第221話 圧倒的コミュ力

〈レイヴェル視点〉


 微妙に参加しづらい会話が目の前で繰り広げられるなかで、二人の女の子がオレ達の前に現れた。

 俺は会ったことの無い子達だし、この感じだとクロエとコメットがサーカス見た時に会ったって言う子達か?

 金髪と銀髪の少女。金髪の子は活発な印象で、銀髪の子は若干暗い印象を受ける。

 

「やっほー、また会ったね。おねーさん♪」

「ワンドちゃん、それにクランちゃんも」


 ニコニコと手を振るワンドと呼ばれた女の子。クランと呼ばれた子は小さく会釈するだけだ。


「いやぁ、奇遇だねおねーさん。もしかしたらまた会えるかも、なんて思ってたけど」

「ホント奇遇だね。結構広い食堂だったから私も驚いちゃった」


 なんてことはない再開した時の会話。そのはずなのになんか微妙に違和感がある。

 向こうはともかく、クロエはなんか探ってる感があるというか。どこか一線を保とうとしてる感じだ。

 理由はわからない。悪い子には見えないんだけど……あくまで第一印象は、の話だ。


「えっと、そっちのお二人さんはまだ初めましてさんだよね。あたしはワンド。こっちはクラン、よろしくね♪」

「あ、あぁ。よろしく。俺はレイヴェルだ」

「うんうん、レイヴェルおにーさんね。ふぅん……」

「どうかしたのか?」

「……ううん、なんでもないよ。けっこうあたしの好みかもって思っただけ」

「はぁ!?」

「ワンドちゃん?」

「あはは♪ 冗談だってば。初対面の人に惚れるほど軽い女じゃないもん。だからそんなに怖い顔しないでよ。せっかくいい笑顔ができるのにもったいないよ?」

「別に怖い顔なんてしてないと思うんだけど。え、もしかしてしてた?」

「うん、もう。一瞬鬼が出たかと思っちゃった。普通の子なら泣いちゃうかも。あたしは平気だけどね♪」

「ごめん。そんなつもりは無かったんだけど」


 平気と言うだけあって、クロエの圧にも全く怯んだ様子が無い。こんな子は初めてかもしれないな。


「…………」

「? えっと、クランちゃんだっけ。君も何かあるのか?」

「クランでいい。ちゃんはいらない」

「そうか。わかった」

「見てた理由は特にないから、気にしないで」

「あ、あぁ。わかった」


 この子はこの子でワンドちゃんと違う意味で距離を測りかねる子だな。何を考えてるかわからないというか。こっちに向けられた瞳から感情が読み取れない。

 人が人を見るときにはなにかしらの感情が混じるもんだけど、それが全くない。完全に無だ。ほんとに興味が無い感じだ。

 だったらなんで俺のこと見てたんだって話なんだが。

 初対面の子たちに対してちょっと失礼かもしれないけど、ちょっと不気味な感じだ。

 ずっと笑顔でいるワンドも、逆にずっと無表情なままのクランも。


「で、そっちのおねーさんは誰なの?」

「あ?」

「おーこわ。駄目だよ女の子がそんな怖い顔してちゃ。あたしほどじゃないけど可愛いんだから、もっといい笑顔しないと」

「うるせぇ。ってか何の用なんだよお前ら」

「あははっ♪ 別に用がないと話しかけちゃダメってわけじゃないでしょ。友達に会ったら声をかける。当たり前のことだと思うし」

「ダチ? お前らとクロエが? さっき会ったばっかなんだろ」

「別に友達になるのに時間は関係ないと思うなぁ。あたしはおねーさんのこと気に入ったからもう友達だよ」


 なんてコミュ強。俺とは雲泥の差だな。

 でもこれくらい強引にいったほうが友達は作りやすいのか?

 まぁ俺には真似できそうにないが。


「だから教えて、あなたのお名前。あなたともお友達になりたいから」

「……ちっ、アイアルだ。だがてめぇとダチになる気はねぇよ」

「あらら、振られちゃった。おねーさん慰めてー」

「え、え?」

「そういうときはヨシヨシって頭撫でてくれないと。ほらほら」

「えーと……よしよし」

「うふふ、おねーさん上手だね♪」

「あ、ありがとう?」


 ワンドって子のテンションにずっと押されてる。珍しいな。

 というかあの子には有無を言わせぬ雰囲気がある。全部を自分のペースにもっていく感じだ。今この場は完全にワンドに支配されていた。


「せっかくだしこのまま一緒に、といきたいところなんだけど……」

「それは無理。用事がある」

「用事? もう夜だけど今から何かあるの?」


 クロエのいう通り今はもう夜だ。それほど深い時間じゃないとはいえ、今から何かイベントがあるようなことも聞いていないしな。


「あはは♪ ちょっとね。おねーさん達は気にしないで」

「行こうワンド。時間が押してる」

「おっと、ほんとだ。あーあ、もうちょっとおねーさん達と話したかったのに。そこでさっきから黙ってるコメットちゃんともね」

「う、バレてましたの?」

「だってずっと隠れて顔ムニムニしてるんだもん。笑顔の練習してたでしょ」

「あなたがあんなこと言うからですわ」

「あははっ♪ じゃあ次に会う時には良い笑顔に期待できるかな」

「もちろんですわ。必ず納得させてみせます」

「うん、楽しみしてる。それじゃあみんなまたね」

 

 そう言ってワンドとクランは俺達の前から去っていった。

 なんか嵐みたいな子たちだった。そんなに会話したわけじゃないのにドッと疲れた気がする。

 またね、か。なんでだろうな。妙に嫌な予感がするというか。変なことにならないといいけど。

 離れていく二人の姿を見ながら、俺はそんなことを考えていた。


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