第107話 遅れて到着したのは
〈レイヴェル視点〉
「はぁ……」
「レイヴェル、朝ごはん食べたのにまだ疲れた顔してるの? そんな調子で大丈夫?」
「誰のせいで疲れてると思ってんだよ」
訓練が終わった後、朝食を食べようとしたらなぜかクロエにセフィと昨夜会ってた……いや、あれが会ってたっていうのかわからんけど。会ってたことがバレた。
まぁからかい半分みたいなところもあるんだろうが……それでも朝の訓練が終わった後にそんなことで詰められたら休めるわけがない。
「情けないなぁレイヴェルは」
「半分以上はあなたのせいだと思いますが」
ジト目でクロエのことを見るフェティ。
ありがとなフェティ、わかってくれるのはお前だけだよ。
「まぁ多少からかいすぎたことは認めるけどさ」
「いや、全然多少じゃないからな。かなりしつこかったからな」
「それだけ私のレイヴェルに対する愛が深いってことだよ」
「どんな愛だよそれは」
「まぁその話は置いといてさ。結局出発当日なのに後もう一つのグループについて私達教えてもらえてないんだよね」
「まぁそうだな。今こっちに向かってる最中だって話だけど」
「時間かかり過ぎじゃない? 私達もファーラ達も昨日のうちには到着してたのに」
「向こうにも事情があるんだろ。フェティは何か知らないか?」
「いえ、私は何も。師匠であれば何か掴んでいたかもしれませんが……すみません」
「あ、いや、別に謝るようなことじゃないぞ」
「ちょっとレイヴェル。フェティをイジメちゃダメでしょ」
「いやイジメてないだろ!」
「どちらかというと私にはあなたの方が厄介なのですが」
「ひどいっ!?」
「それはお前の自業自得だ」
「自業自得です」
「うぅ……ま、いいや。これからこれから!」
「立ち直り早すぎんだろ」
「少しは堪えてほしいのですが」
まぁこれもクロエってことか。
もう一つのチームはこっちに合流次第すぐに出発するって話だからな。それで大丈夫なのかってのは俺としても心配だが。
いらない心配だといいんだがな。
それから、クロエとフェティの賑やかなやり取りを見ているうちに集合場所である城門前へと到着した。
その場所にはすでにライアさん達もファーラさん達も到着していて、獣王のカムイ様までそこに居た。
仮にも王なんて存在が軽々しくそんな場所に居てもいいのかと思わなくもないけど。まぁ城内だから問題はないのか。
うーん、王なんて存在と関わり合うことなんてないと思ってたからな。いまいちどう対応するべきなのかわからない。
いや、まぁ敬うべきなんだろうけどさ。
でもなんていうか、クロエと知り合いって聞いたりクロエのあの態度見てるとどうしてもなぁ。
「遅いぞお前達」
「最後に来たってだけで別に集合時間に遅刻したわけじゃないですけどね」
「何か言ったか?」
「いーえ、別に何も。それよりもまだ最後の一組は到着してないんですか?」
「そうなんだよねぇ。まだみたい。もうすぐもうすぐって、いつになるって話だよ」
俺達同様って言うべきか。さすがにリオさんも呆れた顔をしてる。
ライアさんは顔にこそ出してないけど……まぁ依頼が進められないこの現状に内心苛立ってるのは間違いなさそうだ。
「すまぬな。昨日起きたというトラブルの処理に思ったよりも時間がかかってしまったようだ」
「カムイが謝ることじゃないけど……ってそうだ。なんでカムイがここにいるの?」
「出立前の挨拶、それから『月天宝』の受け渡しのためだ。持っているのはワシだからな。それと、ワシには様をつけろと何度言ったらわかる」
「はいはい、わかってますよー」
「全然わかっておらぬではないか!」
「あんまり細かいこと気にしてると禿げるよ?」
「禿げるか!」
クロエとカムイは相変わらずって感じだな。
いや、それがいいことなのかどうなのかはわからないけどな。
「……昔からの知り合いとは聞いていますが、一国の王相手にあの態度は大丈夫なんでしょうか?」
「まぁカムイ様も本気で目くじらたててるって感じでもないし、大丈夫……だと思うことにする」
「はぁ、彼女にはっきり言えるのも、彼女の意思を動かすことができるのもあなただけだと思うのですが」
「いや、そんなことはないだろ」
「そんなことあると思いますよ。あなたが思っている以上にクロエさんはあなたの言葉を無視できない。あなたが本気で言えば彼女は従うと思いますよ」
そんなわけないだろ……と思うけど、どうなんだ?
絶対ないとは言い切れない気もするな。
「そういえばカムイ、最後の一組ってどんな人たちなの?」
「伝えておらんかったな。狐族の戦士たちだ。向こうの族長が是非にと推薦してきてな。実力も申し分ないとの話だったので許可した。必要以上に人数が多すぎても移動の邪魔になるだけになるだろうと思ったからな、そこで打ち切り、此度の編成になったわけだ」
「なるほど。狐族か。あんまり会ったことないなぁ」
「獣人族の国に属しているとはいえ、閉鎖的な種族だからな」
「ふーん」
「お主から聞いておいて興味なしか」
「いや、別にないわけじゃないんだけどさ。どんなモフモフが来るかなぁって思って」
「お主な……言っておくが、やって来る三人は全員男じゃぞ」
「あ、興味なくなった」
「はぁ……正直な奴め。お、言っておる間に来たようじゃな」
城門がゆっくりと開き、そこから馬車が一台入って来る。
その馬車が俺達の前で止まると、中から三人の男達が降りてくる。
一人は強面の、ヴァルガさん以上の背丈の男で背中に大きな槍を携えている。二人目は背丈こそ高くないが、服の上からでもわかるほどに鍛え上げられた筋肉を持つ男で、目立った武器は持ってない。二人とも目つきが鋭いというか……歴戦の戦士って感じだ。
そして最後の一人、年齢的には俺と同じくらい。腰に剣を携えてる。
「……これはこれはカムイ様。到着が遅れて申し訳ございません。昨日こちらに向かう途中で魔物の群れに襲われてしまいまして。それまで乗っていた馬車を失ってしまったのです。それから代わりを用意するのに時間がかかってしまったのです」
カムイ様の前に跪いた三人は遅れた経緯を話す。
魔物に襲われたか。まぁそれなら遅れてもしょうがないだろうな。
馬車だってすぐに代わりを用意できるようなものでもないだろうし。
頭を垂れるながら謝罪の言葉を並べる狐族の人たちを見ていると、同じように隣で見てたクロエが変な顔をしてた。
「……」
「? どうかしたのかクロエ」
「え? あ……うーん、まぁちょっとね」
「ちょっと?」
「どうしたの?」
「何か問題でもあったか?」
少し後ろに下がってクロエと話していると、それに気づいたヴァルガさんとファーラさんが近づいて来る。
「二人まで……本当に大したことじゃないんだよ。ただちょっと……なんて言ったらいんだろう」
クロエ自身上手く言葉に出来ないのか、何度か頭を捻ってようやく言葉を絞り出した。
「違和感があるっていうか……もっと端的に言うなら、嫌な感じがするってだけ。あはは、ごめんね。遅れてきた人だからってなんか変な偏見で見ちゃってるかも。なんか謝ってるけど上辺だけって感じだし。それが原因かも」
確かにあの三人はカムイ様に謝罪こそしているものの、どこか本気じゃないというか。形式だけの謝罪をしてる気がする。
本気で敬ってるわけじゃないって感じだ。
「嫌な感じがする、ねぇ。まぁクロエって昔から人の好き嫌い激しいもんね」
「あぁ、そうだな」
「えぇ!? そんなことないと思うんだけどなぁ……」
まぁクロエの気のせい……だといいんだがな。
何はともあれ、これで全員か。
ライアさんに、ラオさんリオさん、それからオレとクロエとフェティ。それに合わせて狼族のファーラさんとヴァルガさんに、狐族の戦士たちの計十一名。
戦力としては十分な気もするけど、向こうにも魔剣使いがいるし、敵は魔剣使いだけじゃないはずだ。油断はできないな。
緩みかけてた心を引き締めるように気合いを入れ直し、俺達は出発の準備を始めるのだった。
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