第123話 露天風呂って気持ちいいよね
「ふぅぁああああ……やっぱり露天風呂っていいよねぇ」
夜。ご飯を食べ終えた後にオレはさっそくこの村の売りである温泉を堪能していた。
はぁああああ、なんというかやっぱり温泉っていい。露天風呂ってのがさらにいい。何度でも言う。
やっぱりこの辺は魂にまで染みついた日本人精神というか……こればっかりはこの体になってから百年以上経っても変わらなかった。
でも、この世界は湯船に浸かるみたいなのが一般的じゃないからぁ。今住ませてもらってる『鈴蘭荘』には一応湯舟はあるけど、そこまでの大きさじゃないしなぁ。
こうして足を伸ばせるだけの広さの風呂に入るのなんていつぶりだろ。
お風呂はこうでないと。なんかもう疲れが溶けていく感が半端ない。
「ねぇ、フェティもそう思わない?」
「…………」
「ごめんってば。そんなに怒らないでよぉ」
「別に怒ってません」
湯に顔を半分ほどつけたままの姿勢でジト目でこっちを睨んでるフェティ。
まぁ無理やり露天風呂の方に連れて来たから無理もないけど。
猫族であるフェティはそもそもあんまり温泉……というか、お風呂が好きじゃないらしい。入ったとしても烏の行水って感じみたいだ。
まぁロゼも似たような感じだったから、この子もそうじゃないかとは思ってたけど。
「だいたい、私はシャワーだけで十分なんです。それを無理やりこんな所まで連れ込んで……」
「連れ込んでって、人聞きが悪いなぁ。気持ちいいでしょ温泉」
「それは否定しませんが……」
ふむ、お風呂は嫌いでもこうして入るとやっぱり気持ちいいらしい。さっきから湯の中で尻尾がフリフリ動いてるのが見える。可愛い。
ちなみに抜け毛とかは全くないわけじゃないけど、案外大丈夫みたいだ。まぁさっきゴシゴシ洗いまくったし。
嫌がるフェティを抑えつけ、髪も体も全力で洗った。嫌がる子を抑えつけてって言うとなんか若干の犯罪臭がするけど。でも今は別に女同士なわけだし、問題はない……はず。
同性でもセクハラになるとか、元男としてそれはどうなんだとか、そういうのはいっさい聞きません。異論は認めない。
「うん、でもこうやって改めて見ると……」
「な、なんですか……」
「やっぱりフェティちょっと小さいよね。ちゃんとご飯食べてる?」
「っ、よ、余計なお世話です! ちゃんと食べてますから!」
「ごめんごめん……じゃあ体質的なものなのかな? たくさん食べても太らないタイプ?」
「それはそうですが……そういうあなたはどうなんですか」
「私はほら、魔剣だから。体型の維持も何もないって言うか。これで完成形って感じ?」
他の魔剣と違って姿を変えることができないオレは、人化できるようになってずっとこの姿だ。一回髪をバッサリ切ったこともあったけど、一晩ですぐに元の長さに戻ったし。
せいぜい髪型を変えるとか、そのくらいしかできそうにない。
フェティとは違うけど、オレもいっぱい食べても太らない。というか、食べたものは全部魔力に変換されるだけだ。破壊の力にも変換できないほど微々たるものだけど。
だからぶっちゃけご飯を食べる必要とかなかったりする。レイヴェルから魔力さえもらえればお腹は空かないし。
そう、ご飯を食べる必要はないこの体だけど、ちゃんとお腹が空くとかの感覚はあるんだよなぁ。そこだけちょっと不便だ。
レイヴェルと契約する前は逆にいっぱいご飯食べないとこの体の維持も難しくなるから、あの頃は食費が高くてしょうがなかった。
あぁ、大変だったなぁあの頃は
「? どうしたんですか急に遠い目をして」
「あっ、ごめんごめん。つい昔のことを思い出しちゃって」
「よくわかりませんが……とにかく、私は未だ成長期。これからですから、その辺りは勘違いしないでください」
ちょっとムッとしてる。当たり前のように可愛い。可愛いすぎて無くしたと思った邪な感情が芽生えそうになるほどに……っていやいや、それはダメだ。今この場でそんな邪な感情を抱いたら今までの必死の言い訳が無駄になる。別に言い訳ってわけじゃないけど!
「…………」
「ん? どうかした? ジーっと私のこと見つめて」
「いえ、その……」
フェティの視線の先にあるのは……オレの胸だ。
あ、ふーん、なるほど。そういうことか。
「ジッと見てても胸が大きくならないよ?」
「っ!? べ、別にそういうわけじゃありません! ただこうして見るとその……服を着ていた時よりも大きく見えるといいますか、何と言いますか……」
「別に見られて減るものじゃないからいいけど。男だったら容赦なく《破壊》の力で目を潰すんだけどさ。フェティなら許してあげる」
オレの胸って特別大きいわけじゃないんだけどな。普通よりもちょっとある、くらいだ。まぁどこに普通を置くかによってその辺りの評価は変わって来るだろうけど。
今まで色んな人と会ってきた感じ、ちょうどオレの胸の大きさは普通くらいって評価に落ち着いた。
形とかハリとか柔らかさには多少の自信はあるけどな。
男の時なら大きさばっかりでそんなこと気にもしなかったけど……これも思考がそっちに寄ってるって証明なのかもしれないなぁ。
「発想が物騒です……というか、抱き着かないでください。暑苦しいです」
「よいではないかよいではないか~」
「むぐっ……」
「胸が小さいことを気にしてるフェティも可愛いよ~」
「うるさいですっ!」
あ、怒った。さすがにいじりすぎたか……でもフェティはこのままでいいと思うんだよなぁ。可愛いし、何よりも可愛いし。可愛いは正義、大正義だ。
「っと、そうだ。このままずっとフェティに抱き着いててもいいんだけど」
「よくありませんっ」
「実はさ、フェティに一つお願いしたいことがあったんだよね」
「私にお願い……ですか?」
「うん、あのね——」
周囲を見渡し、誰もいないことを確認してからオレはその“お願い”についてフェティに話した。
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