第45話 ラミィの依頼
「ラミィ!?」
「クロエ!」
イグニドさんに呼ばれて部屋に入って来たのはなんとラミィだった。
あの後どこに行ったのかと思ってたけど、まさかイグニドさんの所に来てたなんて。
そういえば冒険者ギルドに用事があるとかなんとか言ってたっけ。ここで会うことになるなんて。
「なんだ、お前達知り合いか?」
「知り合いというか……ラミィは私の友達で。昔からの付き合いなんです」
「ほう。ならなおのこと都合が良い。よし、決まりだな」
「決まりって、待ってくださいイグニドさん。俺達どんな依頼かも聞いてないんですよ」
「そうです。私が指定したのはA級以上の冒険者だったはずですが。何がどうして、クロエはともかくこんな新米冒険者に依頼が回ることになるんです!」
「あー、うるさいうるさい。ちゃんと説明してやるから黙ってろ。燃やすぞ」
「「「っ!」」」
ゴウッと右腕に炎を出現させるイグニドさん。
っていうか、イグニドさん炎で脅すの癖になってないか?
恐怖政治だ恐怖政治。いくらなんでも横暴すぎ——。
「なんか言いたげだなクロ嬢。あん?」
「なんでもありません!」
な、なんでバレたし……。
「いいから三人ともそこに座れ」
「わかりました……」
イグニドさんに言われるがままに席に座る。レイヴェルもラミィもそれに合わせてソファに座った。
ラミィがレイヴェルの隣に座るのを嫌がったから、必然的にオレは二人の間に挟まれることになったんだけど……。
「えーと、なんでそんなに近いの?」
「近い? ちょっとあんた、クロエから離れなさいよ」
「いやいやレイヴェルじゃなくて、ラミィの方だって!」
ソファは三人以上が座れる広さがある。なのに、なのにだ。ラミィはオレに密着するみたいに座ってるんだ。密着っていうか、もはやオレに抱き着いてる。
抱き着かれてるせいで花みたいな匂いとか、柔らかい肢体の感触が~~~っっ!!
あぁ! ダメだ! なんか頭が茹でタコになりそう!
「グへへ、すんすん……クロエの匂い……あぁ最高。最高すぎる……」
「ちょ、涎! 涎垂れてる! いいから離れて!」
「いやよ。もう離したくない離さない。一生このままいる!」
「ちょっと、ダメだってラミィ。離れてくれないと落ち着いて話聞けない……」
「私は全然問題ないわ。むしろすこぶる気分が良いくらい」
「恥ずかしいよ……」
「ふふ、恥ずかしがってるクロエも可愛——」
「お前ら……いい加減にしろぉ!!」
イグニドさんの怒りの咆哮と共に炎がオレ達に向けて飛んできて……はい。見事に燃やされました。三人とも。
まぁさすがに手加減はしてくれてたのか、大きな火傷はしなかったけど……うっ、でも毛先とかまだチリチリになってる。
後でちゃんとケアしとかないと……。
オレの隣に座ってるラミィも全身からプスプスと煙を上げている。
一番酷いのは全身黒焦げになってるレイヴェルだけど。
「な、なんで俺まで……」
「レイ坊も止めなかったから同罪だ。こういうのは連帯責任なんだよ」
「依頼主……言ってしまえばギルドにとって客人である私にこの仕打ちはいかがなものかと思いますけど」
「うるせぇ。客だろうがなんだろうがこのここじゃアタシがルールだ。アタシに従えないなら失せろ」
「はぁ、わかりました」
「ならよし。じゃあ説明するぞ。まずはそこのラミィから受けた依頼の内容からだ。内容は簡単だ。竜人族の里にある竜命木を守ること、及び竜命木を狙う魔人族の組織の掃討だ」
「竜命木って、あの竜命木ですか?」
「あぁそうだ」
「竜命木って?」
「レイヴェルは知らないの……って、そっか。あんまり竜人族のことは知らないよね。外に出る種族でもないし。竜命木っていうのはね、竜人族が住む里にある大きな木の事なんだ。でも普通の木じゃないの。竜が生まれる木なんだ」
「竜が生まれる木?」
「そ。って言ってもわかりづらいと思うけど。そのままの意味だよ。果物の木があるのと同じように、竜命木には竜の卵が実る。竜を尊ぶ竜人族にとって、一族の至宝とも言える木なんだ」
「竜……ドラゴンって木から生まれてたのか?」
「もちろん普通に生まれるドラゴンもいるんだけどね。竜命木から生まれる竜はちょっと特別だから」
「あんたそんなことも知らないで冒険者やってるのね」
「ラミィ。一応秘密事項なんだからレイヴェルが知らなくても当然でしょ。私だってラミィと出会って無かったら知らない事実だし」
「ギルドでも一部の冒険者しか知らない上位機密の一つだからな。そんで、竜命木がその実をつけるのは五十年から百年に一度。たった一つだけ。そして今、竜命木にその兆しがある。それを魔人族に狙われてるってわけらしい」
「一年くらい前からよ。魔人族が急に竜命木を狙い始めたのは。今までは私達竜人族で追い払って来たけど……マ、じゃなくて、母が託宣を受け取ったの。大きな襲撃があるって。そしてその襲撃は私達の力だけでは乗り越えられないって。だからこうして依頼しに来たの。こういう時に頼るべきは冒険者だって言われたから」
「だからここに来たんだ。珍しいと思ってたけど」
「私だってクロエに会うみたいな用事がない限り人里にはあんまり来たくないけど、さすがに竜命木の危機は見過ごせないから。でもだからこそ私は強い冒険者をって依頼したのに。どうしてよりにもよってこの男なんですか」
「今回の依頼に対応できるようなA級、S級の冒険者は全員別の依頼で出払ってる。B級以下じゃ話にならない。まぁB級以下はもう一つの依頼の里の防衛の方には回す。だからメインの依頼はレイ坊とクロ嬢だ」
「そんな……」
「ねぇラミィ。そんなに私とレイヴェルのこと信用できない?」
「ち、違うわ。クロエのことは信用してる! それはもう心の底から。でも……」
「レイヴェルのことは信用できない?」
「はっきり言っちゃうと。でもそれだけじゃないの。竜命木に近づけるのは一族の長と長に認められた人だけ。つまりママと私だけなんだけど。それともう一つ。ドラゴンに乗って行かないとダメなの。つまり私の場合はこの子に」
「キュイッ♪」
「シエラ!」
ラミィの懐から現れたのは小さな白い竜。それはまるで幼い日のシエラの姿そのものだった。
ラミィの懐から出てきたシエラは小さな羽をパタパタと動かしてオレの所まで飛んでくる。
舌でペロペロ舐められてくすぐったい。
でもあれ? それにそういえばシエラってイージアに入る前にどっかに転送したんじゃなかったっけ。
「あの時にシエラなら転送してないわよ。小さくして、私の服の中に隠れてもらっただけ。私がシエラと離れるわけないじゃない」
「そりゃそうだよね。それで、竜命木ってシエラがいないと近づけないの?」
「うん。この子がいないと無理。だけどこの子は……」
「あぁ、なるほど……」
「どういうことだ?」
ようやく理解した。
シエラは極度の男嫌いだ。まぁ親が親ならって話で。ラミィと一緒だ。
つまりシエラに乗らないと竜命木には近づけないのに、男であるレイヴェルじゃそのシエラに乗ることすらできないってわけだ。
「だから私はせめてS級の女性。【閃姫】に頼みたかったのに」
【閃姫】? 誰のことだろ。
S級冒険者の知り合いなんて少ないからなぁ。ラミィでも知ってるってことは相当有名なんだろうけど。
「まぁ待て。とどのつまりそのドラゴンがレインのことを認めればいいんだろ。おいレイヴェル。まずは仲良くなれ」
「仲良くなれって言われても。一体どうしたら」
「知るか。そんなこと自分で考えろ」
「んー、とりあえず撫でてみる?」
「大丈夫なのか?」
「それはわかんないけど。何事もトライってことで!」
オレは腕に抱えたシエラをレイヴェルの方に差し出す。
「無理よ。シエラは男に触らせたことなんて一度も——」
「キュイッ♪」
「えぇっ!?」
「おぉ、ドラゴンって初めて触ったけどこんな感触なんだな」
「驚いた。まさかシエラが受け入れるなんて」
レイヴェルが差し出した手をシエラは嫌がるどころか喜んで受け入れた。
そのままシエラをレイヴェルに渡すと、シエラは喜んでレイヴェルのことをペロペロと舐め始める。
「あははっ、やめろって。舌がくすぐったい」
「そ、そんな……」
完全にレイヴェルに心を許しているシエラを見て、ラミィが愕然としてる。
まぁ気持ちはわかるけど。
でもこれなら大丈夫そうだ。きっとレイヴェルが背に乗るのを嫌がらないと思う。
その様子を見たイグニドさんもニヤリと笑って言った。
「これで問題無しってことだな。決まりだ。今回の依頼はレイ坊とクロ嬢に任せる。いいな」
「「はい」」
「うぅ、シエラの裏切りもの……」
こうして、オレ達の次の依頼が決まったのだった。
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