第238話 グリモアの資料を求めて

「とりあえずこれで目的達成かなー。久しぶりに会ってもサクマはサクマだったっていうか……まぁ人間、そう簡単には変わらないよね」


 むしろ今回はオレの血を差し出すだけで済んだだけマシだったかもしれない。

 前回はそれこそ馬車馬の如くこき使われたし。危ない橋は渡らされたし。それだけ高価な薬なのは確かだけど。

 それでも限度ってものがあるだろって話だ。

 でも逆に言えばあの時の苦労が今回は血を渡すだけで済んだって思うと、それはそれで怖いけど。


「それにしても、サクマがあんなこと言ってくるくらいエルフの国って情勢不安なんだ。まぁ伝え聞く話だけでもそれはわかるけど。長老と若い衆の対立か……宿に戻る前にちょっとグリモアについて調べてから帰ろうかな」


 こういう時にフェティが居てくれたら、なんて思うけど。まぁそれはあの子に甘えすぎか。

 一応オレも冒険者なわけだし、レイヴェルやフェティが居なくても情報収集くらいはできないと。戻るのはちょっと遅くなるかもしれないけど、とりあえずこの街の冒険者ギルドに行ってみよう。


「えーと、裏通りはともかくギルドの場所はさすがに変わってないよね」


 冒険者ギルドはだいたいどの街でも一番大きな通りにある。目立つ場所にないと依頼をしたい時に困るし。

 裏通りを抜けて、最初にレイヴェル達と宿を探して彷徨った大通りを歩く。ギルドは案の定というか、大通りの一番目立つ場所に立って居た。

 宿探してた時は気づかなかったけど、昔に来た時よりも大きくなってる気がする。それだけ発展してるってことなんだろうけど。

 イージアのギルドはもう慣れたけど、他の場所のギルドはまだちょっと緊張するというか。いや、そんなこと言ってられないか。

 意を決してギルドの中に入ると、中にいた人の視線がこっちに向く。好奇の目を向けてくる人もいれば、いつぞやの冒険者達みたいに下卑た目を向けて来る人もいた。

 しまったなぁ。裏通りを歩いてた時みたいにフードを被っておけば良かった。いや、それはそれで不審者見る目で見られてたか。

 ため息を吐きながら、オレは受付へと向かう。向けられる視線に関しては諦めるしかない。幸い声をかけてくるような奴はいないし。

 時間的に問題だったのか、それともいつもこうなのかは知らないけど受付が混んで無かったおかげですぐに受付に着くことができた。


「ご用件は?」

「グリモアの情報が欲しいので、書庫を利用したいんですけど」

「ギルドカードはお持ちですか?」

「はい」

「……問題ないですね。あなたはD級ですのでBランク以下の情報でしたらご覧になれます。禁書庫への入室はできませんがご了承ください」

「はい、わかりました」


 ギルド内にある書庫は一応一般にも開放されてたりする。利用するにはそれなりの使用料がかかるけどね。でも冒険者ならその料金は無料だ。駆け出しのD級でもそれは同じ。

 でも情報に規制はかけられる。確か一般人はCランクの情報まで、B級冒険者はBランクの情報まで。A級にまで上がって初めてそれ以上、禁書庫の情報まで閲覧することができるようになる。

 禁書庫……どんな本があるのか気にはなるけど、見れるのはまだまだ先になりそうだ。

 受付の人から受け取った鍵を持って書庫へ向かう。

 まぁBランクの情報までとはいえ、それなりに情報は手に入ると思う。そもそも禁書庫に入るような情報なんて滅多に無いし。

 あ、でもそういえばイグニドさんがオレの情報については禁書庫にも入れられないって言ってたっけ。

 ふへへ、禁書を超えた女……すごいかも。

 って、そんなこと言ってる場合じゃないか。でもこういう時にパッと連絡できる手段があればなー。そしたらどれくらいで帰るか伝えられるのに。

 念話……ちゃんと使えるようにしとくべきかな。レイヴェルとはパスが繋がってるからすぐに転移することはできる。何かあれば今この瞬間にだって駆けつけられる。

 でも念話となれば話が別だ。ちょっと練習がいる。電話みたいに気軽に使えればいいんだけど。帰ったらレイヴェルと相談して練習してみようかな。


「まぁそれは後で考えるとして。エルフ関連の資料はっと……こっちの方かな」


 探しているのは最近のグリモア関連の依頼とここ数年の状況が書かれた資料だ。完全に関係を絶ってるわけじゃないし、多少は情報があると思うんだけど。


「……っと、あったあった。これだ」


 見つけたのはグリモア国に関する調査資料。やっぱりこういうのあるんだ。

 まぁそりゃあるか。この国もグリモア国と仲良しこよしってわけじゃないし。


「う、けっこう分厚いな……いや、でもちゃんと読まないと」


 辟易する思いを抱えながら、オレは資料を読み始めた。


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