第108話 精霊の森へ
獣王……カムイへの挨拶を終えた狐族の戦士たちはオレ達の方へとやって来た。
後ろに控える狐族の戦士はともかく、真ん中に立ってる奴……なんか妙な違和感があるっていうか。
馬車から降りてきた時に一瞬オレの方を見てた気がするんだよなー。ホントに一瞬だったから気のせいかもしれないけど。
「皆様どうも初めまして。狐族が族長の息子コルヴァ・ジャレルと申します。こちらの二人は狐族の中でも最も優秀な戦士たちです。お前達、挨拶を」
「コイルだ」
「コンズってもんでさぁ。へへっ、綺麗どころの姉ちゃんが多くて目の保養になるってもんですねぇ」
うっ、なんだこいつ気持ち悪い。
ねばりつくような視線を向けられてゾワっと鳥肌が立つ。
オレの容姿の良さに関してはまぁ、ある程度自覚はあるし。街を歩いてて男共からそういう視線を向けられることは全くないわけじゃない。
でもここまで露骨なのはそうそうない。嫌悪感を通り越して気持ち悪さすらあるくらいだ。
もしかしてさっき一瞬感じた視線ってコルヴァとか言う奴じゃなくてこいつだったのか?
「控えろコンズ。すみません皆様。ですがコンズも、そしてもちろんコイルも戦士としてはそちらの【銀閃】のお二方にも劣らぬ実力を持っていると思っています」
む……ヴァルガとファーラに劣らないとか言ってくれるじゃないか。
まぁオレは一目見ただけで実力を見抜けるような眼を持ってるわけじゃないからなんとも言えないけど。
もし本当なら人は見かえによらないっていうか……まぁあのおっきい人は見た目通りって感じか。
なんかずっと黙ってるけど。まぁそういう人なんだろう、たぶん。
「私の方は剣を持ってるものの、それほどの実力ではありませんので。ですが、私ならではの戦い方もありますので、どうぞご安心ください。必ず役に立ってみせるとお約束しましょう」
「私はライア・レリッカー。後ろの二人は私の仲間のラオとリオだ。イージアから派遣されてきた冒険者だ。そちらの二人と合わせてな」
「【剣聖姫】。そして【塵滅姉妹】ですか。『光翼の剣』の噂はこちらでもよく聞いておりますよ。ですがそちらのお二人は……」
「どうも。レイヴェル・アークナーです」
「えっと、クロエ・ハルカゼです」
「銅プレート……D級か」
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません。期待させていただきます」
「……」
今あきらかにオレとレイヴェルが持ってる銅プレートに一瞬目をやったような……うーん、いまいち掴み切れない。
「うむ、お主らの挨拶も終わったようだな。そうだ、一つ紹介しておこう。こやつは——」
「カム……獣王様」
「む、どうした?」
「そろそろ出発の時間が近づいてますので、紹介はそのくらいで大丈夫かと」
「……ふむ、そうか。まぁお主がそう言うのであればそれで構わんがな」
「お二人は知り合いなので?」
「あまりおおやけに言うようなことでもないがな。知り合いと言っても過言ではないだろう」
「なるほど……ふふ、獣王様のお知り合いともなれば怪我をさせないように気を付けなければいけませんね」
「そこまで気にすることはない。むしろこき使ってやるがいい。実力はあるだろうからな」
「ははっ、期待させていただくとしましょう」
明らかなお世辞って感じだな。
まぁD級の冒険者にそこまでは期待しないってことか。
でもこの感じだとオレが魔剣だってことはまだ知らないみたいだな。
だったらまぁ言わなくてもいいだろ。仲間として行動する以上教えとくべきって考えもあるかもしれない。隠すようなことでもないけど積極的に言うようなことでもないと思ってる。
知られた時は知られた時だ。
「では挨拶はこのあたりにして。時間も惜しいですし、遅れた身の上で言うことではないかもしれませんが、そろそろ出発するとしましょう」
「そうだな。では獣王様、例のモノを」
「うむ、ヴァレス。あれをここへ」
「はっ!」
ヴァレスさんが持ってきたのは十センチ程度の大きさの三つの箱だった。
中に入っていたのは、銀色に眩く輝く、目を見張るほどに綺麗な球体。
もしかしてこれ……でも、同じものが三つ?
「獣王様、これは」
「うむ。それが今回お主達に運んでもらう『月天宝』だ。お主らにはそれを東部にある精霊の森へと運んでもらう」
「精霊の森……」
精霊の森、あそこか。確かにあそこなら他のどの場所よりも安全かもしれないけど。
でも、『月天宝』が三つってどういうことだ?
「お主らの疑問ももっともだ。それは、数多の技術を使って作られた、精巧な偽物だ。その三つのうち、一つだけが本物となる。どれが本物かはワシにもわからん」
「わからないって……」
「偽装工作ですか」
「どういうことフェティ」
「昔からよくある作戦です。目的の物を運ぶ時に、本物と偽物を入り混じらせる。そうすることで敵の狙いを拡散、混乱させることが目的となります」
「でもそれって、私達がどれが本物かわかってないと守るのも難しいんじゃ」
「確かにそうとも言えますが、逆に言えば、私達がどれが本物か知ってしまっていると敵襲があった際にそちらを無意識に意識してしまいかねないので」
「うーん、まぁ、なるほど……なのかなぁ」
注意が三つに分散するのもどうかと思うんだけど。その辺りはどうなんだろうか。
まぁそれはオレが気にすることじゃないか。カムイたちが考えた作戦だっていうならそれを遂行するだけだ。
「馬車を三台用意してある。三つに分かれて乗ってもらって、それぞれで一つの宝珠を守ってもらおう」
「わかりました。それが要請であるならば。お前達、準備を」
結局、三つの馬車はライア、ラオさん、リオさんで一組。狐族の三人で一組。そして最後の一台にはオレ達とヴァルガ達が乗ることになった。
オレ達だけ五人になったのは……まぁ、戦力分析を考えたら当然と言えば当然か。
それぞれの馬車で一つずつ宝石を受け取って馬車に乗りこむ。
「ここから馬車で精霊の森まではおよそ四日の距離。何事もなければ四日後の夜までには着くであろう」
何事もなければ……ね、そんなことあるわけないってわかってる口ぶりだけど。
まぁ確かに精霊の森に運び込んだら確実に手出しができなくなるわけだし、この二日間が敵側にとって勝負であるのは間違いない。
「では、お主らの成功を祈っているぞ」
そしてオレ達はカムイに見送られ、精霊の森へと向かうのだった。
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