間章2
閑話6 キュウの可愛さは危険な可愛さ
それは帰りの飛空艇の中での話。
セイレン王国まで戻る間暇だった与えられた部屋の中でのんびりしていた。
「はぁ、後どれくらいで着くんだろ」
最初の設定さえしてしまえば飛空艇は勝手に国へ向かって飛んでいく。今は全員やること無しで暇を持て余してる状態だ。
「なんだかんだケルノスでは忙しかったしなぁ。こんなにのんびりできるのはわりと久しぶりかも」
フェティは部屋で向こうについた時のための準備してたし、ライア達はなんか書類整理してた。レイヴェルもそこに行っちゃったし。
「あれ、もしかして暇なのって私だけ?」
ま、まぁしょうがないよね。だって別にすることないし。
むしろ手伝いに行って邪魔してもしょうがないし。それでも部屋で一人だけのんびりしてると妙な罪悪感があるのはなぜだろう。
「とはいえ私にできることなんてないんだけどさ」
書類仕事に関しても何気にレイヴェルの方が処理速いし。邪魔せずじっとしてるのが一番。何もしないという手伝い方もあるのですよ。
最初の頃はレイヴェルの方が書類仕事苦手かもとか思ってたけど、全然そんなことなかったんだよねぇ。
それからしばらく、部屋の窓から過ぎ行く景色をボーっと眺めていたら急に部屋のドアが開く音がした。
「はー、疲れた。やっと終わったよ」
「あ、レイヴェル。けっこう時間かかってたね」
「あぁ。なんか今回は色々とややこしい処理しないといけないみたいでな。その分時間かかったんだ」
「あはは、お疲れさまー」
「お前のぶんもやったんだからな。今度からはちゃんと自分でやれよ」
「えー」
「えー、じゃないだろ」
「レイヴェル、相棒って持ちつ持たれつだと思うんだよね」
「ん? あぁ。確かにそうだと思うが。それがどうしたんだよ」
「だから私の苦手なことは全部レイヴェルにやって欲しい」
「押し付けてるだけじゃねぇか! いいか、そうやってなんでもかんでも苦手なままにしてたら……って聞けよ!」
「きーこーえーなーいー」
レイヴェルが説教モードに入ったので耳を塞いでそっぽを向く。漫画とかラノベとかは好きだったけど、それ以外の文字は目が滑るっていうか。見たくないっていうか。
とどのつまり小難しいことは考えたくない。
「ったく、お前なぁ」
「まぁまぁ、今度からちゃんとやるから」
「絶対やらないだろ」
「ほらほら、そんなことより座って。疲れたでしょ? お茶淹れてあげるから。いつも悪い目つきが二割増しで悪くなっちゃってるよ」
「余計なお世話だ!」
話を誤魔化すためにお茶を淹れに行く。書類仕事は苦手でもこっちは得意だ。
これでも『黒剣亭』で一年働いてたから。本格的なのは無理だけどちょっとくらいなら料理もできるようになったし。お茶を淹れなんかは得意になったくらいだ。
「はいどうぞ」
「あぁ、悪いな。って、美味いなこれ」
「うん、ここにあるの結構いい茶葉だしね。細かい所までお金使ってるっていうか。そんだけ余裕があるんだねぇ、S級って」
「確かに言い茶葉だってのもあるんだろうが。淹れ方がいいからってのもあると思うぞ」
「え? そうかなぁ? えへへ、ありがと」
褒められて悪い気はしない。それにまぁレイヴェルの言う通りお茶淹れには自信あるし。
レイヴェルの向かいに座ってオレもお茶を飲む。
うん、今回も上手に淹れれたな。満足だ。
「あ、そうだ。そういえば気になってることがあったんだけど聞いてもいい?」
「なんだ?」
「キュウ、どうしたの? 結局あれから姿見てない気がするんだけど」
あの戦いの後、レイヴェルの腕の中でスヤスヤ眠ってたキュウは気付いたらいなくなってた。それから今まで何気に姿を見てない。
「あぁ、キュウのことか。そういえば言ってなかったな。あいつなら今ここにいるよ」
そう言ってレイヴェルは左目を押さえる。そこは確かにキュウが眠っていた場所だ。肥大目に戻ったってことか?
「どういうこと? 生まれたんじゃないの?」
「確かに生まれはしたんだけどな。どうやら早かったみたいだ。呼べば出てくると思うぞ」
「へぇ、そうなんだ」
シエラは生まれた時からずっとラミィと一緒にいたみたいだからどうなのかは知らないけど。そういうものなのかな。
「ラミィから貰った本によると、生まれたては不安定だからこういうこともある、らしいぞ」
「へぇ、そうなんだ」
「ん、ちょっと待て。噂をすればってやつかもしれない」
「え?」
レイヴェルの左目が赤く光ったかと思ったら突然机の上にポンとキュウが姿を現す。
「わっ、びっくりした」
「キュウ!」
く、可愛い。なんて愛らしさ。
改めてじっくり見るとホントに可愛い。なにこのぬいぐるみみたいな感じ。それでいってフォルムはしっかり竜だし。
「キュ、キュウ♪」
「おっと。危ない」
フラフラと危なっかしい感じで飛ぶキュウを思わず抱きかかえる。
まだ生まれたばっかりだから飛ぶのも安定しないのか? それとも単純に寝起きだから? だって前戦ってた時は普通に飛んでた気がするし。
「キュ~♪」
キュウはオレが抱きかかえると嬉しそうにすりすりと頬ずりしてきた。
あ、やばい。これはグラっとくる。この可愛さは反則過ぎる。ダメだ。
くっ、心をしっかり持つんだオレ! ここで懐柔されてしまったらレイヴェルの相棒ポジションを奪われるっ!
「なに百面相してるんだクロエ」
「ちょっと心の中の自分と勝負を……じゃなくて、なんでこの子私にもこんなに懐いてくれるんだろうって思って」
「あぁ、そういえば確かに。確か竜は多少の誤差はあっても、契約した人以外には懐かないって本には書いてあったんだが」
そう。それはオレもラミィから聞いた話だ。
シエラは基本的に人懐っこくてオレとはレイヴェルのも好意的だったから忘れそうになってたけど、基本的に竜は契約した人以外には懐かない。
オレにもある程度懐いてくれてるシエラだって、一線は守ってる感じがあるし。それに比べてこの子は……。
「キュ~♪ キュ、キュ」
「お腹見せてるし」
竜にとって最大級の懐き表現だ。弱点であるお腹をキュウは惜しげもなく晒してる。
むしろ撫でろ、触れと言わんばかりだ。
実際に撫でてみると嬉しそうな声を上げながらキュウは尻尾と羽をパタパタさせる。
「か、可愛い……」
「顔が緩み切ってるぞクロエ」
「はっ!」
「まぁ気持ちはわかるけどな。でも確かに不思議だな。完全にクロエにも懐ききってる感じだ」
「そうなんだよねぇ。まぁそれならそれでいいかも……じゃなくて、私はまだ心許してないからね。そんな誘惑されても負けないんだから」
「キュウ?」
「別にそこに拘らなくても。というか素直に認めろよ」
それからしばらくレイヴェルと一緒にキュウと戯れながら時間を過ごした。
キュウの可愛さに癒され——じゃなくて、キュウのことを少しでも多く知るために。
レイヴェルと相棒ポジションを競うライバルになるかもしれないわけだから。油断はできないのだ。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。そういうことだ。
決してキュウの可愛さに絆されたわけじゃない! ということを強く言っておきたい。
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