第288話 合流

 大きな爆発音を聞いたクロエとコメット達は部屋を出て音のした方へと向かう。


「この爆発音、明らかに普通じゃありませんわ。まさかもう攻めてきましたの!?」

「わからない。だけどこの爆発音は明らかに普通じゃない!」


 爆発音が絶えず響く中、王城内にいた近衛の兵達もあちらへこちらへと右往左往していた。そんな混乱の中でクロエ達は同じく爆発音を聞いて部屋を飛び出してきたレイヴェル達と合流する。


「レイヴェル!」

「クロエ! コメットも無事か!」

「こっちは大丈夫。二人も無事で良かった!」


 合流した四人はそのまま混乱の渦中へと向かう。何があっても対処できるよう剣へと変身したクロエは周囲の索敵を始めるが、その索敵に引っかかる存在はない。

 そして爆発地点へ近づけば近づくほど怒号や悲鳴の声が大きくなっていく。

 爆発に巻き込まれたのか、血を流しながら倒れるエルフの兵士達。救助する者、助けを求める者、原因を探ろうとする者。まさに状況は混迷としていた。


「っ、これは……」

『酷いね』

「なんていうことですの……」

「…………」


 王城の壁は完全に崩壊しており、そこから外の様子が見て取れた。そこでは爆発に巻き込まれずに無事だったエルフ達が巨大な魔障壁を作り上げ、止むことの無い砲撃を防いでいた。


「直接攻めてきたわけじゃないのか」

『遠距離からの砲撃。確かに不意打ちにはもってこいかもね』


 クロエとレイヴェルの脳裏に過ったのはレジスタンスの拠点にあった大量の重火器。その中には当然のことながら大砲のようなものも存在していた。


『あの時はゴーレムにばっかり目を取られてたけど。なるほど、魔法を中心にして戦うエルフ達にとって魔法の力を使わない純粋な火力は予想外だったのかもしれない』


 クロエのその言葉は事実であり、この王城の付近にも魔法に対する障壁は気づかれていた。外界との接触を断っているエルフにとって、外の武器の威力がどれほどのものかなど知るすべも無かった。この数十年他の種族との戦争が無かったことも影響していたのかもしれない。

 気づけばエルフ達にとって脅威となるのは同じエルフ達の魔法であるという認識が無意識に染みついていたのだ。だからこそ魔法への対策は講じていたのだが、今回はそれが裏目に出てしまったことになる。


『どうするレイヴェル』

「どうするもこうするもないだろ。さすがにこのまま放っておくわけにもいかないし。何よりこのままじゃ俺達だって巻き込まれることになる。もしかしたら他の場所も攻撃されてるかもしれないしな。これ以上滅茶苦茶なことになる前に砲撃を止める!」

『ふふ、そうだよね。レイヴェルならそう言うと思った。それじゃあコメットちゃんとアイアルは――』

「わたくしも行きますわ!」

「まさかここで置いてけぼりなんてことはしないよな」

『え、でもこの先は何が起きるかわからないし二人は安全な場所にいた方が』

「だからこそですわ。確かにできることは少ないかもしれません。ですけど、きっとお役に立ってみせます!」

「それにこの状況で安全な場所なんてないだろ。というか忘れてないよな。アタシの目的は親父に会うことなんだけど」

『二人とも……』

「クロエ、心配する気持ちはわかる。俺も正直似たようなことは考えてたしな。でもこの二人だって生半可な覚悟で言ってるわけじゃないのはわかるだろ」

『そうだけど、でも……』


 レイヴェルの言うことはわかる。それでも心配する気持ちが無くなるわけではない。安全な場所など確かに無いかもしれないが、それでも自分達と一緒に前線へ向かうよりは安全だとクロエは考えていたから。


「それにたぶんこの二人、ここで置いて行っても勝手についてくると思うぞ」


 二人の表情は真剣そのもので、だからこそレイヴェルの言葉はクロエにそうなるに違いないと確信させるに足るものであった。


『あぁもうわかった! でもその代わり一つだけ約束して』

「約束?」

『絶対に無茶はしないこと。命の危険を感じたらすぐに逃げること。約束できる?』

「……えぇ、わかりましたわ」

「そもそもアタシだって死ぬつもりは無いしな」

『よし、行ったからね。もし破ったら今まで一番キツいデコピンするから』

「決まりだな。それじゃあ行くぞ!」


 そしてクロエ達は王城を飛び出した。

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