第77話 ギルドへの報告作業
「……はい。これで依頼は完了です。お疲れ様でした!」
「はぁ……疲れたぁ。ゴブリン倒すよりも、帰って来るのに疲れたぁ」
ゴブリン討伐の依頼を終えたオレ達は、ギルドへ戻って来てロミナさんに報告をしてた。
正直かなり疲れた。いや、ホントにゴブリン討伐には全く問題なかったんだけど、やっぱり帰って来るのがね。山の中って歩きづらいし。こけるし。虫いるし。最悪だ。
「いや、お前は結局ほとんど剣の状態で俺が連れて帰っただろうが」
「それでも疲れたの!」
「あはは、でも二人ともずいぶん早かったね。もう少し時間がかかるかと思ってたんだけど」
「ふふん、ロミナさん。私とレイヴェルのコンビを舐めてもらっちゃ困りますよ! ゴブリンなんて朝飯前! オーガでもドラゴンでもどんとこい!」
「おい、勝手に調子の良いこと言うな!」
「うふふっ、そうだね。でも油断は禁物だよクロエちゃん。そうやって油断した時に大きな怪我しちゃうんだから」
「はぁい……」
「全く。お前はそうやってすぐに調子に乗るのなんとかしろよ」
「わかってるってば。でもレイヴェルも——」
そんな何気ない話をしている最中だった。
後ろを通ってた冒険者達の呟きがオレの耳に入った。
「虎の威を借りる狐のくせして、何説教してんだか」
「どっちが調子に乗ってんだって話だよな」
その言葉は明らかにレイヴェルに向けられた嘲笑だった。
「ねぇちょっとあなた達——」
「いいから落ち着けクロエ」
レイヴェルのことをバカにした二人を呼び止めようとしたらレイヴェルに腕を掴まれて止められる。
「なんで止めるの」
「明らかにもめ事起こしますなんて雰囲気だしてたらそりゃ止めるだろうが」
「でもあいつらレイヴェルのことバカにしたよ。聞こえてなかったわけじゃないでしょ。っていうか、レイヴェルに聞こえてなかったとしても関係ない。私の耳はちゃんと聞いてた。私の前でレイヴェルをバカにするなんて死にたいって言ってるのと同義で——」
「落ち着けクロエ! その駄々洩れの殺気を静めろ!」
「クロエちゃん、前回みたいなもめ事はダメだよ。言ったでしょ」
「むぅ……でも……」
「俺は何を言われても気にしない。俺にとっては何を言われたかよりも誰に言われたかの方が大きいからな。俺はあいつらに何を言われても気にしない」
「……レイヴェルは優しすぎるんだよ」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる。優しさの権化、レイヴェル・アークナーだぞ」
「……自分で言わなきゃカッコいいのに」
「それもよく言われる」
そう言ってレイヴェルは苦笑する。
やっぱりレイヴェルは優しすぎる。あんな風に言われても気にしないなんて。
オレには無理だ。自分にとって大切な人をあんな風に馬鹿にされたら腹が立つし、言い返してやりたくもなる。
それでレイヴェルやロミナさんに迷惑がかかるって言うならオレは我慢するしかない。オレの怒りを優先して二人に迷惑をかけたりしたらそれこそ本末転倒だ。
前みたいに殴り飛ばすなんて真似は極力しないつもりだ。
「でも、クロエちゃんの気持ちも少しだけわかりますよ私」
「っ! ですよねロミナさん!」
思わぬ形で仲間を得た。
「最近またレイヴェル君への風当たりが強くなってるし。でも、気付いてるクロエちゃん。クロエちゃんも原因の一つなのよ?」
「え? 私がですか?」
「えぇ。まぁクロエちゃんが悪いわけじゃないんだけど。ほら、クロエちゃん前の依頼の時にずいぶん活躍したでしょう?」
「活躍?」
なんのことだ?
前回の依頼ってラミィからの依頼のことだよな。でも、別に特別なことなんて何もしてないし。そもそも他の冒険者と関わることなんてなかったのに。
「あぁ、やっぱりわかってなかったのね。ほら、前回の襲撃事件。主犯として捉えられたのは竜人族のドヴェイルって人。その人倒したのクロエちゃんでしょう?」
「……あ、そういえば」
あの時はリューエルさんを助けることで頭がいっぱいで全然気にしてもなかったけど、確かのその人を倒したのはオレだ。
でもそのことと今回のことに何の関係があるんだ?
「つまりね。あの時他の冒険者の人たちは見てたのよクロエちゃんの活躍を。そしてその活躍はここの冒険者の人達にも届いた。その冒険者は誰なんだーっていっぱい聞かれたわ。冒険者にとって強い冒険者を仲間にできるかどうかっていうのは生命線だから。それが可愛い子となればなおのことね」
「でも私のところに勧誘なんて来てませんよ?」
「そう。来てないでしょ。理由は単純。イグニドさんが一つの事実を公表したの。クロエちゃんはレイヴェル君とすでにコンビを組んでるってね。クロエちゃんが魔剣だってことを言うわけにはいかなかったから。その結果として、レイヴェル君に厳しい目が向けられるようになったの」
「ますますわけがわからないんですけど。なんでそれでレイヴェルに厳しい目が向けられるんですか?」
冒険者が誰かとチームを組むなんて当たり前のことだし。別に珍しいことじゃない。
そんなオレの疑問に答えを出したのはレイヴェルだった。
「俺が弱い冒険者だから……だろうな」
「え? それどういうこと?」
「そのままの意味だ。俺には実力が無い」
「そんなこと!」
「それはお前の意見だ。他の冒険者達から見て、俺は弱い冒険者だ。その事実は変えられない」
「でもレイヴェルはあの里の事件でも魔剣使いを——」
「それを知ってるのはお前とラミィ、それにリューエルさんだけだろ。他の冒険者は誰も知らない。あの一件に関しても片付けたのはお前とラミィだと思われてる」
「そんな……」
レイヴェルはあんなに頑張ったのに、それを誰も知らないなんて。
あの依頼だって無事に完了できたのはレイヴェルがいたからなんだぞ。レイヴェルがいなかったらもっと大きな被害が出てたし、なにより全員無事だったかどうかもわからない。
なのに……それなのに。
「気にするなクロエ。こんなの今さらだ」
「……私はそれでも納得できない」
「言わせたい奴には言わせとけ。全部こっからだ。言っただろ。俺は最強を目指すって。その時に全員見返してやるさ。な?」
「レイヴェル……」
他人に向けられた負の感情を前向きな力に変えることができる……それはきっと得難いものだ。とてもじゃないけどオレには真似できない。
「あのぉ……」
「「っ!」」
「二人の仲が良いのはわかったけど、場所は選んで欲しいなぁって……」
「いや、その、あの……」
「すみませんロミナさん」
「ううん。レイヴェル君とクロエちゃんが仲良くできてるってわかったからいいよ。でも、二人とも気を付けてね。ギルド内なら大丈夫だとは思うけど、外まではわからないから。さすがにそこまで露骨なことはしてこないと思うけど。何かあったらすぐに相談してね」
「はい、わかりました」
「あ、そうだ。すっかり忘れてた。なんて言うとイグニドさんに怒られそうだけど。あのね、二人が戻ってきたら呼ぶようにって言われてたの」
「イグニドさんが? 部屋まで行けばいいんですか?」
「うん。そうなんだけど……」
「なんか歯切れ悪くないですか?」
「……ううん。これは言わないようにって言われてるから」
「? まぁいいや。行こうレイヴェル。もしかしたらまた何か面倒な依頼かもしれないけど」
「嫌なこと言うなよ……あり得るのがまた嫌なんだが」
「……クロエちゃん」
レイヴェルと一緒にイグニドさんの所に行こうと歩きだしたところでロミナさんに呼び止められた。
振り返るとロミナさんはなんだか心配そうな顔でオレのことを見てた。
「どうしたんですか?」
「その……気を付けてね」
「? はい、わかりました……」
どういうことだ?
うーん、わからないけど。まぁいいか。行けばわかるだろうし。
そして、オレとレイヴェルはイグニドさんの部屋へと向かった。
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