第119話 複雑な女心
「勝ったーっ!」
最後の一体のゴブリンを吹き飛ばし、勝利と共に拳を空へと突き上げた。
魔物の数は百体以上いたと思う。それでもファーラから教えてもらったことを思い出しながら、オレ自身の力を最大限に利用して戦うことができた。
初戦でこれはなかなかの戦果なんじゃないかと思う。
まぁ相手にした魔物がゴブリンとかスライムとか、あんまり強くなかったってのもあるんだろうけど。
それでも勝利は勝利だ。こんな感じで戦えるならこれからもレイヴェルの足を引っ張らずに戦えるかもしれない。
オレの心はちゃんと戦えたことへの喜びでいっぱいになっていた。
何気にこの世界に来てちゃんと戦ったのは初めてかもしれない。今までも魔物との戦いに巻き込まれたことはたくさんあったけど、だいたいは他の人……それこそラミィとかファーラとかヴァルガ達がなんとかしてくれてたしなぁ。
全く戦ったことがないわけじゃないけど、その時はだいたい《破壊》の力をぶっぱするくらいだたし。
キアラはオレと一緒で戦うのは得意なわけじゃなかったから逃げてばっかりだったけど。
「まぁでも、私が成長したって言うよりは元からあった力をちゃんと活用できるようになったって感じだけど。《破壊》の力……もっと自在に扱えるようになったら楽なんだけど」
まぁでも今はこれくらいか。実戦で使うには十分だろう。
これから戦闘を繰り返してく中で慣れていけばいいしな。そしたらもっと練度はあがるだろうし。レイヴェルと一緒に戦う時にも役立つだろう。
そんなこんなで、無事に初戦を一人で戦い抜いたオレは上機嫌でレイヴェル達の元へと戻った。
「みんな、勝った! 私一人で勝てたよ!」
「お疲れ様だな。まさかここまで戦えるとは思ってなかった。正直驚いた」
「うん、頑張ったみたいだね。アタシも教えた甲斐があったってもんだよ」
「あぁ、流石だったぞ」
「私も、予想外の戦闘力でした」
「えへへ、ありがと」
口々に褒めてもらえることに、オレのテンションは完全に有頂天に達していた。
たぶん初戦闘の高揚が残ってたのもあるんだろうけど。
でも、そんなテンションは高揚した気持ちのままフェティに抱き着こうとした瞬間に冷水を浴びせられることになった。
フェティの衝撃の一言によって。
「抱き着かないでください、臭いです」
「くさっ……!?」
振り切っていたテンションが一気に地に落とされる。
く、臭い? 今のオレが? いや、でも確かに言われれば……。
極力直接触れないようにしてたとはいえ、オレの戦い方は拳闘術。どうしても魔物との接近は免れない。というか今回もかなり近づいてたし。
ドリアードはそうでもないけどゴブリンもスライムも臭い魔物の代表格。特にゴブリンは全然体洗ったりしないから臭いはかなりキツイ。
そんなゴブリンと至近距離で戦ってたから……。
今さらながらそんな当たり前の事実に気付いてファーラに視線を送る。
「まぁそうだね」
「っ!?」
ファーラが苦笑しながら肯定する。
つまり、今のオレの体からはあのゴブリンにも通じるような悪臭が放たれてるってことで……。
「クロエ? どうかし——」
「っ! 近づかないで!」
「は?」
「ストップ、止まって、動かないで、絶対に、そこから一歩も、息もしないで」
「無茶言うな! どうしたんだよ急に」
「うぅ、だからそれはぁ……」
言えるわけない。自分の体が悪臭を放ってるから近づいて欲しくないなんて。
男の身だったらそんなに気にすることはないだろう。でも今は魔剣少女。仮にも女の身。しかも自分で言うのもなんだけどかなりの美少女。
そんな美少女がゴブリンと同じ臭いを放ってるなんて許されるだろうか、いや許されるはずがない! 断固として!
ましてやそんな臭いを相棒に嗅がれるなんて憤死もの!
つまり今のオレがすべきことは……。
「ファーラ! このあたりに川はある?!」
「え、あぁ、そうだね。向こうの方から水のにおいがするから、あっちの方に川があると思うけど」
「ちょっと三十分くらい休憩ね、私ちょっと疲れたし。みんなもここで待ってて、すぐ戻るからっ!」
「あ、おいクロエ!」
呼び止めるレイヴェルの声も無視して、オレは川へと急ぐのだった。
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〈レイヴェル視点〉
「な、なんだったんだあいつ……」
叫んだかと思ったらそのまま駆け出して川のある方へと走って行った。
「って、一人で行って大丈夫なのかあいつ! 早く追いかけないと」
「あぁ、いや、それは待った方がいいと思うよ」
「そうですね。その方がいいと思います。彼女の心情を考えると」
「クロエの心情?」
「その辺りが理解できないとなるとまだまだだねぇ。少し考えたらわかるだろう。あのゴブリン共と至近距離で殴り合ってたんだ」
「その臭いが体に移るのは明白でしょう」
「臭いって、でもそんなの魔物と戦ってたら当たり前じゃ……」
冒険者なんて稼業は魔物と戦うのが日常だしな。臭いなんて気にしてたらキリがない。
だから別にクロエが臭かったとしてもオレは別に気にしないんだが。
「はぁ、わかっていませんねレイヴェルさんは」
「そうだねぇ、もう少し女心を理解すべきさ」
「女心って言われても……」
呆れたようにため息をつく二人に対してオレはただ困惑することしかできなかった。
ちなみにこの間、ヴァルガさんは巻き込まれるのはごめんだと言わんばかりにずっと気配を消したまま黙っていた。
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