第177話 決死の一撃
「さぁて、どこに隠れてるんだろうねぇ」
『ふふ、隠れんぼはいいけど……時間はこっちの味方なのよね』
「焦って出てくるのを待ってもいいんだけど。僕としては直接遊びたいなぁ」
クルトとネヴァンの呑気な声が聞こえてくる。
今すぐ飛び出してぶん殴りたいくらいムカつくけど、さすがにそれはできない。
あの二人相手に油断なんかしたらあっという間にやられる。
毒の魔剣……あの状況でレイヴェルにだけ影響が出たってことは、オレには効かなかったってことだ。
あえて効かせなかったのか、それともオレが魔剣だからなのか……理由はわからない。でも万が一毒が入ったとしても、オレの体内なら力で破壊することもできる。
……レイヴェルとも上手くパスが繋がってたらオレの力で体内の毒を破壊できるのに。
なんでうまく繋がらないんだ?
やっぱり一番考えられる可能性はあの二人の毒だけど。なんというか、直感だけどそれだけが原因じゃ無い気がする。
「ううん、今はそんなこと考えてる場合じゃない。あの二人を攻略する方法を考えるのが優先。なんとか隙をつかないと」
状況は限りなくオレに不利だ。さっきネヴァンも言ってたけど、この状況は時間がかかればかかるほどあっちに有利。オレがこうして隠れ続けても状況は好転しない。対して向こうはいくらでも待てる。
だからどっかのタイミングでオレから仕掛けないといけない。でも無策で突っ込んだ所であしらわれるのは目に見えてるし。残った魔力とも相談しながら、確実に決めないと。
「そこかな?」
「っ!?」
「残念。外れか」
『情けないわね。ちゃんと気配を探りなさいよ』
オレの真横の木を剣撃が通り過ぎる。真っ二つに斬られた木は瞬く間に腐って消えた。あれも毒の力なのか。
正面から受けたらオレでも危ないかもしれない。
どうする……考えろ、考えろ。隙をつくにはどうしたらいい。
焦れば焦るほど気持ちの余裕が無くなる。あのレイヴェルの様子を見るに毒はどんどん強くなってる。
「……行こう。やるしかない」
できることがあるとしたら不意を突いての一撃必殺。残存魔力から考えてもそれしかない。正面から挑んで勝てる気はしないからな。
チャンスは一度。覚悟を決めろ。
木の影から二人の様子を探る。
まだ気づかれてはなさそうだ。できるだけレイヴェルから離れた場所で仕掛けないと。
足音を殺しながら木の影に隠れて移動する。木に細工をすることも忘れずに。
魔力の無駄遣いはできないけど、必要経費だって割り切るしかない。
クルトとネヴァンは余裕の表れなのか、焦る様子もなく呑気に周囲を見回してる。
「後はタイミングを計るだけ。ふぅ……大丈夫。私ならできる。ううん、絶対にやってみせる」
一人で魔剣使いに挑む。その事実に心が折れそうになる。でも、オレの中に残るレイヴェルの魔力が勇気をくれた。
魔力を練り上げて《破壊》の力へと変換する。
「今だっ!」
二人が狙った位置に来た瞬間に一気に力を発動する。
移動の際に付着させたオレの《破壊》の力が木々を圧し折り二人に向かって倒れていく。
「ん?」
『あら』
呑気な声を上げる二人。でもその目に焦りはない。当たり前だ。魔剣使いがただの木程度で倒せるわけがないんだから。
そんなことはオレだってもちろんわかってる。木を倒したのは倒すためじゃない。
一瞬でもいい。隙を作るためだ。
「あぁもう、めんどくさいなぁ」
迫る木に向かって無造作に剣を振るクルト。明らかに胴ががら空きだった。
いけるっ!!
出し惜しみはしない。残った力を全て使って一気に距離を詰める。
「っ!」
「遅いっ!」
クルトがこっちの存在に気付いた時には懐に潜り込んでいた。
「『破鋼拳』!!」
がら空きの胴に向けて渾身の一撃を放つ。これまでで一番の、最高と呼べる一撃だった。
でも——
『うふふっ、あはははははっ!! ざぁんねんでしたぁ♪』
「っ!?」
オレの拳は止められていた。狙った部分に展開した紫色の鎧によって。
『部分的な『鎧化』……まだあなたはできないみたいだけど。『鎧化』する部分を一部に絞ることで耐久度を上げるの。まぁほとんど使う場面はないやり方なんだけど。あなたの力に対抗するにはぴったりでしょう?』
「そんな、どうして……っぅ!」
手に燃えるような痛みが走って距離を取る。
まさか、毒の……っぅ、熱い……。
見るも無残なというか、オレの右手は焼けただれていた。あの『鎧化』に触れたからだろう。さすがに直接触れたら耐えられないか。
『あらら、痛そうねぇ。でも……滑稽よねぇ。本当に気付かれてないと思ったの?』
「気配がだだ洩れというか……まぁ頑張って消してた方だとは思うけど、でもさ甘いよねぇ。狙ってるのがバレバレだったよ。まさか一人で戦う気があるとは思わなかったけど」
『そうね。さっきの一撃、わかってはいたけど一瞬ヒヤッとしたもの。あなた、魔剣のくせに自分一人でも戦う練習してるのね。そういうことをする魔剣もいるのは知ってたけど……契約者の力を信用してないのかしら?』
「っ、そんなことない!」
『どうかしら? 私にはそういう風にしか見えないけど』
「まぁどうでもいいでしょ。どのみち君達は終わりなわけだし」
『そうね。ねぇ、どんな気分なのかしら? 決死の一撃が通用せず、大切な人を助けることもできずに負けるのは』
「私は……」
『無駄よ。さっきの一撃で決めれなかった時点であなたの負けは決まってるもの』
言い返せない。それはどうしようもない事実だからだ。
オレの中に最早力は残ってない。レイヴェルの魔力も全部使いきった。この状態じゃできることは何もない。
でも、それでも……諦めるなんてできるわけがない。
「いいねぇ、その目。まだ諦めてないんだ。すごいなぁ。普通ならもうとっくに折れてるのに。ひひ、いひひっ、あぁ楽しいなぁ」
嗜虐心にまみれた目で見られて背筋がゾワッとする。
楽に殺すつもりはないってことか。でも、最後まで諦めてたまるもんか。
「それじゃあ——ん?」
『これは……ふふっ、まだ楽しめるってことかしら?』
二人の視線がオレから逸れて、後ろへと向く。
でも、その方向にいるのは……。
「…………」
「レイ……ヴェル?」
そこには、幽鬼のように表情の抜け落ちたレイヴェルが立っていた。
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