第289話 二手に分かれて
王城から街の中へと飛び出したレイヴェル達が目にしたのは逃げ惑う人々の姿だった。どうやら攻撃されていたのは王城だけでは無かったらしく、いたる所で煙が上がり爆撃の音が響いている。
「この攻撃、無差別なのか?」
「そんなのありえませんわ。だってここにはまだ多くの人達がいるのに」
「どうせなりふり構ってられなくなっただけだろ。今の状況でこんなことする奴ら、レジスタンス意外に誰がいるんだよ」
「それは……」
アイアルの言うことはもっともで、王城を攻撃する理由を持つ者達がいるとすればそれはレジスタンス以外に思い当たる組織などあるはずもなく。たまたま他の国が『グリモア』に攻めてきたとは考えにくかった。
それでもレイヴェルがレジスタンスの仕業だと断言できなかったのは、したくなかったのは前日に出会ったクレイムが居たからだ。クレイムが言っていた民を巻き込むのは本意ではないという言葉それが嘘だとは思えなかったのだ。
(でもクレイムも巻き込みたくないってことは言ってたけど、巻き込まないって断言したわけじゃなかった。いや、だとしてもこんなむちゃくちゃな方法を取るか? もしこんな形で長老達に勝ったとしても、今度はレジスタンスに矛先が向くだけなんじゃないのか?)
抑圧からの解放を目指した革命と呼べば聞こえはいいのかもしれない。だがその実、やっていることはテロそのものだ。もしこのままレジスタンスが勝利したとしても、その先に目指すものがこんな無理矢理な形で手に入るとはレイヴェルには思えなかった。
『レイヴェル、どうするの?』
「どうするもこうするも、今はとにかく止めるしかない。こんなのがレジスタンスのやり方なんだとしたら認めるわけにはいかないからな。このままじゃどんどん被害が広がっていくだけだ」
クロエに問われたレイヴェルは考えるのを止め、とにかくこの砲撃を止めることを優先することにした。今はまだ居住地が狙われているような様子はない。だがそれもあくまで今だけの話だ。いつその矛先が他のエルフ達に向くかもわからない。
「クロエ、砲撃地点を見つけられるか?」
『わかった。任せて』
クロエはレイヴェルの魔力を借りて一気に探知の範囲を広げる。
そしてその答えはすぐに出た。
『レイヴェル、見つけた。だけど……』
「どうしたんだ?」
『なんか変っていうか。こう、上手くは言えないんだけど』
歯切れが悪いクロエの様子にレイヴェル達は顔を見合わせる。
「何か気になることがあるのか?」
『うん。なんていうか上手く言葉にはできないんだけど。でもレジスタンスの人達なのは間違いないと思う。昨日拠点で覚えた反応がいくつもあるから。でも二箇所に分かれてる。どうする? 一箇所ずつ止める?』
「あぁそうだな。今はそれしか」
「それはダメですわ」
待ったをかけたのは意外なことにコメットだった。その表情は真剣そのもので、同時に覚悟を決めたような顔をしていた。
「この状況で悠長に時間をかけているわけにはいきませんわ。一箇所はわたくしが行きます」
『っ、ダメだよコメットちゃん! いくらなんでもそれは無茶すぎる!』
「わかってますわ。それでもわたくしは行かなければ。今まで何もできなかった。してこなかった王族の一員として。今こそ向き合わなければいけないのですわ」
『だからって……』
「だったらアタシもこいつについてけばいいだろ」
『アイアルまで何言ってるの!』
アイアルまでコメットの意見に賛同すると思っていなかったクロエだったが、二人の目を見ればその言葉が本気だということは伝わってきた。
「どういう風の吹き回しですの?」
「別に。ただ二手に分かれるってのはアタシも賛成だ。そんでクロエはレイヴェルと離れられないだろ。でもクロエ達についてくよりはこいつについてった方がまだ役割があるって思っただけ。まぁ不本意だけど」
『でも』
「クロエ」
なおも言いつのろうとするクロエをレイヴェルが止める。
「二人とも本気なんだな」
「えぇ」
「あぁ」
「だったら三つだけ約束して欲しい」
「約束?」
「一つ、絶対に無茶しないこと。二つ、危険だと思ったらすぐ逃げること、そんで最後が――こいつを連れて行くことだ」
「キュウッ♪」
「うわっ」
「きゃぁっ!」
突然姿を現したのはレイヴェルの中で眠っていたキュウだった。ずっとレイヴェルの中で眠っていたおかげか、元気に飛び回っている。
「キュウ、二人のことを頼めるか?」
「キュッ!!」
任せろと言わんばかりに力強く頷いたキュウはパタパタと二人の方へと飛んで行く。
「いいんですの?」
「っていうか大丈夫なのかよ。まだ子供なんだろ?」
「子供でも竜だからな。大丈夫だ。信じてやってくれ」
「……わかりましたわ。でしたら頼りにさせていただきます」
「まぁ見た目は頼りないけどな。って、わ、悪かったって、冗談、冗談だから!」
「キュ、キュウ!!」
そんなことないと抗議するようにアイアルの頭をつつくキュウ。やる気は十分だった。
「こっちも終わったらすぐに駆けつける」
『レイヴェル……あぁもう、仕方無いなぁ。絶対に無茶しないでよ二人とも! キュウもだかだからね、わかった?』
「えぇ、わかりましたわ」
「案外こっちの方が先に終わったりしてな」
「キュウ!」
そしてクロエ達は二手に分かれて砲撃地点へと向かうのだった。
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