第293話 正反対の二人
コメットとアイアルは正面からの戦いは避け、身を隠しながら砲撃地点へと向かっていた。理由は単純で、二人に正面から戦うほどの実力が無いからだ。
長老達への反旗を翻すために訓練を積んできたレジスタンスの兵士達とは違い、二人は戦えるとは言っても素人に毛が生えたレベル。まともにやり合えると思うほど愚かでは無かった。
「キュウ、近くに兵はいるか?」
「……キュ」
ブンブンと首を振るキュウ。
二人が隠れながら進めているのはキュウの存在も大きかった。
コメットもアイアルも索敵が得意では無い。その苦手を補っているのがキュウだった。
ドワーフ族にもエルフ族にも聞こえないレベルの超音波を発し、索敵する。そのおかげで初戦を除いては見つかることなく進むことができていた。
「……ふぅ、なかなか緊張しますわね」
「もう音を上げたのか。はっ、お姫様は情けねぇな」
「むっ、そんなことありませんわ! わたくしはまだまだ大丈夫です! 必要ならこの銃で戦ってみせますわ」
そう言ってコメットが掲げるのは手にした銃。先ほど倒したレジスタンスの兵士達の銃を修理したもの。元々は無かった魔力をそのまま撃ち出す機能を追加した改造銃だ。
その技術はアイアルには決して真似ができないもので、銃を見るたびにアイアルは己の中にある劣等感が刺激されるのを感じていた。
しかしそれはコメットも同じだった。先ほどからアイアルとコメットの足音は消されている。それもひとえにアイアルの魔法があってのことだ。
『サイレント』の魔法。アイアルはなんでもないように使っているが、動く音を消すというのはそう簡単なことではない。それを当たり前のようにこなしているのだから。
コメットには決して同じことはできない。アイアルが魔法を使うのを見る度にコメットは銃を握るその手に力が入っていた。
「あなた、その魔法どこで覚えましたの?」
「? なんで今そんなこと聞くんだよ」
「別に。少し気になっただけですわ。わたくしの知る限り、ドワーフの国では魔法は蔑視……とまではいかずとも、嫌われていると聞きました。そんな状態でどうやって数多の魔法を学んだんですの? それともわたくしの情報が古いだけで、ドワーフの国では魔法が普通に使われてますの?」
「……いや、あんたの言うとおりだよ。うちの国じゃ魔法なんて全然発展してない。むしろ使える奴の方が少ない。使えたとしても使わない奴の方が多い。でもそんな中にあってアタシは全属性に対する適正があったから」
「全属性!? あ、ありえませんわ。そんな方、エルフにだってほとんど……」
「エルフがどうこうなんてのは知らねぇって。ただアタシはそうだったってだけだ。そんで親父ができることは少しでも多い方が良いって言って、魔法のことを勉強できる本を買って来てくれたんだ。そんで勉強して……覚えた」
「本だけで……」
いくら勉強しても、講師に習っても魔法が身につくことがなかったコメットにとってその言葉は衝撃的だった。
「そういうお前こそ、銃を直す技術なんでどこで身につけたんだよ」
「わたくしは……単に独学ですわ。元から何か作るのは好きでしたし。わたくし、一度構造を見れば理解できますもの」
「それこそ理解できねぇよ。なんだよ見ただけで理解できるって。そんなことできるの親父くらいしか知らねぇぞ」
「そんなこと言われましても。できるものはできるんですもの」
「……ムカつく」
「な、なんでムカつかれないといけないんですの! わたくし何もしてませんわよ!」
「存在自体がムカつく」
「なんですのその言い方は! わたくしだってあなたの存在自体がムカつきますわ!」
「「……ふんっ!!」」
そっぽを向くアイアルとコメット。しかし、そんな大声で話していたら当然のことながら気づかれる。
「キュ、キュウ!」
キュウが慌てて声を上げるが、その時はもうすでにレジスタンスの兵士に二人は見つかってしまった後だった。
「今は少々虫の居所が――」
「悪いんだよ!!」
だが二人は慌てる様子すらなく、むしろ抱えた苛立ちをそのままに銃を、そして魔法を放つ。あっという間に二人は兵士を無力化してしまった。
「あなたのせいで見つかったじゃありませんか」
「そっちがでかい声で話すからだろ」
「キュウ~~……」
その後も二人はあーでもないこーでもないと言い合いながら進む。
砲撃地点に近づくにつれて兵士の数も増えていき、完全に隠れることが難しくなった二人は一部の兵士を無力化しながら少しずつ近づいていた。
「それにしても、おかしいですわね」
「おかしいって何がだよ」
「気づきませんの? レジスタンスの方々の様子ですわ。全然喋ってませんの」
「そりゃこんなことしてるのにぺちゃくちゃお喋りなんてしないだろ普通」
「そういうことではありませんわ。わたくし達を見つけた時にも声を出してないんですの。もっと大声を出して仲間を呼べば数でわたくし達のことを包囲できますのに。まぁおかげで助かっている側面もあるのですけど。少し不気味で。まるでただ機械的に動いてるだけのようで……」
「…………」
こうして姿を隠している今も、巡回している兵士達はいる。何度が姿を見られた時、その兵が大声で「見つけた」と叫べばたちどころにコメット達の存在は露見し、包囲殲滅されていただろう。
「……まぁんなこと考えたってしょうがないだろ。別にこっちに不都合があるわけじゃねぇんだし。それよりそろそろ近いぞ」
「わかってますわ」
そしてアイアルとコメットは、砲撃地点へとたどり着いた。
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