第120話 得た教訓は

「クンクン……とりあえず大丈夫……かな? はぁ、散々な気分だホントに」


 ゴブリンやスライムなんかの魔物の臭いを落とすため、慌てて川で体を洗った。って言っても本当にざっと洗っただけだから完璧に臭いを落とせたかはわからないけど……うん、まぁでも少なくとも人に鼻じゃ臭わないくらいにはなったはず。

 フェティとかファーラは……うん、今は諦めるしかない。少なくともさっきまでよりはマシなはず。 

 先輩達ってこういうのどうしてたんだろ。先輩達と一緒に居た時は魔物の臭いとか全然気にならなかったから、たぶん何かしてたんだろうけど。

 また後でそれとなく聞いとくか。


「さすがにこの体からゴブリンの臭いはあり得ない。絶対に。でもそうだよねぇ。魔物と戦うってことは臭いの問題を解決しないと。もっと《破壊》の力を使いこなせるようになったら臭いだけ消し飛ばすことができるようになるかも……」


 さっき試そうとしたけど、そもそも臭いをどう捉えるかって問題もあるしな。目に見えない者を破壊する。そう簡単なことじゃない。

 さっきは勢い余って川べりごと吹き飛ばしちゃったしなぁ。おかげで川の流れがちょっと変わったのは黙っておこう。

 細かい微調整ができるようにならないと、今後困ることになりそうだしなぁ。要練習だ。

 でも使えば使うほどというか……改めてこの力の意外な汎用性の高さを思い知る。

 最初はただ攻撃に使うくらいしか思いつかなかったけど、防御にもそれ以外にも、色々と使えそうだ。

 魔剣の……オレ自身の性能はそのままレイヴェルの力に直結する。つまり、オレ自身がこの能力をもっと使いこなして強くなれば、レイヴェルも強くなるってことだ。

 だったら努力しない理由はない。今後も魔物と戦う機会があったら積極的に関わっていくとしよう。

 臭い問題は解決しないといけないけど。

 香水……はちょっと違うか。今までつけたこともないし。作られた臭いってなんかあんまり好きじゃないんだよなぁ。でもなんか冒険者用の香水とかあった気がする。

 あれって何の意味があるのかと思ってたけど、魔物の臭いを誤魔化すためだったのかもしれないな。


「ってそうだ。そんなことどうでもよかった。もう結構レイヴェル達のこと待たせてるし戻らないと」


 勢いで飛び出してきたけど、よくよく考えたら独断で飛び出してきたわけだし。先に行かれてるなんてことはないと思うけど。

 あの時は臭いのことで頭いっぱいだったからなぁ。

 男の時なら……いや、あの臭いを撒き散らしながら密室は男の時でも躊躇するな。


「ゴブリン、初心者向けの魔物でありながら倒した後も苦しめてくるとは。なかなかどうして侮れない」


 いや、そういった部分の対処を学ばせることも含めて初心者向けってことなのかもしれないけど。戦うだけが冒険者じゃないってね。

 そんなことを考えながら走ってレイヴェル達の所まで戻る。

 当然……っていうのはオレが言うことじゃないけど。レイヴェル達はさっきまでの場所で待っててくれた。


「ごめんっ、お待たせ!」

「お、飛び出したお姫様が帰ってきたねぇ」

「こちらの返事も聞かずに飛び出してしまうのはいかがなものかと思いますが」

「うぐっ、ごめんってば。でも半分くらいはフェティのせいだからんw」

「私のせいですか?」

「フェティが臭いなんて言うから……まぁ事実だったけど。でも事実だからってそのまま伝えていいわけじゃないんだからね。もっとこう、オブラートに包むとかさ。真実は時として人を傷つけるんだから」

「真実は時として人を傷つける……ですか。一応覚えておきます」

「あははっ、まぁでもこの状況で勝手に動くのはちょっと迂闊だねぇ。もしかしたらはぐれた魔物がいたかもしれないのに。水浴びしてる時に襲われたらどうするつもりだったんだい?」

「それは……確かにちょっと考えなしだったかもしれないけど」

「ま、今のクロエなら多少の魔物なら大丈夫だろうけどね」

「ちなみに臭いは……」

「そうだねぇ。アタシの鼻にはまだちょっと臭うけど。でもまぁ、そんなに気にするレベルじゃないからもう大丈夫じゃないかい?」

「そっか。なら良かった。でも臭いは禁句だからね。絶対言っちゃダメだからね」

「はいはい、わかってるよ」

「臭いなぁ、俺は普段剣を使ってるからそこまで気にしたことなったけど」

「やっぱり剣と拳ってそんなに違うかなぁ」

「まぁそうだねぇ。拳は直接ぶつかるし近距離ってのは一緒だけど。臭いのつき方は全然違うだろうね」

「そっかぁ。それじゃあ私も剣使いになるしか」

「いや、魔剣少女が剣使いってどうなんだよそれは」

「あはは、やっぱりそうだよねぇ。まぁ冗談だから。これからは色々と……とくに臭いについては気を付けて戦わないと」

「そんなに嫌だったのか」

「当たり前でしょ! 自分の体からゴブリンの臭いがするなんてどんな辱めって感じだよっ」

「お前、ホントにゴブリン嫌いだな」

「今回の一件でさらに嫌いになったよ。というか、ゴブリン好きな人とかいるの?」

「そう言われると確かにいないだろうけどな」

「おいお前達、いつまでも無駄話をするな。クロエが戻って来たのなら出発するぞ」

「あ、ごめんヴァルガ。準備しててくれたんだ」

「もう他の組は出発している。これ以上遅れると今日の最終地点の村に着くのが遅くなってしまうぞ」

「それは嫌だ。それじゃあ行こっか。とりあえず今日はこれ以上魔物が出てこないといいんだけど」


 そうしてオレ達は再び馬車へと乗り込み、先に出発した他の二組を追いかけ始めた。

 オレと魔物の群れとの戦いは、こうしてなんともしまりない形で終わったのだった。

 今回得た一番の教訓は、『臭いには気を付けましょう』ってことだな。

 

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