第290話 怒りの理由

 コメットとアイアル、そしてキュウと分かれたレイヴェル達はもう一方の砲撃地点へと向かっていた。


『…………』

「…………」

『…………』

「……あー……クロエ? もしかして怒ってるのか?」

『別に。怒ってないけど。もし怒ってるように見えるならそうなのかもね。そう見えるなら』

「その言い方はもう完全に怒ってるだろ。言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」


 これから戦うかもしれないのに、変なわだかまりを残したまま行きたくはない。そう思ったレイヴェルは原因を取り除くために覚悟を決める。もちろんクロエが怒っている、というよりも不機嫌な理由についてはわかっていた。

 

「あの二人を行かせたことか?」

『……わかってるの。レイヴェルだって何も考え無しで行かせたわけじゃないことくらい。あの子達は強いし、キュウだっているしね。それにこっちにいる方が危険かもしれないし』

「まぁそれもある。こっちにはあいつらが来る可能性も高いしな」

『うん。クランとワンダーランド……あの二人ももう絶対にここにいるはず』


 もしレジスタンスの面々と戦うことになったとしても、レイヴェルとクロエの敵にはならない。鎮圧することは容易だろう。しかしクランとワンダーランドの二人に限ってはそんなことも言っていられない。戦うならば全力を尽くす必要がある。

 そしてそうなった時、もしコメットとアイアルが傍にいればそれは付けいる隙になりかねない。

 クランとワンダーランドの二人と戦いながらコメットとアイアルの二人を守るのは簡単なことではない。もちろんコメットやアイアルは守られるだけの存在ではない。しかしそれは普通の戦いならばの話。魔剣使い同士の戦いに割っては入れる実力があるわけではなかった。


『私達といる方が危険かもしれない。だから遠ざける。その理屈はわからなくもないんだけど……ないんだけど、でもやっぱり心配なものは心配だし、納得しきれない』

「まぁだろうな。でもそれは俺達自身の問題だ。ここに居たのが俺じゃなくライアさんなら全部一人で片付けることができたんだろうしな」

『っ』


 ライア・レリッカー。まさしく最強と呼べる冒険者。クロエもレイヴェルも強くなっているという自負はあるが、それでもまだライアに勝てるかと言われれば厳しいだろうというのが本音だった。それほどまでに常識外の力をライアは持っているのだから。

 だがそれを素直に認めるのはクロエにとっては不服で、しかし言い返せない時点でクロエの本音は透けて見えているようなものだった。


「まぁ文句あるなら勝つしかないってことだ。大丈夫、あっちの状況だってキュウがいればある程度はわかるわけだしな」


 レイヴェルとキュウは繋がっている。それはクロエとレイヴェルが繋がっているのと同じように。だからもし何かがあればそれはキュウを通じてレイヴェルにも伝わるのだ。

 

『……そうだね。結局はこれも私の……うん、決めた。何が起こってるのかまだわからないけど、全部解決してアルマのことを捕まえる! 魔剣使いにも絶対に勝つ! 今はそれだけに集中する! ごめんねレイヴェル、もう大丈夫だから』

「俺も気持ちはわかる。でも焦りは禁物、だろ?」

『そうだね今度こそきっと……』


 必ず勝利する。その決意を胸にレイヴェルとクロエは砲撃地点へと急ぐのだった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 同じ頃、レジスタンスの拠点は混乱の極みにあった。


「誰だ! いったい誰が攻撃の許可を出したんだ! 俺達はまだ何も言っていないぞ!」

「知らないわよ! でも急いで情報をかき集めたら若い連中が勝手に大砲とかその他の兵器を持ち出して行っちゃったって!」

「なんだと!? くそ、一体何を考えてるんだ!」

「考えるのは後! それよりも早く解決策を考えないと!」

「あぁそうだな。あの馬鹿共が!」


 レジスタンスの上層部にとっても予想外だった今回の襲撃。本来ならばもう少し作戦を固めてから、堅実に進めるはずだった。しかしそうも言っていられなくなってしまった。

 上層部はそれを若いエルフ達がしびれを切らしたと考えていたが、実際のところはそうでは無かった。


「あはははっ♪ 見てよクラン、あの慌てっぷり。ホントに滑稽で面白いよねー」

「……どうでもいい」

「もう、クランも色んなこと楽しまないと♪」


 木の上からエルフ達を見下ろすのはクランとワンダーランドの二人だった。クランはいつも通りの無表情で、ワンダーランドは心底楽しそうな笑顔で慌てふためくエルフ達を見ていた。


「暇つぶしはもう十分でしょ。行こう、早く終わらせたい」

「はいはい。あの二人ももう来てるだろうし、暇つぶしはこれくらいで十分かな。でも、もうちょっと弄っても大丈夫だよね」


 ワンダーランドはそう言うとちょうど足元を通るエルフの兵士に手を向ける。


「『素晴らしき人形劇ワンダーマリオネット』」

「っぅ。な、なんだ?」

「おいどうしたんだ?」

「いや、今なんか首に当たったような気がして」

「どうせ葉っぱでも落ちて来ただけだろ。そんなことより急ぐぞ!」

「あ、あぁ。わかった!」


 一瞬の違和感など忘れてそのエルフの兵士は離れて行く。ワンダーランドはそんな兵士の様子を見て楽しそうに笑う。


「それじゃあ頑張ってねー、兵士さん♪」

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