閑話7 血のざわめき
「…………」
「どうしたのリーダー、さっきからずっと黙り込んでるけど」
セイレン王国へと戻る飛空挺の中、ライアがジッと黙ったままなことに違和感を覚えたリオが問いかける。
とはいえ、いつもライアがお喋りなのかといえばそうではない。ただいつもとは少し違う雰囲気を感じたのだ。
「……別になんでもない」
「いやいや、なんでもないってことはないでしょ。さっきからずっとその太刀のことカチカチしてるし。なんか妙に殺気漏れてる瞬間あるし。ねぇラオ、そう思わない?」
「確かに変。昨日から……というか、魔剣使いと戦ってからっていうべきかな」
「…………」
ラオの言葉にカチカチと鍔を鳴らす音が止まる。ライアにとって、ラオとリオの指摘はまさにその通りだった。
別に何があるというわけではない。ただ、ライアの中に流れる【魔狩り】の血が騒ぎ続けているのだ。
魔剣を壊せと。ずっと囁き続けている。
【魔狩り】としての力を使った後はいつもこうなるのだ。しかしいつもとは異なる点が一つだけあった。それはクロエの存在だ。
魔剣であるクロエ。彼女の存在がいつもなら治まるはずの血のざわめきを強くしていた。
いっそクロエを斬ってしまえば治まるかもしれない。一瞬でもそう考えてしまった自分にライアは嫌悪感を覚えていた。そんなことをしてしまえば、それはライアが血に支配された証明に他ならないから。
そんな自分をライアは認めるわけにはいかなかった。だからこうして黙ったままジッとしていたのだ。
「気にするな。もう少ししたら落ち着く」
「ふぅん、まぁそういうならいいんだけど。てっきりリーダーがあの魔剣使いと戦ってどこか怪我でもしたのかと思った」
「リオ、それ本気で言ってるの?」
「なわけないじゃん。リーダーが誰かに傷を負わされるところなんて想像もできないし」
「同意する」
「お前たち、私のことをなんだと思ってるんだ」
「もちろん頼れるリーダーだけど」
「右に同じ」
「はぁ……まぁいい。それよりも、今回の依頼……はじめから裏があることはわかっていたが、まさかあの魔剣使いが出てくるとはな」
「だねぇ、ちょっとびっくりしたかも」
「ラオとしてはあの魔剣使いとクロエが知り合いだったことに驚いた」
「あぁ……」
今回ライアたちが受けた獣王カムイからの依頼。何か裏があるかもしれないということはわかっていた。それでも受けたのはライアの嗅覚が魔剣使いの存在を感じたからだ。
そうして出てきた魔剣使いは、ライアが思っていた以上だった。
ライア達は直接目にしたわけではないが、離れた位置にいても感じるほどの力の波動。自身にすら届きうる力を持っているかもしれないとライアはそう考えていた。
「ハルミチだったか。おそらくそいつが私たちがずっと追い続けている魔剣使いで間違いないだろう」
「だね」
「間違いないと思う」
ライア達は普段受ける依頼とは別に、ギルドから直々に調べるよう依頼されていたことがあった。それが『行方不明となっている魔剣使いの捜索』だ。
ある時期を境に、それまで表舞台にいた魔剣使い達が忽然とその姿を消すことがあった。魔剣使いは持つ力の大きさゆえにマークされている。しかしそのマークすら振り切って姿を消していたのだ。
その調査をしている間にライア達が掴んだのが、いなくなった魔剣使い達がとある組織に加入していたということ、そしてその組織が何かをしているということだった。
未だ全貌の掴めぬ組織。目的すら判然としていなかった。しかしその中で一つだけわかっていたのが、他の魔剣使いすら圧倒する魔剣使いの存在。その人物こそが組織のリーダーであるとライア達は睨んでいたのだが尻尾はつかめずにいたのだ。
しかしここに来て追っていた組織の尻尾を掴むことができた。これはライア達にとって思いもよらぬ僥倖だった。
「灯台下暗し……まさかあの組織のリーダーのことをライアが知ってるとは思わなかった」
「昔一緒に旅した仲間なんだっけ? 確かにびっくりしたよねぇ」
「……何にせよ、私たちはようやく再び手がかりを掴むことができた。お前たち、ライアから目を離すなよ」
「まぁもちろんそのつもりだけどさぁ」
「少し気乗りしない」
「お前たちの気分など関係ない。あの組織が世にあだなす存在あるのは明白だ。魔剣使い共を集めて何をしようとしているのかは知らないが……確実に潰す」
「さすがにほっとけないしねぇ」
「……もしクロエが……クロエとレイヴェルがあの組織に与した場合は?」
「決まっている」
ライアの目が鋭く光る。その目には確かな決意が宿っていた。
「どんな理由があったとしても、私が斬る」
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