第122話 サンガ村

 魔物の群れに襲われてから数時間、予定の時間よりも若干遅れてサンガ村へとたどり着いた。

 はぁ、なんとかギリギリ夕方前に到着することができた。って言ってもあの後は疲れたとか適当なこと言って剣の状態でぐっすり寝てただけなんだけど。みんなも戦ったオレのことを気遣ってくれたのか起こされるようなことはなかったし。

 うん、でもまぁさすがにちょっと寝すぎて体がだるい。

 どうやら剣の状態で寝ててもそういうのはあるみたいだなぁ。剣の姿で長時間寝るなんて初めてだったから全然知らなかったけど。

 まぁでも、魔物と戦った疲れは十分とれたか。逆に寝すぎて夜寝れるか心配になるレベルだ。


「うーん、よく寝たぁ」


 馬車から降りたオレは思いっきり背伸びする。

 別に体が凝り固まってるわけじゃないけど、寝起きはどうしても伸びがしたくなる。

 二度寝を回避するには背伸びをするのが一番だ。少なくともオレはそう思ってる。


「ずいぶんぐっすり寝てたな」

「私達が話しかけても全く反応しませんでしたし」

「そのくせレイヴェル以外が触ろうと無意識に破壊の力を撒き散らそうとすんだから。面白いねぇまったく」

「えぇ!? そんなことしてた!? だ、大丈夫? 怪我とかしてない?」

「別に大丈夫だよ。ちょっとだけ危なかったけどねぇ」


 チラっとファーラが馬車の方に目をやる。オレもその視線の先を追ってみれば、馬車の屋根の部分に補修したような跡が……も、もしかして……。


「ねぇ、もしかしなくてもあれ、私が?」

「そうだよ。まぁ無遠慮に触ろうとしたアタシも悪かったけど、まさか問答無用でぶっ放してくるなんてねぇ」

「あわわわわっ、ご、ごめんっ! 私ったら全然気づかなくて」

「あはは、別にいいよ。あれも穴が派手なだけですぐに直せるだろうしね。まぁ明日出発するまでには本格的な修理も終わると思うよ」

「そ、そっかぁ。ならいいんだけど……いや、良くはないか」


 確かに剣の姿の時にレイヴェル以外に触られるのは抵抗あるけど、まさか無意識に力を放出するなんて。これからはちゃんと気を付けないと。


「確かにあれはビックリしました。クロエさんが魔物と戦ってる時にも思いましたが、破壊の力……凄まじいですね。あれがクロエさんが魔剣たる所以ですか」

「まぁね。先輩なんかはもっとすごかったりするんだけど」

「確かに。あの人は……というか、あの人達はまさしく規格外だったねぇ」

「あれ以上ですか?」

「能力が全然違うから比べるのも違うけど……先輩はあらゆるものを『斬る』ことができる魔剣だから。本当になんでもね」

「斬撃の魔剣……ということですか」

「厳密には違うけどね。私も見たことないけど、その気になったら世界そのものを斬れるとかなんとか……さすがに荒唐無稽すぎるから嘘だとは思うけど」

「確かにそれは……いくら魔剣の力があったとしても信じられませんね」

「だよねぇ」

「あながち全部嘘だとは思えないけどね。あの人の言うことなら。まぁそれはともかく、アタシらも村に入るとしようか。他の二組はもう到着してるみたいだしね」

「あ、そういえば……」


 村の入り口の所にある馬車を預ける場所。そこにはすでに他の二台の馬車が止まっていた。とりあえずある程度違うルートを通って、最終的にはこの村で再集合、みたいな感じだったんだけど。

 どうやらオレ達が一番最後だったみたいだな。


「先に宿に入ってるのかな」

「たぶんね。とりあえず中に入って宿に行こう。予約はしてあるからね」

「うん」


 オレ達が今晩泊まる村はサンガ村。猿族の村だ。

 猿族は人間に一番近いってだけあって、ぶっちゃけ見た目だけだとほとんど普通の人と変わらないんだよなぁ。

 フェティとかファーラ、ヴァルガみたいにそれっぽい耳があるわけでもないし。ちょっと人より耳が大きい、ってくらいか。

 まぁ尻尾は生えてるからさすがに見分けはつくけど。

 村に入ると、さっそく案内役の人がスススっと音もなく近づいて来た。


「あぁどうもどうも。よくぞいらっしゃいました。温泉しかない村ですが、どうぞゆっくり寛いでくださいね」

「え、温泉あるんですか?」

「えぇ。何もないこの村で、唯一おススメできるものですよ。お泊りになられる宿にももちろんありますので、どうぞご堪能ください」

「へぇ、そっかぁ。楽しみだなぁ」

「確かにサンガ村といえば温泉がそれなりに有名だねぇ。温泉に入りながら酒飲みたいねぇ」

「おいファーラ。あくまで任務中だと言うことを理解しているんだろうな」

「わかってるって、でもちょっとくらいならいいだろう?」

「ダメだ。だいたいお前は——」


 あ、ヴァルガがファーラの説教を始めた。こうなるとちょっと長いんだよなぁ。

 先に宿に行っちゃおうかな。


「え、えっと……」

「あ、大丈夫です。あっちのことは気にしないでください。それより、この村の温泉ってどんな効能があるんですか?」

「あ、はい。この村の温泉には魔力も潤沢に含まれておりまして。疲労や魔力の回復。筋肉痛や擦り傷、もちろん美肌なんかにも効果がありますよ」

「へぇ、色んな効果があるんですね。だってさレイヴェル、楽しみだね!」

「楽しみにするのはいいけどな。でもヴァルガさんの言う通り任務で来てるってのを忘れるなよ」

「わかってるって、それじゃあ行こ。ほら、フェティも。早く温泉に入らないと!」

「わ、私は温泉はあまり得意では……あ、引っ張らないでくださいっ!」

「はぁ、全く。ほんとにわかってるのかクロエのやつ」


 温泉に心を踊らせながら、フェティの手を引いて宿へと向かうのだった。


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