第162話 たとえ敵対してでも

 前日の夜。オレはフェティからファーラ達に話を聞いていた。

 オレがフェティに頼んだことというのが『ファーラ達の身辺調査』だったから。

 でもその結果はオレが思っていたよりもずっと真っ黒だった。


「フェティ、今言ったの本当なの!?」

「はい。間違いありません。後、少し声が大きいです」

「あ、ごめん……」

「私の調査した結果によれば、彼ら……ファーラさんとヴァルガさんは完全に黒です。約一ヶ月ほど前から現場でも目撃情報、それだけじゃなくフードの人物達と接触していた場面も目撃されています」

「でも、それだけじゃ……」

「確かに黒とは言い切れません。ですが、決定的な証拠もあります。まず最初に魔物の群れの襲撃ですが……どうにもおかしいと思って森を調べた所、狼族が狩りの時に魔物を追い立てるのに使う魔道具『狼追鼓』が使用された形跡がありました。そして、盗賊達についてですが、そちらも同様です。盗賊達とフードの人物達が接触していたことが確認できました」

「……私達がどのルートを通って行くのか決める時、今のルートを候補に挙げたのは確かにファーラ達だった。そうなるとやっぱり……」


 別に確信があったわけじゃない。いや、違う。むしろ信じたくなかった。

 だからこそフェティに頼んだ。本当はロゼに頼むことも考えたけど、ロゼがいないなら他の誰かに頼むしかなかったから。あのロゼが弟子にした、後継に選んだフェティなら大丈夫だと思って頼んだのだ。

 それでもさすがに驚きは隠せなかったけど。

 色々悩んだし、迷った。ファーラとヴァルガのことを直接問いただすってことも考えた。でもそれをしなかったのは……結局のところ、オレが二人のことをまだ信じたいと思ってたから、いや違うか。甘かったからだ。どこか楽観視してたからだ。

 二人のことを知ってるって、ただそれだけで。


「っ、クロエ……」


 今まさにコルヴァのことを突き殺そうとしていたヴァルガが、間に割って入ったオレのことを僅かに表情を歪める。後ろにいるファーラもどこか後ろめたそうな顔をしてる。

 でもちょっとだけホッとした。まだオレに対して罪悪感を覚えるような感覚は残ってたらしい。

 思わず表情が緩みそうになるけど、そこはなんとか堪える。そんな状況でもないし。


「ヴァルガ、ファーラ……いったい何してるの?」


 ヴァルガの槍を掴んだまま問いかける。

 一瞬ヴァルガの槍が震えた。戦ってる間は心を乱さないヴァルガにしては珍しい反応だ。

 オレが槍を握る力を緩めると、すかさずヴァルガは槍を引いて後ろに下がる。

 コルヴァは……うん、重症みたいだけど、まだなんとかなりそう。


「……そこを退いておくれよクロエ。アタシ達はそいつを殺さなきゃいけないんだ」

「そんなことさせると思う? というか、私の質問の答えになってないよ。私は二人に、何してるのって聞いたの」

「そいつのことを殺そうとしてるのさ。状況を見ればわかるだろう?」

「だからどうしてそんなことを……」

「それがアタシらの本当の雇い主の依頼だからさ」

「本当の雇い主?」

「守秘義務があるからこれ以上は話せないよ。ちょうどレイヴェルも追い付いてきたみたいだしね」


 力を使って本気で走ったからレイヴェルよりも少しだけ早くここに到着することができた。もうちょっとかかるかと思ってたけど、思ったより早くレイヴェルも到着してくれたみたいだ。


「ヴァルガさん、ファーラさんも……」


 複雑そうな顔のレイヴェル。ここに来るまでの間にレイヴェルには簡単に事情を話した。本当なら昨日の内に言うべきだったんだろうけど。こればっかりは判断ミスとしか言えない。


「まぁ、もう言い逃れできるとは思ってないけどね。どこで気付いたんだい? アタシ達が……裏切り者だってことに」

「……最初だよ」

「最初?」

「この国に来て、ファーラ達とあった時。特に理由はないけど、違和感みたいなのがあったから。何か隠し事をしてるんじゃないかって。二人とも……私のこと気付いてたでしょ」

「それは……」

「それなのに、私から声をかけるまで気づかないふりをした。気付いてなかったふりをした」


 そう、そもそもそれがおかしいんだ。自惚れじゃなく、二人がオレの匂いを忘れてるわけがないし。いくら酔ってるからって、同じ店の中に居て二人が私に気づかないはずがないんだ。その時点で少しだけ違和感があった。


「ははっ、まさかホントに最初からなんてね……アタシらもまだまだっていうか」

「あぁ、全くだ。まさか見抜かれていたとは」

「ふふ、何年もあなた達と一緒にいたから。何か隠し事をしてるのなんてすぐにわかった。それが何かまではわからなかったけど……こんなことだったとはね」


 二人の隠し事はオレが思ってたよりもずっと大きなものだった。

 問題は……どうしてこんなことをしてるのかってことだ。


「さすがにさ、これはもう悪ふざけなんかじゃすまないよ?」

「もとよりそんなことは承知の上だ」

「アタシらも悪ふざけでこんなことをするほど馬鹿じゃないよ。もちろん目的はある。そのために色々と必要なのさ。アタシらも手段を選んでられないのさ」


 目的か……まぁそれが何かはわからないけど、裏切ってまで成し遂げたいことか。


「それは私と敵対してでも成し遂げたいことなの?」

「っ、あぁ。そうだね」

「そのためならば俺達はお前達とも敵対しよう」

「……そっか。本気、なんだね」

「あぁ。引くことはできない」

「できればあんた達には怪我させたくないから下がっててほしいんだけどね」


 そっか。やっぱり二人の間ではオレの扱いはまだそういう感じか。

 まぁしょうがないとも思うけど……でも、もうそうじゃないってことを教えてあげよう。


「二人がその道を選ぶって言うなら、私とレイヴェルの敵になるなら……私も容赦はしないよ」


 力を解放する。オレの魔剣としての力。二人が見たことのない力。

 剣へと姿を変えたオレはレイヴェルの手へとおさまる。

 惑いながらもオレの意思を組んでくれたのか、レイヴェルから戦う意思が伝わって来る。


「あなた達が間違った道を行くなら、俺とクロエが止めてみせます」

『全力で抗うといいよ。私達に、本気で勝てると思うならね』


 二人に教えてあげよう。レイヴェルと契約することで手に入れた魔剣の力を。オレが昔のままの、守られるだけのオレじゃないってことを。

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