第46話 いざ竜人族の里へ

 ラミィからの依頼を受けることになった翌日。まだ日も昇り切っていない早朝。

 オレは眠気を堪えながら集合場所へとやって来ていた。

 集合場所はイージアの城壁を出たところだ。


「ふぁ~~~」

「でっかい欠伸だな」

「む。ダメなんだよレイヴェル。女の子のそういう顔見ちゃ。すぐにサッと顔を逸らさないと」


 慌てて顔を隠しても時すでに遅し。レイヴェルに欠伸顔を見られてしまった後だ。

 いくら眠いとはいえ不覚だった。こういうのはちゃんと気をつけようと思ってたのに。

 

「へいへい。次からは気を付けるよ。それより集合場所ここなんだよな」

「うん。ラミィから言われた場所はここなんだけど……肝心のラミィがいないんだよね」


 集合時間まであと少しだっていうのに、ラミィの姿が見えない。

 今までラミィが約束に遅刻したことなんてないし、朝に弱いタイプでもないから寝坊でもないと思うんだけどな。

 うーん? どういうことだ?

 なんてことも思ってたその時だった。


「おーーい! クロエーーーーーー!!!」

「声? どこから……」

「こっち、こっちよーーー!!」

「上? ってうわぁっ!!」


 上を見上げたオレの視界に映ったのは、巨大なドラゴンの腹。つまりシエラの真っ白なお腹だった。

 昨日のちっこい可愛い状態のシエラじゃない。普通に通常サイズのビッグシエラ!

 それが急に迫って来てたんだからそりゃビックリもするだろ。腰抜かすだろ!


「おいクロエ。大丈夫か」

「あ、ありがとレイヴェル」


 レイヴェルに手を引かれて立ち上がる。

 いや、急に目の前ドラゴンはマージで心臓に悪い。


「待たせたわね。ちょっと準備に手間取っちゃったのよ」


 ゆっくりとシエラがオレ達の前に降りてくる。正直かなり風圧がすごい。

 今日スカート着てなくてよかったー。スカート着てたら絶対風圧でバサバサなってただろうし。

 

「だ、だからってシエラに乗って来なくても。びっくりしたよ~」

「それはちょっと狙ったところもあるんだけど。クロエのびっくりする顔見たかったし」

「もう! まだ心臓ドキドキしてるんだから!」

「私へのときめきで?」

「シエラにビックリして!」

「クゥーン……」

「あ、ごめんね。シエラに怒ってるわけじゃないから。大丈夫だよ~」

「ガゥッ♪」

「ちょっとシエラ。くすぐったいから舐めないでってば」


 あと、きっと傷つくから直接は言わないけど、小さいサイズの時ならまだしも今の通常サイズでそれやられると食べられそうな気がして正直怖い。

 グワッてくるからね、グワッて。オレの頭なんか丸呑みにできるくらい口大きいし。

 まぁシエラは良い子だからそんなことしないってわかってるけどさ。


「これが昨日の……ホントにでかいんだな」

「ふん、当たり前のこと言わないでくれる」

「♪」

 

 相変わらずツンとした態度を崩さないラミィとは対照的に、シエラはよほどレイヴェルのことが気に入っているのかオレにしたのと同じようにレイヴェルの顔をペロペロと舐める。

 昨日会ったばっかりなのにここまで気を許すなんて。珍しいこともあるもんだなぁ。

 これも最早一種の才能と呼べるのでは?


「あ、こらシエラ! こんな男舐めるのはばっちぃから止めなさい!」

「ばっちぃってなぁ」

「クゥーン……」


 ラミィに怒られたシエラはちょっとだけシュンとしながらレイヴェルから離れる。


「一つ勘違いの無いように言っておくけど、私はまだあなたのことを認めたわけじゃないからね。今回の依頼の件に関しても、クロエのことに関しても!」

「お、おう」

「ちょっとラミィ」

「クロエは黙ってて。どんな風にして純情で可憐でそれでいて愛らしいクロエのことを騙したか知らないけど、私の目は誤魔化せないだから。今回の依頼期間の間にあんたの化けの皮を剥いでやる! そして私が改めてクロエの契約者になってみせる!!」


 ふーっ、ふーっと息荒くレイヴェルを指さすラミィ。

 人を指さすのは行儀が悪い……なんてことは今はどうでもよくて。

 うーん、こりゃダメだなー。完全にレイヴェルのことを敵対視してる。

 とりあえずレイヴェルの同行を認めてくれただけでも進歩かもしれないけどさ。

 できればこの依頼期間の間に少しでも仲良く……いや、少しだけ仲良くなってくれるといいんだけど。

 なんかきっかけでもあればいいんだけどな。まぁそれは探り探りでやっていくしかないか。

 ずっとこんな険悪は雰囲気のままいたくないし。険悪なのはラミィだけなんだけど。

 レイヴェルは案外怒ってないっていうか、そんなに気にしてる風じゃないんだよなー。


「と、とにかくさ。竜人族の里まで移動するんでしょ。シエラに乗って行くの?」

「えぇ。陸路だろ時間がかかってしょうがないし。シエラならひとっ飛びだもの」

「そいつに乗って行くって三人全員乗れるのか?」

「あなたは走って追いかけてくれば?」

「ラミィ!」

「……乗れるわよ。シエラなら三人くらいわけないもの。ほら、あなた達の荷物を貸して。私の空間魔法で収納しておくから」

「わかった。はい」


 オレの荷物を受け取ったラミィは丁寧に収納し、続いてレイヴェルの荷物を受け取ったラミィはまるでゴミでも捨てるかのように投げて収納した。

 うん、なんていうかもういちいち突っ込んでたらキリがないってやつだ。

 はぁ、ホントにもうなんていうか……。


「どんな風に乗ろっか。やっぱりラミィが一番前に来て、その後ろに私とレイヴェルかな」

「それはダメ!」

「え、ダメって言っても。他にどうするの? 言っとくけどレイヴェルを尻尾に括りつけるとか、シエラに足にしがみつかせるとか。そんなのは無しだからね」

「うっ……」


 うっ、ってなんだ。もしかしてマジでやるつもりだったのか? それどんな拷問だよ。


「まさかラミィ本当に……」

「いや、違う! 違うから。そんなこと考えてない。ただクロエとあいつが近くなのが嫌なの。だからこうしよう」


 それからラミィの示した席順は、オレ、ラミィ、そしてレイヴェルという順番だった。

 オレとレイヴェルの間にラミィが入った形だ。

 そこまでしてオレとレイヴェルをくっつけたくないのか。

 もはや執念だなこれは。


「これで良しよ。ほらクロエ。もっと私に近づいて。落ちると危ないでしょ。あんたは極力離れて。落ちたら骨は拾ってあげるから」

「できれば落ちないようにしてくれよそこは」

「ふん、乗せてあげるだけありがたいと思いなさいよ。本当なら男なんて絶対に乗せないんだから。それじゃあ、しっかり捕まってなさいよ。シエラ!」

「ガルゥ!!」

「きゃぁ!」

「うおっ!」


 ラミィの合図と共にシエラがその大きな翼をはためかせる。

 すごい風が巻き起こって、シエラの体がオレ達を乗せたままゆっくりと浮かび上がる。

 何回もシエラに乗ったことはあるけど、毎回この瞬間はいつもちょっとドキドキする。


「行くわよ!」

「うひゃあああああっ!!」

「うわぁっ!」


 ……オレ達、無事に竜人族の里までつけるかなぁ。

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