第72話 戦いの幕引き
「はぁあああああああっ!」
「っ!」
『ディエドッ!!』
レイヴェルの剣がその体に突き刺さる直前、ダーヴが鎧を操作して無理やりディエドの体の軌道をずらす。
その結果、胸に突き刺さるはずだった剣は僅かにズレてディエドの右肩に突き刺さった。
「まだだ……吹き飛べ!」
「っ、おらぁっ!!」
剣から破壊の力を流し込もうとしたレイヴェルだったが、それよりも早くディエドがレイヴェルの体を蹴り飛ばす。
「ぐぅっ、くそ仕留めきれなかった!」
『でも今のは相当ダメージが入ったはずだよ』
ディエドに蹴り飛ばされる直前、僅かではあったがクロエは破壊の力をディエドに流し込んだ。
おそらく今はダーヴがディエドの中で暴れる破壊の力に抗っているはずだとクロエは言う。
「じゃあ攻め切るなら今がチャンスってことだな。行くぞクロエ!」
『うん!』
「くそが。調子乗ってんじゃねーぞ!」
ディエドは使えなくなった右腕の代わりに左腕に剣を持ち替えて応戦する。右腕が使えないから戦えませんなどという腑抜けたことをディエドは言わない。
どんな状況だろうと。どんな状態だろうと死ぬまで戦い続ける。それがディエドの矜持だ。
『レイヴェル! あいつに回復する時間与えちゃダメだよ!』
「わかってる!」
ディエドの回復力の速さは魔人族だということを考慮しても明らかに異常なレベルだ。今はクロエの力で再生が阻害されているとはいえ、それでも徐々にディエドの傷は回復しつつある。
ディエドの傷が塞がってしまえばまた振り出しだ。
レイヴェルとクロエの怒涛の猛攻をディエドは左腕一本で受けきる。
「いいなぁお前ら! ここまでやられたのいつぶりだおい。楽しいよなぁ、最高だよなぁ! そうだろダーヴ!」
『きひひひっ♪ ちょっとした遊びで来たつもりだったけど、まさかここまで楽しめる玩具に会えるなんて』
『私達はあなた達の玩具なんかじゃない! 前回の借り、ここできっちりと返させてもらうから!』
「はぁああああああっ!」
「おらぁっ!」
激しく斬り結ぶレイヴェルとディエド。
腕に感じる甘い痺れ。そして体に走る痛み。それが何よりディエドに生を実感させる。戦いの中でこそより強く感じる生の感覚にディエドは心から歓喜していた。
ディエドが本気で殺そうとしても殺せず、食らいついてきたレイヴェル。そして今こうしてディエドは逆に追い詰められつつある。
「なぁ、てめぇら名前なんて言うんだよ」
「なんだと?」
「てめぇらの名前だよ。名前覚えんのは得意じゃねぇんだ。でもよぉ、気に入った奴の名前くらい覚えときてぇだろ?」
「……レイヴェルだ。レイヴェル・アークナー」
「お前は?」
『クロエ・ハルカゼ。あなたに覚えてもらう必要はないけどね!』
「んだよ、ツレねぇこと言うなよな。なぁダーヴ」
『レイヴェル君ねー、うんうん、ちゃーんと覚えたよ。そっちはどうでもいいけど』
『は?』
『だってダーちゃんあなたのこと嫌いだもーん。覚えてあげなーい』
『あのねぇ……自分のこと“ダーちゃん”って呼んだりとか、“だもん”だとか使わないでよこのぶりっ子! そういうの聞いててムカつくから! 私だってあなたの名前なんて覚えてやらないからこのクソ魔剣!』
『あーやだやだ。クソとか使っちゃう口の悪い魔剣と契約するとかレイヴェル君運悪いよねー』
『はぁ? そっちこそぶりっ子の魔剣と契約させられるとか可哀想だよね』
『…………』
『…………』
『レイヴェル!』
『ディエド!』
『『こいつぶっとばして!!』』
「くははっ、魔剣同士ってのはどうしてこう相性が悪いんだろうなぁ。まぁお前をぶっ飛ばすってのには賛成だ。終わらせようぜ」
「あぁ、望むところだ!」
互いの一定の距離を取ったレイヴェルとディエドは剣に己の魔力を流し込む。
「やるぞクロエ!」
「終わらせるぞダーヴ。さぁ、見せてみろよレイヴェル、クロエ! お前らの力をなぁ!」
臨界に達したレイヴェルの魔力が剣からあふれ出し、大地を破壊した。同様にディエドの注ぎ込んだ魔力も剣からあふれ出し、周囲の大地を蝕む。
「破剣奥義——」
「呪剣奥義——」
レイヴェルもディエドも、全く同じタイミングで駆け出した。
『破魂ノ——』
『呪懺——』
「そこまでだ」
「「っ!」」
突如として二人の間に割り込んできたローブの人物がレイヴェルとディエドの動きを封じた。
「な、なんだこれ! 動けねぇ……」
『何これ!?』
「ちっ、おいノイン! テメェ何で邪魔しやがる!」
『そうだよ! 呪い殺すよ!』
「呪い殺したければ好きにしろ。だが、私達の目的を忘れてもらっては困る。私達の目的は……ん?」
『この……これくらいで私達の動きを止めれると……はか——』
「やめておけ魔剣少女よ。その縛りを無理やり破壊するのは勧めない」
『え? きゃあっ!』
破壊しようとした途端、力の流れを乱されてクロエは思わず悲鳴を上げる。
「だから言った。やめておけと。だがしかしこれは……しくじったなディエド」
「あ? どういうことだよ」
「竜の卵はすでに奪われた。そこの男にな」
「んだと?」
『え、マジ? いつの間に? ずっとダーちゃん達と戦ってたのに』
「いつかは知らない。だが確かにそこの男の中から竜の存在を感じる。こうなってはここにいる意味もない。帰るぞ」
「おいノインふざけんなよ。せっかく楽しくなってきたんだ。一回邪魔されただけでも殺したいくらいムカついてるのによぉ。それを帰れだと?」
「お前の事情など知らない。私を殺したいというならば殺せ。しかしこの命令には従ってもらう。竜の卵を手に入れられなかった場合はすぐに戻れというのがあのお方の命令だ」
「だから俺にも言うこと聞けってか? あいにくだがな、俺にあいつの命令を聞く道理は——」
「お前がなぜ私達と共にいるかを忘れるな。それでもと言うのであれば私も力づくで連れて帰らせてもらうぞ。今のディエドであれば、勝てはせずとも傷は負わせれるだろう。そうなればディエドの望む、満足のいく戦いはできない」
「ちっ、このやろう……」
『ダーちゃん、あの女も嫌いだけどノインのこともきらーい』
「俺もだ」
そう文句を言いながらも、ディエドは剣にため込んでいた魔力を上空へと放出し、剣を収める。
「言うこと聞くのは癪だが、今回は引いてやる。後で覚えとけ」
『覚えとけ!』
「努力はしよう」
「そういうわけだ。悪いなレイヴェル。今回はここまでだ」
『ちぇ、せっかくあの女ぶっ飛ばすところだったのに』
『逃げる気?』
「粋がるな魔剣。あのままぶつかっていればディエドも、その男も無事ではすまなかった。そしてこれ以上やるというのであれば私が相手になろう」
『…………』
「クロエ、今は」
『わかってるけど……』
「次だ。次こそ決着をつける。今度は互いに最初から全力でやろうぜ? お前らは今から俺……俺達の獲物だ」
『獲物決定♪ いひひっ、私達に呪い殺されるまで、誰にもやられちゃダメだよぉ?』
「ラグナロクシリーズの魔剣か……その力、あのお方にもしっかり報告しておこう」
「余計なことすんな。あれは俺らの獲物だ」
「それを決めるのは私ではない」
ノインはそのままディエド達の前に立つと、フードの奥からじろりとレイヴェルとクロエに視線を送る。
「今回は貴様らに勝利を譲ってやる。だが次は無い。覚えておけ。お前達は今から私達の標的だ」
「おい、俺らの獲物だって言ってんだろ!」
『そーだそーだ!』
文句を言うディエド達には耳を貸さず、ノインは一陣の風を巻き起こす。
そしてその風が静まった頃には、ディエド達の姿はその場から消えていた。
『逃げ……た?』
「行っちまったのか……ぐぅっ!」
『レイヴェル!?』
その場に膝をつくレイヴェルを心配したクロエは慌てて人の姿に戻り、その体を支えた。
「大丈夫レイヴェル!?」
「だ、大丈夫だ……それよりも……ラミィ達を、早く……がはっ!」
「レイヴェル、レイヴェルッ!?」
「クロ……エ……」
「クロエ! レイヴェル!」
「ラミィ、レイヴェルが、レイヴェルがっ!」
「あんた、この血……」
「っ……」
俺は大丈夫、そう言おうとしたレイヴェルだったが口が上手く開かない。
それどころか目が霞んで、体の力も抜けていく。
(くそ、ダメだ。これ以上は……意識が……)
心配そうにのぞき込むクロエとラミィの姿を最後に、レイヴェルは意識を失った。
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