定できない。
負けた要因を挙げればキリがない。だからこそできるのはこの反省をどう次に生かすかということだった。
「……ダメだな。全然頭が回らない。ここは……宿だよな。見覚えあるし。自分で戻ってきた記憶は無いし……っていうか、あれからどれくらい経ったんだ?」
レイヴェルは少しずつ冴えてきた頭で状況を整理する。
「まさか一週間とか言わないよな。いや、さすがにそこまでは……」
そんなことを考えていたその時だった。部屋の扉が開いてクロエが入ってくる。
手にした水瓶を落とし、派手な音を響かせながらもそんなことにも気付かない様子で驚きに目を見開いている。
「レイヴェルッ!!」
水瓶のことなど気にもせず、一目散にレイヴェルの元へと駆けて来るクロエ。そしてそのままの勢いでレイヴェルのことを抱きしめた。
「よかった。レイヴェル……ホントに良かった……全然目を覚まさないから……私、心配で……」
「クロエ……」
涙声で呟くクロエを見てレイヴェルはその体をそっと抱きしめる。いつか目を覚ますとわかっていても不安だったのだろう。その体は僅かに震えていた。
「ごめんクロエ、心配かけた」
「ううん、それはいいの。ごめんなさいレイヴェル。私のせいで……」
「お前のせいじゃない、なんて言っても納得しないんだろうな。でもそれでもお前のせいじゃない。だからここはお互い様ってことにしとこう。自罰的過ぎるのもよくないからな。ここから頑張っていこう」
「……うんっ」
ようやく聞けたレイヴェルの声。そしてその温もりと優しさがクロエのことを包み込む。
その温もりに浸ることしばらく、クロエは少しだけ名残惜しそうにしながらも体を離してレイヴェルの体を触る。
「体の調子はどう? えっと、痛い場所があるとか、気分が悪いとかない?」
「大丈夫だって。まぁちょっと寝過ぎたせいか体はダルいけどな。結局、どれくらい寝てたんだ?」
「四日間かな。私もあの戦いの後、二日間は寝たままだったけど。やっぱりレイヴェルの方がダメージは大きかったみたいだね。レイヴェルは魔力量も他の人より多いから、回復に時間がかかったんだろうし」
「四日間か……そりゃ長いな。っていうか、あれから色々とどうなったんだ? ここって俺達が泊まってた宿だよな?」
「そうだね。説明はするけど……」
レイヴェルのお腹がグゥ、と鳴って空腹を訴える。四日ぶりに目を覚ました体は食事を欲していた。
そんなレイヴェルを見てクロエは優しく微笑む。
「まずは食事からだね」
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