第121話 期待外れの力
クロエ達が出発したちょうどその頃、その様子をはるか遠くから観察してる人物達がいた。
【業炎猛鬼】アリオスとその相棒の魔剣であるヴォルケーノ。そして【毒腐ノ沼】クルト、その相棒魔剣のネヴァンである。
「ほう、あれだけの数の魔物の襲撃。見事に防ぎ切ったか」
『はは、流石だねぇ。って言っても、流石だったのは』
「でもやっぱり、あの【剣聖姫】は群を抜いて圧倒的だったね。あの人が敵だなんて嫌だなぁ……もし戦うことなったらどうしよう」
『シャキッとしなさいな。あれだけの実力者。むしろ戦える可能性があることを楽しみにしてしかるべきでしょう』
「い、嫌だよぉ」
「案ずるなクルト。あれの相手はこの俺がしよう」
『あぁ、そういうこった。あんたらは引っ込んでたらいいさ』
『む……ちょっとクルト。あんたのせいで言いたい放題されてるけど?』
「ボ、ボクのせいになるの?」
『あーやだやだ。ネヴァンはそうやってすぐになんでも相棒のせいにする。クルトの奴が自分に自信を持ってないのは相棒であるあんたが不甲斐ないせいだろう?』
『なんですって?』
「はぁ、止めろお前達。今は俺達が喧嘩をしている場合じゃないだろう」
相も変わらず口喧嘩を始めるヴォルケーノとネヴァン。剣の状態ではなく、人化している状態だったならばそれこそ殴り合いの喧嘩になっていてもおかしくないレベルだった。
そしていつものことながら、それを止めるのはアリオスだ。クルトは二人の喧嘩に挟まれてオドオドとするばかりで、決して止めることはない。
そんなクルトの性格がまたネヴァンを苛立たせているということに本人はまったく気付いていない。
「今回の目的はある程度の実力を測ること。まぁ、あの程度の魔物達では【剣聖姫】の真の実力を測ることは難しいだろうが」
クロエが戦っていた魔物はゴブリンやスライムといった初心者向けの魔物ばかりだったが、ライアが戦っていたのはその程度の魔物ではない。
オーガやサイクロプス、果てはドラゴンまで、ネヴァンの毒の力を使って操りながらライアにけしかけた。しかしその結果は火を見るよりも明らかで、瞬きの間にライアは魔物達を殲滅した。
傷の一つも負わず、呼吸を乱すこともなく。ドラゴンのブレスも、オーガやサイクロプスの剛腕も、ライアには掠りもしなかった。
遠見の魔法でその様子を観察していたアリオスも思わず背筋をゾクッと震わせるほどだった。
「あれはまさしく超越者……俺達の域に踏みこんでいるな。人の身で末恐ろしいことだ」
『あぁ、全くだねぇ。あれで魔剣を持っていないとかとてもじゃないけど信じられないよ』
『そうねぇ。でもあれだけの力……彼女、あの一族なんじゃないかしら?』
『そうだねぇ。その可能性は十分ありそうだ。でもそれならそれでやりがいがあるってもんだよ』
『はぁ、まったく。クルトがこんな性格じゃなければ私が彼女の相手をしたのに。私の相手はあくまであの子達というわけね』
「あぁ、あちらにもいる魔剣使い。クロエだったか。多少ではあるが、彼女の力も見れたんじゃないか? けしかけたのはゴブリンやスライム程度の低級の魔物ばかりだったが」
「あぁ、そういえばあの戦ってた彼女が魔剣なんだっけ。珍しいよね。剣の状態にならずに戦ってるなんて。契約者の彼もすぐそばにいたんだろうに」
『さぁてね。何を考えてたのかはアタシらもわからないけど。だけどあれはねぇ……』
『えぇ、正直に言えば期待外れ。《破壊》の力と聞いていたからどの程度のものかと楽しみにしていたのに……あれなら私の《毒》と《腐》でも同じこと……いえ、あれ以上のことが用意にできるわ。ラグナロクシリーズの魔剣。二振りあるうちの一つだっていうから楽しみにしてたのに』
『あれならまだ【剣聖姫】の方が楽しめるろうねぇ』
「同じ魔剣相手だというのにずいぶん厳しいな。まぁ確かに、あの【剣聖姫】と比べてしまえば平凡というか。とくに光るものは何も感じなかったな」
「ボ、ボクとしては相手にするならそのくらいの方が楽なんだけど。強いと相手にするのが面倒だし」
『まぁ弱者をいたぶるのは嫌いじゃないわ。あの魔剣と契約者にはせいぜい踊ってもらうとしましょうか』
『で、どうすんだい? この機に一気に仕掛けるってものアタシ的にはありだけど』
「いや、それはまだ時期尚早だろう。協力者からの連絡もある。今はまだ様子見に徹するべきだろう。あれだけの武勇を見せられて勝負を挑めないのは口惜しくはあるが……それもまたよし。まみえることは決定している。ならばそれまでしっかりと気を練り上げておくとしよう」
「ボクは早く終わらせたいよぉ。自分の家の暖かいベッドで寝たい。この近辺の宿のベッドは硬くてどうにも寝にくいんだ」
『クルト、あまり情けないことを言い続けるなら家のベッドを腐らせるわよ』
「そ、それは勘弁して! あのベッドすごく高かったんだから!」
「ふむ。戦士としていつ何時でも万全な状況で眠れるようにするのは基本だと思うが……情けないな」
「君と違ってボクは繊細なんだ、一緒にしないでくれ」
「それはすまないな」
クルトの怒りにはさして興味を示さず、アリオスはライアとの戦いを想像して胸を膨らませていた。
「魔剣の方は期待外れではあったが、【剣聖姫】は期待以上だった。さっそく次に取り掛かるとしよう」
「はぁ、そうだね。言われたことくらいはちゃんとやらないと。後が怖いし」
そして、クロエ達が再出発したのとほとんど同じタイミングでアリオス達もその場から姿を消したのだった。
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