第220話 今時珍しい純粋さ
「ただいまー。ねぇねぇ聞いてよレイヴェル、アイアルったら――ん?」
「だからその話は秘密だって言ってんだろ! なに勝手にバラそうとしてんだ! って、どうしたんだよ」
「いや、どうしたんだよって言いたいのはこっちなんだけど」
レイヴェルとコメットちゃんの間になんか変な空気が流れてるというか。
上手く言葉にはできないんだけど、妙な違和感がある。オレがいない間にまた何かあったのか?
「レイヴェル?」
「お、おう。遅かったな。なかなか寝付かなかったのか?」
「そうなんだけど。なんか話を逸らそうとしてない?」
「別に逸らそうとなんかしてないぞ。あぁ、してない。全然してない」
怪しい……怪しさが爆発してる。もうちょっとマシな嘘の付き方ってあると思うけど。
レイヴェル嘘つくの下手だからなぁ。
でも何かあったにしてはコメットちゃんは普通に紅茶飲んでるし……いや、普通ではないか。ちょっとだけソワソワしてる気がする。
何かあったのは明白。でも突き詰めて聞いちゃっていいものなのか。
オレも今はレイヴェル達に隠し事をしてるし。
別に後ろめたい隠し事ってわけじゃないけどさ。それでも隠し事の一つや二つあるもんだろうし。
でもなんだろう。嫌な予感がするっていうか。
「……まぁいいか」
悩んだすえ、結局オレは問い詰めるのを止めた。
今のオレが問い詰めてもどの口がって話だし、逆にこっちの隠し事を問い詰められることになりかねない。
オレが今レイヴェル達に隠してることはまだ話す時じゃない。
それに何よりオレはレイヴェルのことを信じてる。もし話さないといけないようなことならきっと話してくれるはずだって。
せっかく気分を入れ替えるために食堂に来たのに、また変なことして妙な空気になるのは嫌だ。
「えーと、それで、そっちは何かあったのか? なんかやたらと楽しそうだったが」
「あー、そうそう。アイアルの好きなタイプについての話を聞かせてもらったんだけど」
「聞かせてもらったじゃなくて無理矢理聞き出したの間違いだろうが!」
「えー、そうだったかなぁ」
「まぁ、ずいぶんと乙女らしい会話としてましたのね」
「ふふん、たまにはね。わかったのはアイアルが思った以上に乙女チックだったってことかな。白馬の王子様系が好きなんだよね。かなり以外だったかも。そういうのもっと表に出していけばいいのに。ギャップ萌えってあると思うよ」
「うるせぇ! 余計なお世話だ! ってかなんだよギャップ萌えって!」
「それは確かに以外ですわね。土臭いドワーフはもっと体格の良い男性が好みかと思っていたのですけど」
「いちいち喧嘩撃ってんのかてめぇは。どんなのがタイプだろうが関係ねぇだろうが」
さすがに恥ずかしいのか言い返す言葉にも力が無い。別に王子様みたいな人がタイプでも悪くないと思うんだけど。コメットちゃんの言うとおり意外ではあるんだけどさ。
ドワーフ族は結構険しい場所に住んでるから、ゴツい人が多い。もしかしてだからかな。
逆に、みたいな。ゴツい人ばっか見てたからそういう人に憧れを抱いたのかもしれない。
「別に悪いとは言ってませんわ。あなたにそういった男性が似合うとも思いませんけれど」
「じゃあそういうてめぇはどういう奴がタイプなんだよ。アタシが言ったんだからてめぇも教えろよ」
「わたくしですか? そうですわね……」
ん? 今一瞬レイヴェルの方を見たような気がする。気のせい……か?
「わたくしは誠実な方が好みですわね。一人の女性を一途に愛せる男性がいいですわ」
「なんだよそれ。そんなの当たり前のことじゃねぇか」
「ふふっ」
「な、なんだよ。何がおかしいんだ?」
「別になんでもないよ。ただ可愛いなぁって思って」
「なんだよそれ、ふざけてんのか?」
一途に愛せる男が当たり前、か。そういう思考になる辺りだいぶ乙女思考というか。
なんかそのうち悪い男に騙されるんじゃないかって心配になるくらいだ。
「まぁまぁ、そんなに怒らないで。ホントに悪いことだとは思ってないんだからさ。むしろ今の時代に珍しいほどの純粋さというか。大事にしておくべきだと思うよ、そういうの」
オレは本気で言ってたんだが、それもからかわれてると思ったのかムスッとした表情でそっぽを向く。
さすがにちょっとしつこかったか。でもアイアルの意外な一面が知れてちょっと得した気分だ。
「お肉でも食べて機嫌直して。私、頼んできてあげるからさ」
そう言ってオレが立ち上がったその時だった。
「あれー、さっきのおねーさん達だ」
う、この声は……。
聞き覚えのある声だ。具体的にはついさっき劇場で聞いたばっかの。
食堂に行くって聞いてからもしかしたらとは思ってたんだけど。
オレはゆっくり後ろを振り返る。
「やっぱり……」
そこに居たのは予想通り、ワンドちゃんとクランだった。
ワンドちゃんは相変わらずニコニコしていて、クランは何を考えてるかわからない無表情だった。
「やっほー、また会ったね。おねーさん♪」
そう言ってワンドちゃんは屈託のない笑みをオレに向けてきた。
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