第47話 竜人族について
ジェットコースターといものをご存知だろうか。遊園地に設置されてるアトラクションのあれだ。いわゆる絶叫マシン。高速で回転したり天地が逆さまになったり。スリルを味わうことを目的とした遊具だ。
でもあれは安全なスリルを楽しむものであって、本当に命の危険があるわけじゃない。ちゃんと点検やメンテナンスはされているし、途中で飛んでいかないように安全装置もある。
本当の意味でスリルだけを楽しむものなんだ。ジェットコースターっていうのは。
んで、なんでこんな話をしてるのかっていうと……。
「ひぃいいいやぁあああああああああっっ!!」
「アハハハハ! もっと飛ばしなさいシエラ!」
今まさにオレが命懸けのジェットコースターに乗せられているからだ。
「ラ、ラミィ! 落ちる! 落ちる!」
シエラの背中という名のジェットコースター。しかもこのジェットコースターには安全装置は無し、それでいてジェットコースターよりも速い。これで怖くないはずがない。
さっきから涙目だ。だからラミィの操るドラゴンの背には乗りたくなかったのに。シエラもノリノリだし。
ラミィはあれだ。運転すると性格変わるタイプだ。スピード狂だ。
必死にラミィにしがみついてるからなんとか大丈夫だけどさ。
レイヴェルは大丈夫かな? ラミィが間に挟まってるからレイヴェルの姿が見えない……。
「レイヴェルー、大丈夫ー?」
「な、なんとかな。うおっ!」
「きゃんっ!」
急にぐわんと大きく揺れたせいで変な悲鳴がでた。
普通に恥ずかしいんだけど。
「ちっ、落ちなかったか」
「なんか物騒なこと呟いてない!?」
「気のせいよ。それよりどう、久しぶりのシエラの背中からの景色は。綺麗でしょ?」
「確かに綺麗だけど……それを楽しんでる余裕はないよ」
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。クロエのことは絶対に落とさないから」
「レイヴェルのことも落とさないでね」
「善処するわ」
「できれば確約して欲しいんだけど。あともう少し安全に飛べない?」
「んー、それでもいいけど。そしたら着くの遅くなるよ? まだ結構距離あるし」
「それよりも安全重視で行きたい……今ラミィがいる里についても知りたいし。レイヴェルは竜人族についてあんまり知らないと思うから、その辺も含めて説明して欲しいな」
「なんで私があいつに……」
「お願い! ね?」
「……後で私のお願い聞いてくれる?」
なんで竜人族のことを説明してもらうだけでお願い聞かなきゃいけないんだ、とは思うけど。んー、レイヴェルにはちゃんと知っておいてもらいたいし。オレの持ってる知識だけじゃ足りないからラミィから話してもらいたいし。
しょうがないかー。ラミィならそんな無茶なお願いはしてこないだろ。
「んー、わかった。私にできることならね」
「やった♪ それじゃあクロエのお願いだから。あくまでクロエのお願いだから! あんたにも私達竜人族のことを説明してあげるわ。一度しか言わないからしっかり聞きなさい」
「あぁ、わかった」
はぁ、相変わらずオレの時との温度差が酷すぎる。
よくはないけど、こればっかりはオレが言っても意味ないと思うしなぁ。
オレもなんとかしたいけど……うん、このことは後で考えよう。
「まず、私達竜人族の里は世界各地に全部で十あるわ。それぞれの里に族長が居て、竜命木の守護をしている。竜命木のある所に私達竜人族の里は作られる。竜命木は魔素に満ちているから。私達竜人族にとってはすごく過ごしやすい環境なの。まぁ人族にとっては毒みたいな場所だけど」
魔素ってのは大気中に満ちる魔力の源みたいなやつだ。まぁだからって呼吸してるだけで魔力が劇的に回復するかっていうとそういうわけじゃないんだけど。
ご飯食べたりとか、寝た方が魔力の回復は早い。だから普通の人は魔素を意識して生活することなんてない。
でも、一部の場所は別だ。劇的に魔素の濃い場所がある。そのうちの一つが竜命木の周辺だ。そこだけは、呼吸するだけで魔力が回復する。
だからこそ、普通の人間には住めない。魔素の許容量が他種族よりも多い竜人族だからこそ生活できるんだ。
言っちゃえば呼吸してるだけでお腹いっぱいになるようなもんだし。
そんなの耐えれるわけがない。耐えれるのはごく一部。人並み外れた魔素の許容量を持つ人……つまり、めちゃくちゃ魔力を持ってる人だ。
「毒って……そんな場所に俺が行っても大丈夫なのか?」
「さぁ? 知らないわ」
「知らないって、お前なぁ」
「知らないものは知らないもの。あのギルドマスターはその辺りも加味してあんたを選んだんでしょ。知らないとは思えないし」
「でもなぁ……」
「レイヴェルなら大丈夫だと思うよ」
「そうなのか?」
「うん。レイヴェルの魔力量は他の人とは比べ物にならないくらい多いし。それに、もしダメそうなら私がなんかするから」
「なんとかできるのか?」
「うん。私のレイヴェルにはパスが繋がってるから。溢れそうになった魔力は私が吸う。それでなんとかなるはずだよ」
「羨ましい……私もクロエとパス繋ぎたい……」
ラミィから聞こえた怨嗟の声はいったん無視しよう。相手にしてたらキリがない。
「まぁ、それなら大丈夫か」
「そういうこと。だから魔素についてレイヴェルが心配する必要はないよ。ところでさ、前の里からは移動したの?」
「えぇ。私とマ……お母様、それから一部の者だけが今いる里に移住したわ」
「なんでそんなことに……」
「……殺されたのよ。前の族長が」
「えっ!?」
「誰がやったかは不明。前の族長がそのことをお母様の相談して、私とお母様がやって来た時にはもう遅かった」
苦々しい表情で語るラミィ。詳しくはわからないけど、きっと色んなことがあったんだろう。
でもなんで他の里の族長だったあの人が今の里の族長になれるんだ?
族長って里単位で決められるもんだって聞いてたし、いくら他の里で族長やってたからってそのまま選ばれるなんてことはないと思うんだけど。
「なんでお母様は今の里の族長に」
そんなオレの疑問は顔にありありと出てたのか、ラミィが小さく笑って教えてくれた。
「遺書があったのよ。前族長の。もし自分の身に何か起こったら、族長はお母様に任せるって。竜人族にとって族長の言葉は絶対。たとえ死んだ後であったとしても。もちろん断ることもできたんだけどね。色々あって受けることにしたの」
「つまり今の里の人からしたら余所者が族長になったってことか? あり得るのかそんなの」
「あんたはわからないでしょうけど、それだけ絶対だってこと。まぁ、もちろん反発が無かったわけじゃないけど。それでも遺書の存在は大きかった。お母様の名声は他の里にも轟いてたしね。それが約一年半前の出来事よ」
そこでふと言葉を切ったラミィは、何事かを思案する顔になる。
「どうしたの?」
「……その後からなのよ。魔人族が里の襲撃をしてくるようになったのは」
「え?」
「あんまり考えたくもない話だけど、お母様は今の里に裏切り者がいると考えてるわ。というより、確実にいる。だから、私達はそれも警戒しないといけない」
「裏切り者って……」
竜人族は六大種族の中でもエルフ族に並んで同族意識の強い種族だ。
裏切り者がいるなんて……。
「信じられないけど、そう考えるしかない。ホントにふざけた話よ。絶対に許さない」
怒りを滲ませながら呟くラミィ。
「裏切り者にも、魔人族にも、竜命木を好きにさせたりしないわ。だからそのためにも力を貸してクロエ。それと、一応あんたも」
「当たり前だよ!」
「あぁ、もちろんだ。それと、できればそろそろあんた、じゃなくて名前で呼んで欲しいんだけど」
「ふん、あんたなんてあんたで十分よ」
魔人族だけじゃなくて、竜人族の裏切り者……厄介な依頼になりそうだ。
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