第118話 クロエは天才型

〈レイヴェル視点〉


 クロエが魔物の相手をすると言った時、俺が最初に感じたのは不安だ。

 それも当たり前の話で、前にクロエとゴブリン討伐に行った時クロエはかなり嫌がってた。聞いてた感じ、クロエは全然戦い慣れてないみたいだったしそれも無理ないかとその時は思ってた。

 そんな奴がファーラさんからちょっと戦い方を教わったくらいであんな大量の魔物の群れと戦えるなんてとても思えなかった。

 でも、そんな不安を感じてた俺に気付いたのかファーラさんが近づいて来て自信あり気な顔で言ってきた。


「クロエなら大丈夫だよ」

「ファーラさん。でもあいつ魔物とか苦手じゃないですか。前にゴブリンと戦った時の嫌がり方とか尋常じゃなかったですよ?」

「昔いろいろあったみたいだからねぇ。でも、あの子はアタシに前に進む意思を見せた。苦手な魔物を苦手なままにはしておかないってね。今後もあんたと一緒にいるために。これはそのために第一歩。契約者であるあんたが信じてあげなくてどうすんだって話だよ」

「…………」

「ま、心配する気持ちもわかるけどね。クロエは昔から決めたらまっすぐだから。アタシらはそれについてくしかないんだよ」

「……わかりました。でも少しでも危ないと思ったら介入させてもらいます」

「クロエもクロエだと思ってたけど、こりゃあんたも相当だね。でもそっちについても心配する必要はないと思うけどね。確かにクロエがまともに戦い方を学んだのは今回が初めてかもしれないけど。それでもクロエは強者の戦いはずっと見続けてきた。アタシ達も彼女の先輩魔剣も含めてね。そういう意味では素養はあったのさ。ただ今までクロエには戦う理由がなかったからね。その理由ができた今、あいつはきっと強くなるよ」


 その言葉とほとんど同時、クロエと魔物達の戦いが始まった。

 最初に仕掛けたのはクロエ。その初撃は俺の想像をはるかに超えた一撃だった。

 クロエが地面を殴った瞬間、クロエの周囲の地面が隆起し、今にも襲いかかろうと手を伸ばしていた魔物達が体を貫かれて絶命する。

 正直、尋常じゃない破壊力だ。でも、クロエの力を考えればある意味当然とも言える破壊力なのかもしれない。

 クロエの持つ《破壊》の力。その力の凄まじさは俺も知っている。何度も助けられたからな。でもこうして傍目から見ると……言葉が無いなこれは。

 なんていうか、理不尽って感じだ。


「相変わらず凄まじい力だねぇあれは」

「ファーラさんも当然ですけど、クロエの《破壊》の力については知ってたんですよね」

「何度か見たことはあったからねぇ。あんな力見ちまうと、自分と比べるのも馬鹿らしくなるよ」


 俺がクロエ自身が破壊の力を使ってるのを見たのは……最初はギルドでイグニドさんが力を試すって言った時か。あの時もとんでもないと思ったけど、あの時と今回じゃ少し事情が違う。あの時はただ力を解放しただけ。でも今回は明確な意思でもって《破壊》の力を使ってる。

 それだけで前回までとは比べ物にならない力を発揮してる。

 そして何よりも、クロエの動きは想像以上に様になっていた。


「こういう言葉で片付けちまうのはあんまり好きじゃないけどね。クロエはある意味天才だよ。言葉にはできない感覚を、あっという間に掴んじまう。魔力の代用として《破壊》の力を使うってのもクロエの思いつきだしね。今までは放出するしかなかったあの力を己の内に留める。まだ完璧じゃないみたいだけどね。でもあれを身に着けてからは一瞬だった。攻撃の《破壊》、防御の《破壊》。攻防一体の力。クロエの倍以上の大きさの岩を一撃で破壊したのを見た時は思わず魂消ちまったよ」

「クロエ……」


 魔物と戦うクロエはまさに獅子奮迅の勢いで魔物を駆逐していく。ゴブリンもスライムもドリアードも、クロエに傷一つつけることはできていなかった。


「そういえば、あんたの方はどうなんだい? 今のクロエが魔力を吸ってるんだろう?」

「あぁ、はい。そうですね。確かに吸われてますけど……でも、そこまで影響はないですね」

「……へぇ、そりゃすごいもんだね」

「そうですか?」

「魔剣の魔力の消費量ってのは半端じゃないからね。並みの人間じゃあっという間に干からびちまうよ。少なくともアタシには無理だね」

「一説によれば、魔剣の能力を使う際の魔力消費量は最上級魔法にも匹敵するとも、それ以上だとも言われています。もちろんそれだけの魔力を消費する恩恵はあるようですが」

「フェティ、よくそんなこと知ってたな」

「以前師匠がそのようなことを言ってました。資格無き者が魔剣と契約し、魔力どころかその命まで吸われたと」

「そりゃおっかない話だね。でも、あり得る話だ」

「そういう意味で言えば、魔力を吸われても平気な顔をしていられるレイヴェルさんは、それはそれで規格外と言えますね」

「そう言われてもなぁ」


 俺自身にはそこまで自覚はない。確かに吸われてる感覚はあるけど、でも動けなくなるほどのものじゃないし。正直言えばまだまだ枯渇するって感じはない。

 昔から魔力の量だけはすごいって言われてたけど。クロエと出会うまではほとんど使い道も無かったからなぁ。


「それにしても……本当に凄まじいですね。彼女の力を目の当たりにするのは初めてですが……なるほど、確かにあれは脅威的です」

「まだまだ粗い部分も多いけどね。でもこれからも磨けばきっと光るよ。それだけの素質がある。先が楽しみだねぇ」

「俺も負けていられませんね」

「だからといって焦るなよレイヴェル。クロエにはクロエの。レイヴェルにはレイヴェルの成長速度というものがある。お前とクロエは互いに高め合っていけばいい」

「もちろんわかってます」


 焦ってたら身に着くものも身につかない。俺は俺として成長していくだけだ。


「さて、そろそろ終わりそうだね」


 ファーラさん達と話しているうちに気付けばクロエは大半の魔物を仕留めきっていた。残っている魔物は僅かだ。

 

「はぁあああああ——『破殴撃』!!」


 クロエの渾身の一撃がゴブリンに突き刺さり、上空へと打ち上げられたゴブリンは流れ込んできた破壊の力に耐え切れずに粉微塵に破裂した。


「ヴィクトリーーーーッ!!」


 そんなクロエの初勝利を喜ぶ声が周囲に響き渡った。

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