第336話 敗北
ぶつかり合うのは互いの必殺。
クロエの使う『破哭』とアルマの使う『破哭』。
同じ技であれば試されるのは互いの実力、そして想いだ。
クロエ達もアルマも疲弊しきっているこの状況。想いと意地がぶつかり合い、互いに一歩も引かない。
『アルマァアアアアアアアアッッ!!』
「クロエェエエエエエエエエエッッ!!」
互いの名を叫びながらも見ている場所は全く違う。かつては同じ場所を見ていたはずの瞳は今はもう別の方向を向いている。
ぶつかり合う剣から伝わるのは意地だ。決して負けられない。負けるわけにはいかないという意地。
サテラを取り戻したいというアルマの想い。普段に露わにしないからこそ、その内に秘めた激情が激流の如くクロエに雪崩込んでくる。
(怒り、悲しみ、苦しみが伝わる。これがアルマの抱える感情。でも何より一番強いのは願い。サテラを取り戻したいっていう願い。狂おしいほどの願いが伝わってくる)
剣の姿でなければ涙を流してしまいそうなほど、アルマの切実な想いが伝わってきた。
そしてそれはアルマも同じだった。剣から伝わってくるクロエの想い。
(サテラやキアラを想う気持ちは同じか。そしてだからこそ、クロエは自分の気持ちよりも二人の気持ちを優先する。あぁそうだ。俺だってわかってる。サテラは生き返らせて欲しいなんて望んでない。あいつは俺にも、アイアルにもコメットにも前を向いて生きて欲しいと思ってるはずだ。そんなことクロエに伝えられるまでもない。俺が一番わかってる! でもこれはもう理屈じゃない。俺は、俺のために、あいつの願いすらもねじ曲げて俺の意思を貫き通す!!)
アルマはたとえサテラに望まれなかったとしても己の意思を貫き通す。それが世界に反する行為だったとしても。ハルミチと共に行くと決めた時、アルマは世界の敵になると決めたのだ。
「俺は、お前達の想いすらも踏みにじって前へと進む!! そう決めた!」
「っ!?」
拮抗が揺らぐ。アルマの力がクロエの力を押し始めたのだ。
二人を隔てたものがあるとするならば、それは覚悟だ。たとえ全てを踏みにじってでも取り戻すと誓ったアルマ。しかしクロエは迷ってしまった。アルマの想いを直接知って、一瞬ではあったが躊躇ってしまった。
その一瞬が分水嶺となった。そして一度傾いてしまった流れは止めることはできない。
『そんな! くっ、うぅ! あぁああああああああっっ!!』
決着。負けたのはクロエだった。
吹き飛ばされたクロエはギリギリのところでレイヴェルの体だけは守ったが、自身は地面に放りだされてしまった。
「っ、クロエ!」
地面に叩きつけられたレイヴェルは立ち上がることができず、その名を呼ぶことしかできない。すぐに『人化』し立ち上がろうとしたクロエだったが、レイヴェルを庇ったダメージや力を使い切った疲労も相まって立ち上がることができなかった。
「私が……負けた……」
その事実がジワジワとクロエの心を締め付ける。負けた。クロエは負けたのだ。
互いの意地を賭け、全力で勝負をし、その上で負けた。言い訳のしようがないほどの完全敗北。
顔を上げたクロエの前にはアルマが立っていた。クロエと同じくボロボロで、一見すればどちらが勝者かわからない。それでもアルマは自分の足でしっかりと立っていた。
「俺の勝ちだ」
クロエに向かって勝利を宣言する。反論できないクロエは押し黙ることしかできない。
そんなクロエに背を向けてアルマは歩き出す。
「今のお前では。迷いを抱えたお前では、俺を、俺達を止めることはできない」
「っ!」
「お、親父!」
「来るな。お前は……こっち側に来るな」
アイアルのことすらも拒絶し離れていくアルマ。敗北してしまったクロエに呼び止めることはできない。
悔しさと己の無力さを噛みしめながらクロエは去っていくアルマのことを見つめ続けていた。
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