第117話 チート能力
オレとレイヴェルは契約した時点でパスのようなもので繋がっている。
そこから受け取った魔力を使ってオレは戦わないといけない。
レイヴェル達が魔力で体を強化するみたいに、オレはこの《破壊》の力で体を強化しないといけないわけだが、もし加減を間違えたらオレの体が《破壊》されかねない。そんなの笑い話にもならないからな。
まぁさすがにそんなことにはならないと思うけど。
《破壊》の力へと変換した魔力を、足へ腕へと、少しずつ調整を間違わないように体全体へと行きわたらせる。
もし魔力の扱いに慣れてたらこれももっとスムーズにできるんだろうし、足だけ強化するとか、それこそインパクトの瞬間に腕だけ強化するとかできるんだろうけど。
まださすがにそれはできない。今後の課題ってやつだ。
でもとりあえず今は体を強化できるだけで十分だ。
「——ふっ!」
体全体に力が行きわたったのを確認して、向かって来る魔物の群れへと突貫する。
その速さはさながらバイクだ。このまま走れば正面からぶつかることは明白。それでも止まらずに魔物の群れへと飛び込んだ。
超スピードからの急制動。これだけで前方にいた魔物達が一定数吹き飛んだ。
さぁ、ここからが本番だ。
対集団戦闘の心得もある程度は学んでる。一部じゃなくて全体を見る。多対一じゃなくて、極力一対一、もしくは二対一くらいの少数を相手取って戦う。これが基本だ。
どんな達人でも背後を取られたら不利なのは変わりないからな。でももちろん、戦い方を学んだばかりのオレに急に全体を見る視野を持つことなんてできるわけがない。
基本を守るためにするべきは状況作り。だからまずは……。
「数を減らさせてもらうよ!! お、りゃあああああああっっ!!」
全力で地面を殴りつける。普段なら拳が痛いだけの一撃も、今だけは桁違いの威力を発揮する。
オレの拳が地面にめり込み、そこから《破壊》の力を流し込む。
「『大破衝』!!」
轟音と共に地面がめくり上がり、周囲にいたゴブリンやスライムの体を破片が貫く。まさにオレに飛び掛かろうとしてた魔物達はこれである程度片付けることができた。
でもまだまだ魔物は残ってる。ここからが本番だ。
一番近くにいるのはゴブリン、その後ろからスライム。そして後方からはドリアードが地面に根を張っている。たぶん地中から奇襲を仕掛けようとしてるんだと思うけど。とりあえず警戒だけしておけばいい。
「すぅ——破ッ!!」
「「ッッ!?」」
『声撃破』。声に《破壊》の力を乗せて飛ばすだけの技。《破壊》の力を乗せてるとは言っても攻撃力はほとんどない。でも、僅かな間硬直させるくらいのことはできる。
そしてその隙は、今のオレにとっても恰好の狙い目になる。
「『破砕掌』!!」
一気に距離を詰め、硬直したままのゴブリンを殴り飛ばす。確実に一撃で仕留めれる威力だ。いくら戦い方を学び始めたばかりと言っても、この距離で外すことはない。
ゴブリンだけじゃなく、スライムも同様だ。スライムはゴブリンと違って軟体の魔物だ。
ゲームや漫画なんかだと最初の方に出てくる初心者用の魔物みたいな立ち位置だ。それはまぁこの世界でも似たようなものなんだけど。初級の冒険者とか騎士になりたての人が討伐の練習をする魔物だ。
でも、決して弱いわけじゃない。斬撃や魔法攻撃はよく効くけど打撃はほとんど威力を吸収されて効かないし。対処の仕方を知ってないと苦戦する。逆に知ってれば対して苦労もしない。そんな魔物だ。
だから打撃しか攻撃手段を持たないオレとの相性はかなり悪いんだけど。それも普通の打撃だったらの話だ。
「はぁっ!」
ゴブリンの体に正面から拳を叩き込む。その打撃の威力はスライムの体に完全に吸収される。でもそれと同時にこのスライムはオレの《破壊》の力まで吸収した。そうなるとどうなるか……結果は言うまでもない。
「弾けろ」
「ッ!?」
スライムの体が内側からブクブクと膨れ上がり、そのまま弾け飛んで地面に溶けるようにして消えていった。流れ込んできた《破壊》の力に体が耐え切れなかったんだろう。
さっきのゴブリンにしてもそうだ。殴った瞬間に《破壊》の力がオレの拳を通じて流れ込んでる。だからこそ普通に殴る以上の威力が出せるんだ。
まぁもちろん狙ってできるわけじゃないから、加減とかはできないんだけどな。
体に破壊の力が流し込まれたことで、上半身の弾け飛んだゴブリンや体ごと粉微塵になったスライムを見て軽くため息を吐く。正直かなりグロテスクな光景だ。スライムはまだしもゴブリンはなぁ。できる限り返り血を浴びないようにはしたけど。
もしゴブリンの血が噴水みたいに吹き出してその返り血浴びたりしたら流石に気持ち悪すぎる。というか、生理的に受け付けない。
この《破壊》の力は一撃必殺だ。どんな障壁でも防げないし、このゴブリンやスライムみたいに殴ると同時にその体に流し込んだら内側からも破壊できる。
「っ、甘いよっ!」
一息吐こうとした瞬間、地面からドリアードの根が飛び出してくる。その先端は鋭利に尖ってる。たぶんオレの体を不意打ちで貫こうとしたんだろう。
でも、そんなのは無意味だ。
ドリアードの根が、オレの体に触れた瞬間、触れた先から崩れ去っていく。これももちろん《破壊》の力だ。今度は攻撃じゃなく、防御として使うパターンだ。
って言っても、特別なことをしてるわけじゃない。最初に全身に行きわたらせた《破壊》の力が勝手に防御してるだけだ。
自動で働いて反撃してくれる防御結界、なんて言えば聞こえはいいかもしれないけど。万能なわけじゃない。一撃の威力があまりにも高過ぎたら防ぎきれないとは思うし。
それでも攻撃は一撃必殺、防御も反撃も自動でできる。自分で言うのもなんだけどこの《破壊》の力は相当チートだと思う。
少なくとも、このゴブリンやスライム、ドリアードに打ち破るのは絶対に不可能だ。
この短い間に場の空気は完全に支配した。ゴブリンは怯えたように後退りしてるし、スライムはブルブル体を震わせてる。
こうなったら後はもうこっちのもんだ。
「さぁ、一気に蹂躙させてもらうよ」
一度掴んだ流れは離さず、一気に勝負を決めるべし。
そんな戦いの基本に従って、オレは一気に勝負を決めにかかった。
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