第239話 グリモア解放戦線
グリモアの現状を知る。そのためには今のグリモアのトップが誰なのかを知る必要があった。
一応、長老達がトップみたいなものだけど。ちゃんと王はいる。でも長老達の持つ権力が大きすぎて王の権威は薄れてると言っても過言じゃないと思う。それはオレが昔行った時からそうだった。
何を決めるにしても長老達だ。決定権は王にあるとはいえって感じだ。それはやっぱり二十年やそこらでは変わらなかったらしい。
まぁ期待もしてなかったけど。
「えーと、長老達はっと……あー、全員あの当時のままか。そりゃそうかもしれないけどさ」
エルフの長命さを考えたら当たり前なんだけど。ちょっとは期待したんだけどなぁ。
この分じゃ代替わりはしばらく先の話になりそうだ。したところでな感じはあるけど。長老に選ばれるのは経験豊富なエルフばっかり。言い換えれば長く生きてるエルフってことだ。しかもハイエルフの血を継いでることが条件だったりもするから、長老になれるエルフはかなり限られてる。
そうしてできあがるのは頭の硬い長老達の集まりだ。若いエルフ達がイライラするのも無理ないと思う。
長老達はエルフの伝統とか、そういうのを守るべきって主張だしね。だからやたら鎖国的だし、よそ者を嫌う。でもどうしたって外部の情報を完全にシャットアウトはできない。
その結果が今グリモア内で起きてるっていう若い人達と長老達の対立ってわけだ。
「こうして読んでると思った以上に根深い対立みたいだなぁ。王都に居た時も若いエルフの人をちらほら見るなぁとは思ったけど、グリモアに嫌気が差して出奔してる人が増えてるんだ」
王都だけじゃない。オレが済んでるイージアでもエルフの人達を見ることは少し増えてる気がした。あくまで昔に比べて、だけど。
で、そんな若い人達に対してキレた長老達が出国を厳しく制限してると。それがさらに深い対立を生んで……負のスパイラルだ。
そう考えると、コメットちゃんはよく国を出れたなって気がするけど。
いや、あの子の立場を考えればできなくはないのかもしれないけどさ。
「で、なになに。若い人達は『グリモア解放戦線』って軍団を作ってると。もうなんか徹底抗戦って感じだねこれは」
リーダー格のエルフは三人。
テイル・ジーラ。
クレイム・ドーク。
ウダゾ・ラック。
この三人が軍団の中心だと。規模の詳細は……調べきれてないのか。まぁ仕方ない。
これだけ載ってたら十分だ。
「ふぅ。それにしても……行くの決めたのは私だけど、また厄介な時期を選んじゃったかもなぁ。でも待ったからって落ち着くわけじゃないし。何よりこの分だとハル達が絡んでる可能性もあるよね」
この調査資料にも書かれてるけど、最近『グリモア解放戦線』の活動が盛んになってるらしい。それは時として武力を行使しての衝突にも発展してるほどに。
今はまだ小競り合い程度だけど、この分じゃいつ大規模な戦闘が発生するかわからない。
問題は、どうして『グリモア解放戦線』の活動が盛んになってるかってことだ。
勢力的に言えばまだ長老達の方が上のはず。正面からぶつかったら確実に負けるはずだ。
なら、その差を埋める何かがあるはずなんだ。そしてその何かがハル達である可能性は否めないと思う。
「まだ想像の段階だけど……なんとなくそんな気がするんだよね」
魔剣としての直感なのか。確実にハルが関わってるとオレの中の何かがそう告げている。
「グリモアに行ったらまずはこの人達とコンタクトを取るべきかな。でも時期が時期だけに相当警戒してるだろうし……うーん、そこもなんとか方法を考えないとな。実力行使でなんとかできることなら楽なんだけど」
とりあえずこれでなんとか最近のグリモアについて知ることはできた。
最低限だけど、グリモアについてからの目標も決まった。
「ま、これとは別にグリモアに着いたらやらなきゃいけないことはあるけど。今は置いておいて大丈夫かな」
一応他の情報にも目を通す。
でも、内容はどれも似たり寄ったりなものばかりで、目新しい情報は無かった。
得られたものといえば、さっき見た情報の裏付けばっかり。
さっき見た情報に間違いはないと改めて思い知らされた感じだ。ついでにスミスター国についても軽く調べたけど、こっちは比較的落ち着いてる感じだった。
あくまで表向きは、だろうけど。オレの予想が正しければ、スミスターの方も騒ぎの種はあるはずだ。でもそれを上手く隠してる。
「あわよくばグリモアのせいに、なんて考えてたりして。あり得ないとは言い切れないんだよねぇ。あの二つの国の関係性を考えると。はぁやだやだ。こっちはただの魔剣少女だっていうのに」
ま、こっちから行ってるようなもんだけどさ。でもまぁ、これも巡り合わせだよね。
「……もう少し細かい情報があるかもしれないし。もうちょっとだけ調べてから宿に帰ろうかな」
少しでも情報は多い方がいい。知ってて損はないわけだし。
どうなるか全く先の見えない状況の中で、その不安を少しでも軽くするためにオレはそれからしばらくの間グリモアの情報を集め続けた。
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