第291話 操られた人形
砲撃地点へとたどり着いたレイヴェル達が目にしたのは、三門の巨大な大砲だった。
その前には十数人のレジスタンスの兵の姿。大砲を守るように銃を構えていた。
『こんなこと言うのもあれだけどエルフに銃ってなんか似合わない』
「まぁエルフっていったら弓のイメージだもんな。ここに来た時にあった近衛達は弓や槍を装備してたし」
『別にエルフが銃使ったっていいはずなんだけどね。来るよレイヴェル!』
「話し合う気もなく問答無用か!」
レイヴェル達の姿を視認したエルフ達はなんの躊躇いもなく銃を構えて発砲してくる。
『そんな鉛玉でレイヴェルを傷つけられると思わないで!』
《破壊》の力を薄くレイヴェルの体に纏わせることで簡易の鎧を作る。『鎧化』ほどの防御力はないが、その分も魔力の消費も抑えられる。銃弾から身を守るにはそれで十分だった。
『この銃弾、普通の銃弾じゃないね』
「普通の銃弾じゃない?」
『うん、魔力の属性が付与されてる。炎とか風とか雷とか。剣に魔法属性を付与して魔法剣にすることはあるけど、銃弾に付与されてるのは初めてみたかもしれない。もちろん魔法剣なんかとは比べ物にならないくらい魔力を消費するはずだけど』
剣に魔法を纏わせる魔法剣は一度付与してしまえばある程度の時間は付与されたままになる。しかし銃弾は違う。撃ってしまえばそれで終わり。銃弾が戻ってくることはない。何度も何度も付与する必要がある。そのため、通常の付与に比べて魔力の消費も激しかった。
『そこはさすがに魔法に長けた種族って感じかな。魔力量も並じゃないんだと思う。まぁそれでも見た感じレイヴェルほどじゃないけど……そうやって考えるとレイヴェルの魔力量ってほんんとに桁違いだよね。私が今までに見てきた中でもトップクラスだし』
「魔力量だけあってもな。魔法適性が無いんじゃ宝の持ち腐れだ。いや、今はクロエのおかげで宝の持ち腐れでも無くなったか」
『ふふ、レイヴェルの魔力は私の物だからね』
雨あられと銃弾が降り注ぐなか、そんな会話をする程度には二人には余裕があった。だがしかしだからこそクロエも、そしてレイヴェルも違和感を抱いていた。
『なんか機械的に撃ってくるだけで攻めてこないね。まぁ、これだけ撃たれたら普通は近づけないんだけど』
「俺達が近づいてるのに焦った様子も無いしな」
『それもおかしいんだけど。なんていうかあれって焦ってないというかまるで……』
人形みたい、という言葉をクロエは呑み込む。
無表情で、ただ向かってくるレイヴェル達を機械的に迎撃しているだけ。
それ以上のアクションを起こそうとはしていない。
「とにかく止めるしかない。一気に壊すぞ!」
『うん!』
レイヴェルは高くジャンプすると一気に距離を詰める。そのまま剣を地面に向けて振り下ろす。その衝撃波だけで近くにいたエルフ達は吹き飛ぶ。
「はぁあああああああっっ!!」
『破斬剣!!』
剣を水平に薙ぎ、衝撃を飛ばす。その僅か二撃だけでその場にいたエルフの八割が無力化された。
『なんか手応えがない……ホントにレジスタンスの人達なんだよね』
「それは間違い無い。昨日拠点に行った時に見た顔もちらほらあるしな。でもそれにしては……っ、まだ撃ってくるのか!」
『仲間が倒れてるのに助けようともしないし。ただ命じられたことをこなしてるだけ感がすごい気がする』
拭えない違和感。それが二人の心に募っていく。
しかしそれよりも優先するべきは砲撃を続ける大砲を止めることだ。
銃撃からはクロエが守ってくれるため問題にはならない。レイヴェルはそのまま残るエルフ達を無視すると一直線に大砲へと向かう。
「はぁっ!」
大砲に向けて剣を振り降ろす、しかしその一撃は障壁によって弾かれてしまった。
『うそっ、障壁? 何か仕掛けてあるとは思ってたけど障壁なんてもので守ってるなんて。しかもこの障壁生半可な硬さじゃないし。でも私の敵じゃない! やってレイヴェル!』
「あぁ、任せろ!」
クロエはレイヴェルの魔力を吸い上げるとそれを《破壊》の力に変換する。
この障壁の硬さは生半可な魔法も剣撃も弾くものだったが、クロエの《破壊》の力は生半可ではない。
《破壊》の力さえ纏ってしまえば障壁さえ問題にならず、紙のように切り裂くことができる。そしてそのまま勢いで大砲を三つとも破壊した。
「よし、制圧完了だな。思ったよりもすんなり――」
『そうはいかないかも』
「……やっぱりそうだよな」
倒れていたはずのエルフ達が立ち上がる。その目にはまるで生気が無く、まるで誰かに操られた人形のようだった。
『ほら、もっともっと遊ぼうよ♪』
そんな誰かの意思が、悪意が、二人の前に立ちはだかった。
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