第292話 望まぬ才能
レイヴェル達と分かれたコメットとアイアルはもう一方の砲撃地点へと向かっていた。
「どういう風の吹き回しですの? あなたがわたくしと一緒に行動するなんて」
「別に。大した理由があるわけじゃない。ただあっちに付いていっても足手まといにしかならない。ただそれだけだ。ホントならアタシだって一緒なんてごめんだ」
「それはわたくしの台詞ですわ!」
「はっ。温室育ちのお嬢様が足手まといにならないか心配だけどな」
「それもわたくしの台詞ですわ!」
「キュ、キュウッ!!」
喧嘩する二人を仲裁するようにキュウがその間に割って入る。
「な、なんだよ」
「キュウッ!」
「わかった、わかったから!」
「喧嘩をするなと言っているのかしら。まさか竜に仲裁される日が来るなんて思ってませんでしたわ」
「ちっ、仕方ねぇな。おい、とりあえず今回の一件が片づくまでは休戦だ。実際こいつの言うとおり足を引っ張り合ってる場合じゃないからな」
「言われなくてもわかってますわ」
アイアルもコメットも、自分の力量は把握している。自分一人でこの場を乗り切れるなど甘い考えは持っていなかった。だからこそアイアルもコメットと共に行動することを決めたのだ。
「キュッ!」
「っ、おい止まれ! あっちから誰か来るぞ!」
「あれは……見慣れない武器を持ってますわね。レジスタンスの方々ですの?」
「その可能性は高いだろうな。どうする」
「できれば傷つけたくはありませんけれど……」
「じゃあこのままやり過ごすしかないか」
近くの家の影に隠れた二人はレジスタンスの兵士が立ち去るのを待つ。
しかし――。
「っ!」
コメットが足元にあった小枝を踏んでしまい、その音が兵士達の耳に届く。
「っ、この馬鹿!」
兵士が音のした方に銃を向けて発砲してくる。咄嗟のことに対応できていないコメットよりも早く、アイアルがその間に割って入る。
「『クリエイトウォール』!!」
地面に手をついて魔法を発動するアイアル。二人の身長を超える高さの土の壁が構築され、銃弾を防ぐ。
「あ、あなた……」
「ボサッとするな。すぐに次が来る!」
こうしている間にも銃を撃つ音が響き続けている。そして壁を構築しているコメットはその銃撃が少しずつ壁を削っているのを感じていた。
(普通の銃弾なら完全に防ぐはずなのにどういうことだ。なんでこの壁が削られる!)
銃弾が魔法の属性付与を施されていることを知らないアイアルは、なぜ削られているのかに気づけない。
今レジスタンスの兵士は銃弾に水の属性を付与し、土の壁を柔らかくすることで削っていたのだ。
「こうなったら――っ!」
さらなる手を打とうとしたアイアルだったが、回り込んできた兵士がアイアルに銃を向ける。
「アイア――」
「キュウ!」
いち早く反応したのはキュウだった。発砲するよりも早くその前に飛んで行き、バタバタと翼をはためかせて邪魔をする。
「キュウ、ナイスだ! くらえ『ライトニングボルト』! 『フレイムバースト』!」
「二属性、いえ三属性の同時行使!?」
土属性、雷属性、炎属性の三つの魔法を同時に使ったアイアルに対しコメットは驚きの声を上げる。当たり前のように行ったアイアルだったが、魔法と相性が悪い種族であるドワーフがそれを行ったのだから驚くのも無理はない。たとえエルフであったとしても同時に使えるのは二属性までというエルフが大半なのだから。三つの属性の魔法を同時に行使できるのは限られた一握りの才能有るエルフだけだった。
キュウの妨害によって魔法を避けることができなかった兵士達まともに魔法をくらって倒れ伏す。
「危なかった。ありがとなキュウ」
「キュ♪」
えっへん、と自慢するように胸を張るキュウ。そんなキュウに笑顔を向けていたアイアルだったが、今度は一転してコメットへ厳しい目を向ける。
「おい気をつけろよ。こっちは大人数を相手にできるわけじゃないんだからな」
「わかってますわ。それよりも……」
「? なんだよ」
「いえ、なんでもありませんわ」
たった一つしか魔法の適正が無いコメット。その劣等感がよりにもよってアイアルに刺激され、しかしそれを直接言うこともできずに押し黙る。
「次からは気をつけますわ」
「あぁ……って、何してるんだよ」
「この方達の武器をお借りしますわ。わたくしの魔法は使える場所が限定されますもの」
「でもその銃もう壊れてるだろ」
アイアルの魔法が命中した際にレジスタンスの兵士達の持っていた銃は壊れてしまっていた。しかしコメットは事もなげに言う。
「だったら直せばいいだけの話ですわ」
「いや、直すってそんな簡単な話じゃないだろ」
「実物を見ればわかりますわ」
コメットはそう言うと持っていた道具で銃を分解し、その構造を確かめる。
「幸いこの二つの銃を使えば損傷部分を補って直せそうですわね。五分待ってくださいな。ついでに使いやすいように機能をつけたしますわ」
「…………」
一切の淀みなく、凄まじい手際でコメットは銃を修復する。
その光景にアイアルは言葉を失う。たとえドワーフであっても見ただけで構造を理解できる者はほとんどいない。できるとすれば熟練のドワーフだけ。ましてやその状態で銃を修復するなど、凄まじい手腕と言うほかなかった。
「お前……」
アイアルでは逆立ちしてもできない芸当。それを目の当たりにして思わず手に力が入る。
アイアルが欲した才能をコメットが持っているという事実に。
「完成しましたわ。銃弾を使うわけにはいきませんから、わたくしの魔力を銃弾代わりに撃ち出せるように改造しました。って、どうしましたの?」
「なんでもねぇよ。さっさと行くぞ。今度は見つからないようにな」
「え、えぇ」
アイアルの態度の妙なものを感じながらも、その後に着いていくコメット。
キュウはそんな二人を見て心配そうに息を吐くのだった。
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