閑話8 帰ってきた場所と新しい家族
セイレン王国へと戻ってきたオレ達は、ギルドへの報告を済ませた後に『鈴蘭荘』へ向かっていた。
「報告、もっと手間取るかと思ってたけど案外早く終わったね」
「まぁ飛空挺の中で必要な書類は全部用意してたからな。提出するだけだったし」
「ありがとねレイヴェル」
「別に感謝されるようなことじゃないだろ。処理が早かったのはロミナさんのおかげってのもあるだろうし」
「確かに。えへへ、ロミナさんめちゃくちゃ頭抱えてたね」
「そりゃ抱えるだろ。あんな報告書出されたらなぁ」
一応ギルドには依頼を完遂したら報告書を出さなきゃいけない。まぁほとんどの討伐とか採取の依頼は証拠を提出するだけでいいんだけど、今回みたいな指名依頼はそうはいかない。
ちゃんとどういうことがあったのか、どんなことをしたのかをできるだけ細かく報告する必要がある。正直めちゃくちゃめんどくさい作業だ。
まぁそれをオレは全部レイヴェルに押しつけてたわけなんだけど。
「って、どうしたのフェティ、さっきからなんか静かだけど。もしかしてギルドに登録するのいやだった?」
「そ、そういうわけでは。こちらで生活していく以上は必要なことですし」
そう、ギルドに報告するついでにフェティもギルドに登録したのだ。
一緒に活動するかどうかは別にして、これから仲間としてやっていくからにはフェティにもギルドに登録しておいてもらった方が便利なこともあるだろうって判断だ。
ただオレとは違ってフェティは一番下のE級からのスタートにはなるけど。それでも以外とあっさり登録できたのは意外だった。
もっとオレの時みたいにいろいろ試したりするのかと思ってたのに。まぁ能力的には問題ないから大丈夫だろうけど。
って、問題はそこじゃなかった。なんでフェティが妙に浮かない顔をしてるのかってことだ。浮かないっていうか……どっちかっていうと緊張してる?
「その……本当にお邪魔してしまっていいのでしょうか?」
「え?」
「レイヴェルさん達がお世話になっているという『鈴蘭荘』に。私なら別に他の場所でも」
「ダメ。絶対ダメだから」
どこか腰が引けてるフェティの手を掴んで断言する。
フェティを他の場所になんて絶対に無しだ。こんなかわいい子を野蛮な冒険者の多いこの街で野放しにしたらどうなるか。そんなの考えるまでもない。猿でもわかる。
だからフェティは絶対にオレの目の届くところにいてもらう。
「ですが、お邪魔なのでは……」
「まぁその辺は大丈夫だろ。オレみたいな奴でも受け入れてくれるくらいだからな」
「マリアさんもフィーリアちゃんもすごくいい人達だから。フェティのこと迷惑だなんて思わないはずだよ。だから大丈夫、行こう?」
もちろんこれはオレ達が勝手に言ってることだけど。それでもあの人達ならきっと大丈夫だって確信がある。きっとフェティのことも受け入れてくれるって。
「……わかりました。そこまで言うのなら」
まだ若干不安そうだけど、とりあえず納得してくれたらしい。
後はマリアさん達になんとかしてもらうしかない。
そして、それからほどなくしてオレ達は『鈴蘭荘』へと帰ってきた。
若干浮き足立つ気持ちを抑えながらオレは扉を開く。
「いらっしゃ――あら」
入ってきたオレ達の顔を見たマリアさんが少しだけ驚いたような顔をしてから、その表情が笑顔へと変化していく。
「クロエちゃん、レイヴェル君! あらあら、もう帰ってきたのね。お帰りなさい、二人とも」
マリアさんの穏やかな笑顔を見た瞬間、帰ってきたんだって実感が湧く。
うん、そう。帰ってきた、だ。まだここに住み始めてそんなに長い時間が経ったわけじゃないけど、それでもそう思える。
「えへへ、ただいま、です」
「ただいま戻りました」
「うふふ、早くフィーリアちゃんにも教えてあげないと。あの子ったらあなた達が帰ってくるのを毎日待って……って、あら? その子は」
オレの後ろに隠れるようにいたフェティに気づいたマリアさんが、フェティに声をかける。
「その耳……獣人の子? えっと、お名前は?」
「フェ、フェティです。その、ケルノス連合国から来ました」
「そう、フェティちゃん。かわいらしい名前ね」
「あの、マリアさん。ずうずうしいのは承知でお願いがあるんです。フェティもここに住まわせてあげて欲しいんです」
「居候の身で勝手ですけど、オレからもお願いします」
そんなオレ達のお願いに対し、マリアさんは……。
「もちろん大丈夫よ♪ そういうことなら早く部屋を用意してあげないと」
「い、いいんですか?」
「えぇ、もちろん。家族が増えるのは嬉しいことだもの。二人が連れてきた子なら問題ないでしょうし」
「…………」
「ね? だから言ったでしょ。マリアさんなら大丈夫だって」
「みなさんお人好し過ぎです」
「あ、照れてる」
「照れてません」
「うっそだー、絶対照れてるって」
「照れてませんっ」
そっぽを向くフェティだが、赤くなってるのがすぐにわかる。
でもオレもちょっと安心した。断られるとは思ってなかったけどさ。
「それじゃあ私、フェティちゃんのお部屋の用意してくるからちょっと待っててね」
「私も手伝います」
「大丈夫よ。疲れてるでしょう。ゆっくりしててちょうだい。それにもうすぐしたらフィーリアちゃんもイズミちゃんも買い出しから帰ってくると思うから、迎えてあげて」
マリアさんはそう言うとさっさと部屋の用意をしに向かってしまった。ほんとに動くの早いっていうか。ホントは手伝った方がいいんだろうけど、ここはお言葉に甘えておくか。
「とりあえずこれでフェティの住居問題は解決したわけだね」
「なんだか不安になるくらいあっさり決まってしまった気がするんですが」
「私の時も同じような感じだったから。でも、きっとすぐ慣れるよ」
「そういうものでしょうか」
「うん、そういうものだよ。少しずつでいいからフェティも慣れていこう」
「……わかりました。あなたがそう言うなら」
まだ若干不安気ではある。でもまぁ、新しい国に来て新生活を始めるときは誰でもそうだろう。フェティなら大丈夫なはずだ。というか、何かあってもオレがなんとかしてみせる。
そんな決意を込めてフェティに笑顔を向ける。
こうして『鈴蘭荘』に新しい家族が増えたのだった。
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